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【絵本レビュー】 『ひっこしだいさくせん』

作者/絵:たしろちさと
出版社:ほるぷ出版
発行日:2010年4月

『ひっこしだいさくせん』のあらすじ:

おとなりさんが猫をかいはじめて、落ちついて暮らせなくなった5ひきのねずみたち。
あたらしい家がなかなかみつからないので、自分たちでたててしまうことに……!


『ひっこしだいさくせん』を読んだ感想:

「こんな家に住みたい!」
絵本を読んであげた後の息子の感想でした。私だって住みたいです。ビー玉の窓なんて、想像しただけでも素敵です。

私は子供の頃から引っ越しが多く、父は自営で転勤族でもないのに、大学に入るまでに覚えているだけで七回は引っ越しました。それがすっかり癖になってしまったのか、一人暮らしするようになってもちょくちょく引っ越しをしています。ロンドンにいた時は、五年間で六回家を替えました。

引っ越して何もない部屋に入る感覚が好きです。それを少しずつ自分色に染めていくことを考えるのも、していくのも好きです。なんだか全てが一から始められそうな、そんな気もするのです。

海外ではシェアハウスが一般的なので、あまりお金がなくても割といい部屋に住めたりします。わたしが初めてしたシェアハウスには五人のジャマイカ人がいました。ヤギのカレーだとか鶏の足だとか今まで食べたことがないようなものが食べられたし、髪の毛を洗うのが一ヶ月に一度の大イベントであることも知ったし、ダンスは踊るのではなくて音を聞いてそこに乗っていくということも学びました。

次に住んだ部屋は家賃はあまり変わらないのに、わたしの部屋の中にはお風呂場があって、小さい湯船もついていました。そしてそのあと初めて友達とアパートを借りてシェアしたのですが、借りた直後にその友人は彼氏を作って帰って来ず、わたしはアパート全部を独り占めという優雅な生活ができました。そのあとは別の友達と新築アパートをシェアし、家に乾燥機のある喜びに浸りました。最後の家は牧師さんが子供たちが小さかった時に住んでいた三階立ての家で、私は友達二人とシェアしました。なんとひとり二部屋という超贅沢な生活でした。私は三階の二部屋を使いましたが、オフィスとして使用した部屋は、一面がガラスで景色が一望できる夢のような部屋でした。夕暮れ時に家々の屋根を見るひとときが大好きでした。私はこの家に三ヶ月しかいませんでしたが、小さな裏庭でお茶を飲むのも、三人でろうそくをつけて夕飯を食べるのも大好きでした。

引っ越しは大抵一人でしました。大きなバックパックに詰めるだけ詰めて、イケアの袋を両手に持って、バスや地下鉄で何往復かして引っ越ししました。当時友達はみんな外国人でしたので誰も車を持っていなかったのです。ある時一日中していた引っ越しの旅が終わらず、時計を見ると夜の十時近くでした。あと一往復で終わりそうだったのですが、私は疲れ果てていてもう地下鉄の駅を上り下りする元気はありませんでした。それで私は昔のホストファミリーの友達に電話したのです。

「ハロー」とちょっと疑わしそうな声。私は久しぶりに電話したからだろうと気にせず、話を続けました。
「遅くに申し訳ないんだけど、引っ越しが終わらないから助けてほしい。」
彼はちょっと笑って私の古い家の前で会おうと言いました。ホッとして、からのバックパックを背負って地下鉄を降りバスに乗って家に戻りました。彼が来た時私は荷物を全て詰め終わって、玄関前で待っていました。時間は十一時ちょっと過ぎ。こんな遅くに申し訳ないな、と思っていたら車が来ました。
「ありがとう。」と開いた窓に向かって言うと、
「こんな夜遅くに引っ越しとはね。」
とイギリス人特有な皮肉っぽさを込めて言われました。
私は時間には気づいていたので、
「そうだよね。もうすぐ寝る時間だったでしょう。」
と言うと、
「もうベッドにいたよ。十二時過ぎてるもん。」
えっ?私は時計を見ました。また十一時半前です。私はびっくりして時計を彼にみせました。すると彼はゲラゲラ笑いだすではありませんか。
「昨日の夜中に時間が変わったんだよ!」
そして顔を真っ赤にして笑っています。私は朝から引っ越し準備でコンピューターを開く間も無く、腕時計だけを頼りに過ごしていたのでした。
「本当にごめん!」
私は真面目に頭を下げて謝りましたが、彼はゲラゲラ笑いながら私を新宅まで運んでくれました。なんという失態。でも今ではいい笑い話になっています。

引っ越しって、多かれ少なかれアクシデントがあるように思うのは、私だけでしょうか。


『ひっこしだいさくせん』の作者紹介:

たしろちさと
1969年、東京都生まれ。大学で経済学を学んだ後、4年間の会社勤めを経て、絵本の制作を始める。世界的編集人、マイケル・ノイゲバウアーが見い出し、「ぼくはカメレオン」で世界7カ国語同時デビュー。『5ひきのすてきなねずみ ひっこしだいさくせん』で2011年日本絵本賞を受賞。作品に、『ぼくはカメレオン』(グランまま社)、『かあさん』『ねえ、あそぼうよ』(以上、「こどものとも0.1.2」福音館書店)、『じめんのしたの小さなむし』(福音館書店)、『くんくん、いいにおい』(グランまま社)、『ポレポレやまのぼり』(大日本図書)、『ぼくうまれるよ』(アリス館)などがある。神奈川県在住。



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