【絵本レビュー】 『よるくま』
作者/絵:酒井駒子
出版社:偕成社
発行日:1999年11月
『よるくま』のあらすじ:
昨日の夜、ぼくのところにやってきたくまの子「よるくま」とぼくの一夜のお話。いなくなってしまったよるくまのお母さんを一緒に探しに行く冒険物語。
『よるくま』を読んだ感想:
「ねえ、ママ。ぼくね、よるでもみえるんだよ。」
うちの五歳児が教えてくれました。私たちは寝室が一つしかない小さなアパートに住んでいるので、親子三人が一緒に寝ています。一体何が見えているんだろうとちょっとドキッとしましたが、そういえば真っ暗闇の中でさっと手を繋いで来たり、水の入ったボトルを取ったりしているので、結構よく見えているのかもしれません。
私は一体いつから一人で寝るようになったんだろう、と今独り寝トレーニング中のうちの五歳児を眺めながら考えていました。幼稚園で叫びまくって跳ね回って来た彼は大抵疲れていて、眠りに落ちるまで天井を眺めているということはあまりありません。でも本を読んで部屋を出ようとすると、「ねえ、ママ」と始めて、私を引きとめようとします。
「音楽をかけるね」
最近はそう言ってリビングへ行き、リラックスできる音楽を少し大きな音量でかけます。アパートが小さいことの利点ですね。寝室で聞くとちょうどいい音量です。
十分くらいしてそっと寝室を覗くと、息子はイケア出身のくまちゃんを抱いて寝息をたてています。前までは見向きもしなかったぬいぐるみたちが独り寝のお供となり、最近では大切にするようになりました。さらに私も今まで添い寝に費やしていた三十分から四十五分が自分の時間となり、独り寝バンザイと喜んでいます。
私もお気に入りのぬいぐるみと寝ていました。右にパディントンベア、左にカンガルーの親子、そして毎日肌身離さず持っていたタオル、というのが私のおきまりの三点セットでした。くまとカンガルーに鼻をうずめておやすみを言って、タオルの角をさすりながら寝るというのが常でした。
夢にお気に入りのぬいぐるみが出て来たことはありませんが、私は夢の中でよく物を無くしたようです。一つよく覚えている夢は、家族でスキーへ行ったこと。
私は一人乗りのリフトに乗っていました。足の下には雪をかぶった木々がありました。私は片手でリフトのリフトの棒を掴み、もう片方に持った日本のストックで木のてっぺんについた雪を払っていました。何かに気を取られた瞬間、ストックが枝に引っかかりストックが一本落ちてしまいました。
さあ大変、私は後ろを振り返りストックを目で確認しようとしました。リフトはぐんぐん登って行きます。私は大きな声で叫び始めました。
「ストック! ああ、ストック!」
少し行くとリフトはゲレンデの上に出ました。下を見るとそんなに高そうには見えません。下を滑って行くスキーヤーを確認して、私はリフトから飛び降りました。
「プープープー」
ゲレンデに警戒のブザーが響き、リフトが止まりました。私はゲレンデに立って、ストックを探し始めました。頭上から叫び声が聞こえますが、それどころではありません。ストックが見つからなかったら大変です。私は木の間に入ろうとしていました。
すると突然誰かに肩を掴まれたのです。びっくりした私は、なんとかしてその手を払いのけようとしました。でも手の力は強く、なかなか離してくれません。
「ストック!ストックがない!」
叫ぶ私の後ろで父の声がしました。
「パパが探しに行くから、大丈夫だぞ。」
そう言って私は別の手の中に渡されました。母の声がしました。
「ママと待ってよ。」
私は立たされて、脇に座らされました。
その時私は少し目が覚めかけていました。私はベッドの壁の間に寝ていたようです。リフトから飛び降りた時、ベッドから飛び降りたのでしょう。私は「大丈夫、大丈夫。」という両親に連れられてベッドに戻りました。あのストックは見つかったのだろうかと、時々思い出して一人苦笑します。
翌朝、台所で私を迎えた父は、やっぱりニヤニヤしていました。
『よるくま』の作者紹介:
酒井駒子
1966年兵庫県生まれ。『ゆきがやんだら』(学研)はオランダで銀の石筆賞を受賞。『きつねのかみさま』(ポプラ社・作:あまんきみこ)で日本絵本賞。『金曜日の砂糖ちゃん』(偕成社)でブラティスラヴァ世界絵本原画展金牌賞。『ぼく おかあさんのこと...』(文溪堂)では、フランスでPITCHOU賞、オランダで銀の石筆賞を受賞。 絵本に『よるくま』(偕成社)、『ロンパーちゃんとふうせん』(白泉社)など多数。
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