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【絵本レビュー】 『あれあれなんだろな?』

作者/絵:すぎはらけいたろう
出版社:キッズレーベル
発行日:2010年6月

『あれあれなんだろな?』のあらすじ:

こぶたのクイ、うさぎのチー、おさるのポッポ。
3匹がみつけた、あんなもの、こんなもの。その正体は・・・
好奇心いっぱいの3匹がくりひろげる、びっくり楽しい物語。


『あれあれなんだろな?』を読んだ感想:

エリック・カールさんを思わせる紙のコラージュを見ていると元気が出てきます。内容的にはうちの五歳児にはちょっと軽すぎたかなという感じですが、一生懸命絵を見ていたので、十分楽しめました。

この絵本を読んでいたら、最近あまりワクワクするようなことをしていないな、ということに気づきました。毎日同じことの繰り返しで、いつも頭の中では「合理的に」「最短」「無駄なく」という言葉が駆け回っています。こうして書いてみると、この言葉自体がワクワクから私を遠ざけていますよね。

本当は幼稚園のお迎えの後は、ぶらぶら息子のペースで帰って来たいけれど、私は仕事と仕事の合間に迎えに行っているので、行く時間と息子が出てくるのを待つ時間、そして戻ってくる時間を入れて最大四十五分が私の持ち時間です。幼稚園までは私が自転車を飛ばして十分なので、息子の自転車では十五分くらいかかります。私が迎えに行くと、大抵息子は友達との遊びに没頭中で、私の顔を見ると不機嫌になります。コロナのため園内には入れないので、私は道で待つことになります。窓に目をやると、息子は声をかけている先生を無視して遊び続けています。「まだ大丈夫」そう言い聞かせて、私は待ちます。

でも五分くらいすると私は落ち着きがなくなり始めます。出てくるのに時間がかかると、帰り道を急がなくてはならないからです。一日の余韻を楽しみながら、ちょっと疲れている息子はのんびりと自転車を漕ぎます。余韻に浸らせてあげたいのはやまやまですが、時間通りに戻らなくてはならない私としては、今日も「早く、早く」と息子を急かしてしまいます。

旦那が尊敬しているカナダの精神科の先生がこんなことを言っていました。
「子供の時間の流れ方は大人と違う。大人にとっての三十分は子供にとって一日。大人が一日のうち三十分失っても大したことはないけれど、子供にとっては丸一日を失ったことになる。」

「なんで私は一日のうち三十分をさけないのだろう。」
そう思った私は考えたんです。その三十分あったら何ができるだろうかと。十分のパワーナップ、コーヒーを淹れてぼんやりする、洗濯物をたたむ、音楽を聴く。特に生産的な作業はありません。というよりしたくありません。何も考えたくないのです。だったら息子の車遊びやレゴ遊びに付き合ったっていいのではないでしょうか。息子が次の選挙の話をするわけでもないし、宇宙の物理科学について聞いてくるわけでもない。勝手に盛り上がって爆笑して、機嫌よく歌を歌っている彼を三十分聞いているのもそう悪くないように思えて来ました。特に、その三十分が彼にとっては五倍にも十倍にも感じられるのなら、なおさらです。

私が毎日「最短」を目指して歩く中、周囲の全てを発見するのは子供たちです。「あれあれなんだろな?」といつもワクワクする目で世界を見ているのは子供たちなのですね。私たちは「もう知っている」と思い込んでいるから。なんという奢りだろうと、息子と話していると気づきます。息子のしてくる素朴な疑問に答えられないことがあるからです。
「もう知ってるんじゃなかったの?」
私は、私自身に皮肉な笑いを向けます。

ワクワクをできなくしているのは、私自身。なんでも知っているつもりでいて、ものを見なくなってしまったから。私はものを見ているのではなくて、それらはただ目に映っているだけなんですね、きっと。ワクワクがなくなったら、私たちはきっと水をやらなかった花みたいに枯れてしまうのでしょう。そんなお婆さんになりたくないな。

まずは三十分から始めて見たいと思います。



『あれあれなんだろな?』の作者紹介:

すぎはらけいたろう
1980年愛知県名古屋市生まれ。絵とデザインの仕事を中心に、近年は空間デザインのアートディレクションやモザイクタイルの壁画など、幅広い仕事を手がける。様々な素材を組み合わせた作品は、ガラクタを集めたオーケストラのように、にぎやかで楽しいハーモニーを奏でる。「とびだすえほん たべるのだあれ?」「トトのかんぱい」「パタンパ!」「ピーターとおおかみ」刊行。2021年「とびだすえほん たべるのだあれ?」A’ Design Award 金賞、Indigo Design Award 金賞/2018年「ソレイユ川崎・それいゆ保育園」キッズデザイン賞/2009年イタリア・ボローニャ国際絵本原画展 入選


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他にすぎはらさんがイラストを担当した絵本は数冊あります。

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