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【絵本レビュー】 『やまださんちのてんきよほう』

作者/絵:長谷川義史
出版社:絵本館
発行日:2005年4月

やまださんちのてんきよほう』のあらすじ:

やまだ家の一日を天気予報とともに描くユーモア絵本。
きもちを天気であらわすと、雨もあれば台風もある!
かみなり、なだれ・・・。


やまださんちのてんきよほう』を読んだ感想:

人の気持ちって本当に天気のようですね。天気予報もなかなか難しいけれど、人のムードを予測するのも難しいです。他の人の気持ちどころか、自分の気持ちだって全くもって予測不可能ですよね。

うちの五歳児を見ていると、一日のうちに天気はコロコロと変わり、これが本当の天気だったらもうめちゃくちゃですね。その上私の疲れもマックスに達するとゲリラ豪雨もやって来ます。私は息子の精神的アップダウンに付き合い続けると、竜巻に巻き込まれたような気持ちになります。もう何がどこに向かっているのかわからなくなって、無理やり抜け出そうともがいてぐったり、というパターンを繰り返している気がします。

でも考えてみると、他人の気持ちはコントロールできません。コロコロ変わる他人の気持ちをデータ化して分析しようとしているのは私です。パターンが解明できれば私が楽になるのではないか。そう考えていたのですが、なんだか違うような気がしています。

例えば、同じことを言われてもイライラするときとしない時があります。言ったに人によるかもしれないし、その日の私たち自身の気持ちのありようにも関係しているかもしれません。Aさんに言われても気にならなかったのに、Bさんに言われるとすごく腹がたつ、もしくは落ち込む。ということは、言われた事実よりも受け止め方が鍵なのではないでしょうか。何を言われるかではなく、どう受け止めているのかですね。でも受け止め方によって私自身のムードがガラリと変わるのですから、意外と大切なことなのかもしれません。

先日自転車に乗っていた時のこと。車道へ出るまでに数十メートル歩道を行かなくてはならないのですが、正面から六十歳くらいのおばさんが歩いてきました。私は歩道ですからスピードも出さず、おばさんが来ない方へと思い道の端をノロノロ走っていたんです。ちょうどすれ違う時おばさんが何かボソボソ言い始めました。最初の方は聞こえなかったけど、最後に「ゲーベック」と言ったんです。ドイツ語で「あっち行け!」という意味です。

一瞬ドキッとしました。胸がズキンと痛む感じがしました。そういえば友人がアジア人がコロナの原因として嫌がらせを受けていると言っていた。もしかして私がアジア人だから?いろいろな考えが頭をよぎりました。朝から嫌な気持ちになったとさえ思い、一日をダメにされたような気がして腹さえ立ちました。

でも次の瞬間、もう一度「ゲーベック」について考え始めたのです。どこで聞いたっけ?私が今まで聞いたのは子供達の間の喧嘩です。大人が言ってるのを聞いたことはありません。もちろん言うのでしょうけど、私は聞いたことがありません。それはいつだって子供たちが
「〇〇ちゃんあっちいって。もうともだちじゃない!」
そういってプリプリ怒っている場面です。私は息子の友達が顔を真っ赤にして、でもたどたどしい口調で「ゲーベック」と言っているのを何度も聞いています。

おばさんはもう立派な大人だったけれど、その言葉と怒った五歳児とが重なり、急に笑いがこみ上げてきました。
「なんて幼稚な言い方!」
おばさんはとっくに行ってしまいましたが、私は自転車をこぎながらただただ笑っていました。
「大の大人が幼児みたいな事言って!」

あれ?私傷ついていなかったでしたっけ。
私のムードは完全にひっくり返ってしまいました。最悪の一日から可笑しな体験をした朝となったのです。おばさんの言った意図ももう気になりませんでした。どうでもよかったのです。おばさんはもしかしたら誰に対してもそんなことを言っているのかもしれません。でも私の受け取り次第で、私の一日はだいぶ変わりますよね。私の機嫌には私が責任を持つことが、私ができる唯一のこと。だけどその効果はとても大きいように思います。

次にあのおばさんに会ったら、笑わないようにしなくちゃ。


やまださんちのてんきよほう』の作者紹介:

長谷川義史
1961年、大阪府生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーターを経て、『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』(BL出版) で絵本デビュー。『うえへまいりまぁす』(PHP研究所)、『やまださんちのてんきよほう』 (絵本館)、『きみたちきょうからともだちだ』(朔北社)、『おへそのあな』(BL出版)、『スモウマン』『いろはのかるた奉行』(講談社)など、ユーモアあふれる作品を発表。2003年、『おたまさんのおかいさん』(解放出版社)で講談社出版文化賞絵本賞、2005年に『いろはにほへと』(BL出版)で日本絵本賞を受賞。2008年に『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で日本絵本賞、小学館児童出版文化賞を受賞。


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