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料理人はなぜ備長炭を使うのか?

こんな疑問をもつ方に読んでほしい
・備長炭はどんな人が、なんで使ってるの?
・備長炭じゃなきゃいけない理由ってなに?
・面倒だからガス火や、電熱器でも良くね!?

今回お伝えしたいこと
料理人さんが備長炭のことを学ぶ意味・価値

こんなことが書いてあります
・備長炭だけが持つ唯一無二の燃焼特性
・備長炭でしか実現できないこと
・備長炭を使わない方が良いケース


備長炭は使いにくい

江戸後期から現代までの200年間、日本の料理人はなぜこんなに使いにくい道具を使い続けてきたのでしょうか?

ガス火、電気グリル、薪火、BBQ炭、オガ炭。

ほかの熱源と比べると、備長炭はけっして安くはないし万能でもありません。

とくに炭火初心者の方にとっては、着火しづらかったり爆跳したりすごく扱いにくい道具だと思います。

ちゃんと燃焼させるためには燃焼器もなんでも良いわけじゃありません。

ただ、一度その便利さを知ってしまうと、もうほかの熱源を使おうとは思えなくなるほどの魅力があります。

答えは、「備長炭だけが持つ唯一無二の燃焼特性」にあります。

1.「高火力」だが、「高温」ではない⁉︎

ガス火や電熱器、備長炭より柔らかい木炭など、ほかの熱源と比較したときに備長炭だけがもつ燃焼特性は、

低温なのに、食材に多くの熱を伝えることができること。

これは少し科学っぽく言うと、

備長炭の燃焼における2つの特徴
①燃焼温度が低いこと
②赤外線量が豊富であること

これは私も直感的には理解できませんでした。

ふつうは食材に多くの熱を伝えようと思ったら、強い炎で焼きたくなりますよね。

でもこれは鉄板やフライパンや鍋を使うからできることであって、直火焼する炭火焼きだとできない焼き方です。

焦げるばかりで食材に熱が伝わらないんです。

炭火の中でも備長炭は、もっとも燃焼温度が低いのに赤外線密度が高いです。

備長炭は高火力だと言われています。

ほかの熱源より早く焼けるからそう言われがちですが、実は熱源の燃焼温度は低い

だからコゲにくい。

この備長炭にしか両立できない2つの燃焼特性があるため、日本の料理人は備長炭のような世界の木炭の中でも特殊すぎる木炭を使い続けてきました。

ではこの特徴が、具体的にどんな場面で効いてくるのか?

一般的に言われている備長炭だからできること、できないことをまとめてみました。

Bincho-charcoal

2.備長炭だからできること

代表的な具体例だけ書き出してみました。

生魚
・水分を多く含んだまま加熱できる
・表面をパリッと仕上げることができる

干物(干魚)
・生臭さを消すことができる

海苔
・色を落とさず、香りを引き出せる

玉子焼き
・気泡の少ない密度のある生地に仕上がる

うなぎの蒲焼き
・ゼラチン質までには熱がしっかり入る
・小骨を焼き切ることができる
・焦げやすいタレを焦がさずに加熱できる

鶏肉

・皮目もパリッと仕上げることができる
・タンパク質が収縮せずふっくら焼ける

牛肉

・水分、脂肪の多いホルモンでも早く加熱できる
・塊肉でも早く加熱できる

せんべい
・焦げやすい醤油でも焦げにくい

和菓子
・豆をふっくら煮ることができる
・煮切る場合は焦げにくいので、特に有効

これらはすべて、ガスや炎の熱源と比べて燃焼温度が低いからできることです。

早く熱が伝わるけど、低温。

だからコゲにくい。なのに冷めにくい。

これは多くの熱源の中でも赤外線量が多い備長炭にしかできないことです。

では逆に、備長炭だからできないこと、やりにくいことってなんでしょうか?

3.備長炭だからできないこと

・表面だけさっと炙る調理には向かない
食材に赤外線で熱を伝えてしまうと、食材が冷めにくくなります。

余熱で熱が入ってしまうので、表面だけさっと炙って「外側だけ焼き固めて、中心は生」といった調理には向きません。

その場合はやはり、ワラのような高温の炎が出るような熱源の方が、熱が中まで入らずに表面だけ焼き固めることができます。

・表面をクリスピーな状態にはしにくい
とくに牛肉などは表面を揚げたようなザラザラとしたクリスピーな状態まで焼き上げたい場合が多いと思いますが、備長炭でやるのはむずかしいです。

ガンガンにあおいで高温にしておかないといけないからです。

これをやるなら炉窯を用意するか、もっと柔らかい木炭を選んだ方が簡単にできます。

できないことって、ほかにありますかね?

なんかあったら、ぜひコメントで教えてほしいです!


本日のまとめ

✓ 備長炭には唯一無二の燃焼特性がある
✓ 備長炭は低温なのに、熱を多く伝えられる
✓ 備長炭は焦げ易い・水分脂分の多い食材に有効



応用すれば、いつまでも温かいスープ、しっとりとしたケーキなんかも作れそうです。

作り続けてきた日本の製炭師はスゴイ。その特徴を利用して、使い続けてきた日本の料理人もスゴイ。

和洋問わず多くの料理人さんに炭火の伝統を受け継いでいただきたいです。

ではまた来週、よろしくお願いします!


今回の参考文献

①『伝熱概論』甲藤好郎 養賢堂

②『熱輻射論講義』マックス・プランク 岩波文庫

③『熱学入門』藤原邦男 兵頭俊夫 東京大学出版会


Writer:

ホンダタロウ/炭火研究家 @HIROBIN

ふだんは備長木炭の生産→流通→消費のうち、
「流通」を担っています。

世界の伝統文化、アート、JAZZが好きです。

Instagram:@hirobin___taro.honda___
twitter:@sumibinogakkou

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