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【絵本レビュー】 『パンのかけらとちいさなあくまーリトアニアの民話』

再話:内田莉莎子
絵:堀内誠一
出版社:福音館書店
発行日:1992年2月

パンのかけらとちいさなあくま』のあらすじ:

小さな悪魔は、貧乏なきこりからパンのかけらを盗んで得意になっていましたが、大きな悪魔たちにたしなめられ、おわびに、きこりが借りた役に立たない沼地を畑に変えることにしました。小さな悪魔は、大きな木をひっこぬき、沼の水を飲みほして、見事な麦畑にします。ところが、それを見た地主が収穫した麦を全部もっていってしまったので……。


パンのかけらとちいさなあくま』を読んだ感想:

なんて やつだ! びんぼうな きこりの だいじな べんとうじゃないか

悪魔って悪いことをするばかりじゃないだと、なんだか悪魔に親近感を持ってしまいました。確かに私の知っている限りでは、悪魔と取引をするのは大抵何か欲を出した人や現実を変えようとした人です。もしかしたら毎日コツコツと自分のできることをしている人には、悪魔は寄ってこないのかもしれませんね。

悪魔というと外から攻撃してくるというイメージがありますね。他の人が不幸になるように仕向けたり、他の人に精神的、身体的なダメージを与えたりします。困るのは、いつも鬼みたいに角を生やし、長い尻尾があるとは限らないことです。もしかしたらそれはご近所さんの顔をしてるかもしれないし、同僚やクラスメイトの顔をしているかもしれません。さらには私たちの大親友の顔をしていることだってあるのです。信頼していたらいきなり不意打ちを食らうということもあるでしょう。気が付いた時にはすでに時遅し。人間への不信感も生まれてくるでしょう。

でももしかしたら悪魔って私たちの中にもすでにいるのかもしれません。

私たちは今キッチンのリフォームをしています。六年前に引っ越してきた時、三日後にインド行きを控えていた旦那(当時BF)が、「一時しのぎ」と言って買い出しに一日、組み立てに一日で仕上げたものを、今の今まで使っていました。奥の皿を取ろうとするたびにシンクの尖った角がこめかみに刺さりそうになることにも慣れてきていました。それをようやっとや押すことになって、すべての棚のものを取り払ったのですが、さあ戸棚が取り付けられたということで、また全部戻さなければならなくなりました。コップや皿はもちろん、日本から送ってもらったふりかけの袋や混ぜるだけなんとかの小袋たち、乾物や乾燥マメ類など細々したものが山ほどあるのを、全て振り分けなければなりません。このまま箱に入れておいてもいいんじゃないか、積み上げられた箱たちを見て憂鬱になります。

「今日は忙しいから、明日でいいよなあ」
そんな風に自分で言い訳を作って、箱の前を素通り。それを何回か繰り返しているとなんだか罪悪感に駆られてきます。一日中なんだかモヤモヤ。指を鳴らしたらあっという間に戸棚に全てが収まっていたら。。。そんな妄想に浸ってみたりもします。

一体どうしてこんなに腰が重いのでしょう。
これって悪魔なのでは?
「いいじゃん明日で。きっと旦那がやるんじゃないかな。」
これって悪魔のささやきですよね。

新しい台所に何もかもが綺麗に収まった様子をイメージしてみました。今までのキャンピングみたいなキッチンとはおさらば。まるでモデルハウスみたいにきちんとした戸棚を想像します。いいね。気持ちも落ち着いてきます。台所に立つのも楽しみになるし、綺麗に保っておきたいから掃除だって苦になりません。

オーガナイズし終わったら、私はこの台所が好きになる。もしかしたらこの小さいアパートでいちばん好きな場所にだってなります。友達だってもっと頻繁に呼びたくなるでしょう。そんなことを具体的に描いているうちに、ぎっしり食材が詰まって積み上がっている箱だってもう怖くないような気がしてきました。

私はやっと腰を上げ、日曜の午前中を棚卸しに費やしました。まだまだ箱は残っているけれど、数箱は確実に空になりました。綺麗に並んだお茶の袋を見ながらニンマリと笑顔すら浮かんできました。さっき頭に描いていた台所に少し近付いてきた気がします。

悪魔って思っているよりずっと近くに潜んでいるんですね。


パンのかけらとちいさなあくま』の作者紹介:

内田莉莎子
1928年東京生まれ。早稲田大学露文科卒業。ロシア・東欧の児童文学、昔ばなしなど、子どもの本を多数翻訳紹介。主な翻訳絵本に、『おおきなかぶ』、『てぶくろ』、『しずくのぼうけん』(すべて福音館書店)、『ちいさなヒッポ』(偕成社)などがある。1997年3月逝去。

 
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