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【絵本レビュー】 『すずめくん どこでごはんたべるの?』

作者/絵:たしろちさと
出版社:福音館書店
発行日:2016年5月

『すずめくん どこでごはんたべるの?』のあらすじ:

すずめくんは今日も動物園で動物たちのごはんをつまみ食い。カバのところではサツマイモを、キツネのところでは果物を、ライオンの檻ではお肉をパクッ! キリンといっしょに水を飲み、ゾウのところで砂浴びし、ゴリラのそばでひと休み。でも、うっかり大きなワニに近寄ったら…! ?


『すずめくん どこでごはんたべるの?』を読んだ感想:

ロシアの詩人、サムイル・マルシャークの詩をもとに、舞台を日本の動物園に置きかえて絵本にしたそうです。原題は THE SPARROW KNOWS GOOD RESTAURANTS IN THE ZOOです。彼のオリジナルの詩も読んでみたいですね。

ベルリンでは、テラス席に座っているとすずめたちがやって来ます。最初は遠巻きに見ているけれど、少しずつ近づいて来て、大抵度胸のある一羽がふわりと飛び上がってテーブルの上にあるものをチェックしに来ます。パンくずやケーキのかけらがポロリと落ちると、これは幸いとパッと飛びついて来ます。一番早かったすずめが満足げにもぐもぐ。他のすずめたちは次のチャンスを待って、テーブルの上の方を見つめています。首を傾げて待っている様子は可愛らしく、お客さんたちもテーブルに上がってこない限りは、あまり追い払うということもしません。

私は子供の頃、巣から落ちたすずめの赤ちゃんを拾ったことがあることは、以前お話ししましたが、あの時私はあの小鳥を助けてあげることはできませんでした。こんなに可愛いすずめたちだけれど、ここで元気に餌を探しているということは、強く生き延びた鳥たちなんだなあと、私はなんだか感慨深く見てしまうのです。

数日前家に帰る道の片隅で何か跳ねているものを見つけました。一瞬ネズミかと思ったのですが、立ち止まってみるとすずめでした。すずめは街灯の下の雑草の中を埋もれるように跳ねながら何かをついばんでいました。私が近づいても飛び去る様子もなく、草に頭を突っ込んだり出したりしていました。お腹がとても空いているとしても、ベルリンのすずめが人に慣れているとはいっても、全く逃げようとしないそのすずめを私はちょっと不思議に思いました。それですずめの正面に回り込んで、ちょっと屈んで見てみたのです。

顔を上げたすずめの様子がちょっと変です。せわしなく頭を上げたり下げたりしているので見づらいのですが、すずめの首のあたりに何か茶色いものが見えました。葉っぱでもついているのかと思いましたが、しばらく見ているとそれがすずめの顔ほどもあるイボのようなもであることがわかりました。子すずめではなかったので、そのイボはだんだん大きくなって来たのかもしれません。でもそんなものがあったら飛びづらいであろうとは想像できます。他のすずめと一緒に動き回ることはできないのか、そのすずめはひとりぼっちでした。

一瞬私はこのすずめを助けたいと思いました。逃げないし、捕まえるのはそう難しいことではないように思えたのです。でも同時に私は子供の時に拾った赤ちゃんすずめのことを思い出していました。私には何もできなかったこと。幼稚園に行っている間近所のお店に預けておいたけど、帰って来たらいなくなっていたこと。お店の人たちが飛べない子すずめを外へ放り出してしまったか、弱りすぎて死んでしまったと想像すること。そんなことが思い出され、私はそのすずめに手を出すのをやめました。それを家に連れて帰ったところで、私に何ができたでしょう。

イボのあるすずめはひとりぼっちだったけれど、必死に生きていました。一生懸命食べ物を探していました。生きることを諦めてはいませんでした。もしこれで死んでしまっても、すずめは人生を全うしたと言えるのではないでしょうか。そんなことを考えながら「頑張ってね」と声をかけ、私はすずめから離れました。

そのあと家への道を歩きながら考えたんです。
「私は今日を一生懸命生きたのだろうか。」
毎日がただ時間に追われている気がします。しなくちゃいけないことをこなすことのみに重点が置かれ、気がついたら夜です。「ああ、今日も終わっちゃった」そんな日ばかりです。すずめと比べたら、私は「生きている」のでしょうか。「生きる」って一体なんでしょう。

可愛らしく見えるすずめたちの方が生きるすべを知っているような気がして、少し尊敬の念を抱いた午後でした。



『すずめくん どこでごはんたべるの?』の作者紹介:

たしろちさと
1969年、東京都生まれ。大学で経済学を学んだ後、4年間の会社勤めを経て、絵本の制作を始める。世界的編集人、マイケル・ノイゲバウアーが見い出し、「ぼくはカメレオン」で世界7カ国語同時デビュー。『5ひきのすてきなねずみ ひっこしだいさくせん』で2011年日本絵本賞を受賞。作品に、『ぼくはカメレオン』(グランまま社)、『かあさん』『ねえ、あそぼうよ』(以上、「こどものとも0.1.2」福音館書店)、『じめんのしたの小さなむし』(福音館書店)、『くんくん、いいにおい』(グランまま社)、『ポレポレやまのぼり』(大日本図書)、『ぼくうまれるよ』(アリス館)などがある。神奈川県在住。



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