見出し画像

【絵本レビュー】 『第二番目の悪者』

作者:林木林
絵:庄野ナホコ
出版社:小さい書房
発行日:2014年11月

第二番目の悪者』のあらすじ:

金色のたてがみを持つ金ライオンは、一国の王になりたかった。
自分こそが王にふさわしいと思っていた。
ところが、街はずれに住む優しい銀のライオンが
「次の王様候補」と噂に聞く。
ある日、金のライオンはとんでもないことを始めた―。


第二番目の悪者』を読んだ感想:

「ねえねえ、聞いたんだけど。。。」
「ネットで読んだんだけど。。。」

誰かから聞いた話やネットで読んだ情報を別な誰かに話した経験って誰にでもありますよね。私にもあります。特に悪気もなく話題の一つとして話してしまいますね。でもそんな何気ない会話が問題のきっかけとなってしまったり、誰かを傷つける結果となってしまったこともあると思います。

私の義母は旦那曰く「ローカルラジオ局」。聞いた話を誰にも彼にも話してしまうのです。年に一回ほど私たちを訪ねてきますが、滞在中ずっと私の知らない「誰々さん」の話をしているのですが、実はそれを聞いているのも私としては辛いのです。

第一に私はその人たちのことを知りませんし、またいつか会うような人たちでもありません。だからそんな情報を詰め込まれても困るのです。第二に、そんなに私に他人の話をするということは、私の話も他の人たちにしているということなので、私は自分の最近の状況などを話す気がしなくなり、会うたびに口数が少なくなってしまっているのです。

問題は彼女には全く悪気がないし、噂を広めているという意識もないというところです。彼女にとっては単なる社交的な会話であるのですが、その話題は彼女の他の息子たちのガールフレンドや奥さんたちにも及ぶので、返答にも困ります。できることなら聞きたくない、というのが心情です。

そんな噂話を一日中聞いてぐったりな私が唯一できることは、忘れることです。知らない他人の話は簡単ですが、知っている他人のこととなると少し難しいです。なので、彼女の話の真偽を分析することにしました。それは彼女が「思う」ことなのか、誰かに聞いたことなのか、何かのデータに基づいて言っている事なのかをまず考えます。大抵は勝手な推測や意見なので、落ち着いて忘れることができます。やれやれ。

でも、もしその人たちが私も知っている人で私の友達の輪に入っていたら、私はどう対応するんでしょう。私が大抵するのは、他人の話題は避ける、です。もし聞いてしまってその話題の人に会うことになったら、全く関係のない話をします。私はフクロウおばさんや小鳥のように正義を持って立ち上がる勇気はありませんが、少なくとも根拠不明な噂話に翻弄されたりそれを広めたりすることはしたくないと思っています。私一人では意味がないのかもしれないけれど、少なくとも私で噂は止まると信じています。

「二番目の悪者」って事件の傍観者と似ているかもしれないと思いました。

スペインにいた時、真っ昼間に強盗に遭いました。強盗と言っても、刃物などで脅されたのではなく、後ろから首を絞められ気絶したところをスられたのです。襲ってきたのはスクーターに乗ったティーンエージャー。一人は十六歳くらいに見えました。

後ろから襲われたのになぜわかったのかというと、私は彼らと道ですれ違ったとき見たからです。その時は昼の二時ごろ。道には私たちのほか誰もいませんでした。そう、スペインでは昼ごはんの時間なのです。私はコピー屋さんからの帰り道で、バッグの中には日本語教材と文庫の『雪国』が入っていました。財布には最高でも十ユーロ(千二、三百円)くらいしか入っていませんでした。当時アジア人はスリに狙われやすかったので、大きな現金を持ち歩くことは習慣的になかったのです。しかも、コートの前が開いていたとはいえ、バッグはコートの内側に肩から斜めがけしていました。

スクーターに乗った二人とすれ違って一分も経つか立たないかしたとき、私の首の周りにダウンジャケットの腕が絡みついていました。
「やばい、やられる!」
咄嗟に私は前屈みになろうとしましたが、ときすでに遅く、目の前が真っ暗になりました。

どのくらい気絶していたのかはわかりませんが、私は夢を見ていました。その夢の中で別な私が寝ていることに疑問を感じたのです。
「何で私寝てるの?」
そう思った瞬間に目を覚ましたのですが、私の目の前には真っ青な空が広がっていました。

寝ていたとすれば自分のうちか、少なくとも室内であるはずなので、私は一瞬戸惑い、それが空で私は道の真ん中にひっくり返っているということに気づくまで少しかかりました。
「やられた。。。」
そう思いながら、先ほど横をすれ違った少年たちの顔が思い浮かばれました。

私が倒れている間にどうやら誰も通らなかったようです。さすがスペインのランチタイム。私は立ち上がり、埃を払ってどこか怪我をしていないかチェックしました。肩掛けバッグは紐を切って持っていったのでしょう。どこにも落ちていませんでした。盗んだ彼らも日本語教材と文庫本では拍子抜けしたことでしょう。そんな彼らの様子を想像することで、盗まれた怒りも少し和らぎました。

さて、私が歩き始めると、十五メートルほどのところにインターネットカフェがあり、店の者が五、六人勢揃いして立って様子を見ていました。私が近づいてくるのを見ると口々に、
「男の子たちがあっちに逃げてったぞ!モロッコじんだ!ひどい奴らだ!」
と叫び始めました。

「警察に通報した?」
そう聞く私たちに、居心地悪そうにただ首を振る彼ら。
「私道の真ん中で気絶してたんですけど?頭の打ちどころが悪くて死んでたかもしれないよね?」

彼らはバイスタンダーです。事件の目撃者でもあります。全員私同様移民の人たちだったので、もしかしたら警察が来ると都合が悪いこともあったかもしれません。でも彼らは確実に傍観者として何も行動を起こしませんでした。絵本の第二の悪者は行動を起こして人を傷つけてしまったけれど、何もしないことで傷つけることもありますよね。

無責任な行動に気をつけなくてはと、背中が少しピシッとした絵本でした。




第二番目の悪者』の作者紹介:

林木林
山口県生まれ。詩人、絵本作家、作詞家。 ことば、ことばあそびに関する作品も数多く手がける。 おもな絵本に『あかり』(光村教育図書)、『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』(303 books)、 『おちゃわんかぞく』(白泉社)、翻訳絵本に『でんごんでーす』『くまさん どこ?』(講談社)、 「ぜったいあけちゃダメッ!」シリーズ(永岡書店)など。 2020年の新刊に『こもれび』(光村教育図書)、『どんなふうに みえるの?』(鈴木出版)、 『みどりのほし』(童心社)がある。 詩のボクシング全国大会で優勝。サンリオ詩とメルヘン特別賞などを受賞。 『ひだまり』(光村教育図書)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。

 
林木林さんの他の作品


サポートしていただけるととても嬉しいです。いただいたサポートは、絵本を始めとする、海外に住む子供たちの日本語習得のための活動に利用させていただきます。