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【絵本レビュー】 『こころのおと』

作者/絵:ピーター・レイノルズ
訳:なかがわちひろ
出版社:主婦の友社
発行日:2016年6月

『こころのおと』のあらすじ:

主人公ラジは、あふれる音を心のままに弾いていた少年。その音を愛した父は、息子の才能を伸ばそうと、音楽教師を招くが…。


『こころのおと』を読んだ感想:

毎日三十分のピアノの練習が私は嫌いでした。

指の練習、テクニックそして課題曲と、毎週三冊の本を練習していました。ウォーミングアップの指の練習は楽しいと思いましたが、テクニックそして課題曲になる頃には大抵退屈していて、私は音がどんなふうに響くのかピアノに耳をつけて鍵盤を押したり、ピアノの上の蓋を開けたり閉めたりして音が大きくなったり小さくなったりするのを聞いて遊んでいました。

ピアノの音が止まると父が様子を見に来るので、私はだんだん勝手な曲を弾くようになりました。曲なんて言えるものではありません。ただ勝手に音を楽しんでいただけでした。私は自分がすごい作曲家であることを想像して、目をつぶりながら勝手に音を鳴らしました。そんな適当な音なのに父は一度も観に来なかったので、それなりに耳障りではないメロディができていたのかもしれません。

私とピアノの先生の話はどこかでお話ししましたが、私は先生が怖くて毎週腹痛を訴えたので、六年生のある日先生から辞めていいですと言われてしまいました。私は正直ホッとしたのですが、がっかりしたのは父でした。父は私にジャズピアニストになってほしくて、私の名前もジャズに関係するところから取ったし、三才から教室にも通わされていました。六年生の時の先生で三人目だったのですが、どの先生も「怖い」というのがやめた理由でした。今振り返ると、最初の二人は最後の先生に比べたらもう天使みたいでしたけどね。

クラスが楽しくなかった。これが本当の理由だったと思います。毎週のように課題が出され、家でも毎日のように知らないつまらない曲を弾かされている。それが嫌だったんだと思います。私の中での音楽とは、人が集まった時にみんなが歌ったり踊ったりできるもの。演奏者と聴衆が一緒に楽しめるのが音楽だと私は思うのです。もちろんきちんと座ってクラシックコンサートを聴くのも素晴らしいと思います。でも私が演奏するときは、みんなが歌ったり踊ったりして楽しんでほしいなといつも思っていました。

そこへたどり着くことなく、私はピアノをやめてしまいました。踊るのが大好きなうちの五歳児を見ながら、「何か楽しい曲が弾けたらなあ」とホコリをかぶった電子ピアノをうらめしく眺めています。

私はまたあの時の創造の作曲家になれるのでしょうか。教本を脇に置いて好きな音だけ集めていたあの時に、戻ってみたいなと思うのです。「アートは自由」そして「自分が楽しんでしたことが伝わる」という気づきが、先日の絵本を通じた自分探しの旅でありました。そうか、まずは私が楽しまなくちゃいけないんですね。まずは音だけでも出してみようかな。


『こころのおと』の作者紹介:

ピーター・レイノルズ(Peter H. Reynolds)
1961年、カナダ、トロント生まれ。絵本作家、イラストレーター。ベストセラー『ちいさなあなたへ』ほか、『テスの木』『きみがいま』(主婦の友社)。そのほかに、絵を描く楽しさを伝える『てん』(あすなろ書房)『っぽい』『そらのいろって』(主婦の友社)など、作品多数。米国マサチューセッツ州在住。 なかがわちひろ:創作絵本や童話、海外絵本の翻訳など、児童書のさまざまな分野で活躍。創作絵本に『のはらひめ』(徳間書店)、童話に『かりんちゃんと十五人のおひなさま』(偕成社・野間児童文芸賞)、『天使のかいかた』(理論社・日本絵本賞読者賞)、そのほかの著書に『カモのきょうだいクリとゴマ』(アリス館)、『おえかきウォッチング - 子どもの絵を10倍たのしむ方法』(理論社)など。翻訳に『105にんのすてきなしごと』(あすなろ書房)。ピーター・レイノルズ作品は、『ちいさなあなたへ』『いちばんちいさなクリスマスプレゼント』(主婦の友社)など、数多く手がける。



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