【絵本レビュー】 『サンタさんへのてがみ』
作者/絵:ハーウィン・オラム
出版社:ほるぷ出版
発行日:1995年10月
『サンタさんへのてがみ』のあらすじ:
この絵本の主人公エミリーも、サンタさんがちょっと怖いんです。それで、サンタさんが家の中に入ってこないように、煙突にぬいぐるみを詰め込んでしまうの。
さてさて、サンタさんはエミリーの家にやって来れるのかしら?
『サンタさんへのてがみ』を読んだ感想:
誰にだって苦手なもの、怖いものってありますよね。そしてそれがサンタってことも。
サンタにプレゼントもらえってハッピー、で終わらないこの絵本、気に入りました。
先週末私は書道のワークショップをしました。一日五時間も書き続ける集中うコースでした。そして、夏にテーマを考えていた時に思いついたのが、「恐れを乗り越える」でした。書道らしくないと思うかもしれませんが、書道って書いたその瞬間の気持ちがとてもよく反映されるんです。字がよくわからなくてお手本と首っ引きになっていることも、白い紙を前にして立ちすくんでしまったことも、これで合っているのかどうか悩みながら書いたことも、全部映し出されます。そんな「恐れ」を乗り越えてみようというのが、今回のワークショップのテーマでした。
初日はまず腕慣らしということで、条幅くらいの大きさに十文字書きました。
「こんなにたくさん文字を書いたことな〜い」
という悲鳴も聞こえましたが、一気に書き始める人、新聞紙に字を一つ一つ描いて練習する人と、皆さん熱心に練習していました。
順に見ていくと、紙は大きいのに、小筆で十文字をいくつも書いている人がいます。
「大きく書いてくださいね」
と言うと、ちょっと恥ずかしそうに笑って、
「バランスの取り方を見ていたんです」
さらには、それを見ていた隣の男性が、
「ああ、これはいいアイデアだね」と言い始めたので、
「大きくですよ、大きく」ともう一度軌道修正。
二日目、三日目は一文字を大きく書く練習をしました。新聞紙の見開きサイズから始めて、七十センチ x 百十センチが最終作品のサイズとなります。ここでもやはり「大きく、大きく」と参加者のお尻を叩いて回ります。そうでないと皆さん、新聞紙を四分の一くらいに折りたたんで練習し始めるからです。
大きな紙に大きな筆で書くのってすごく気持ち良さそうですよね。でも意外と勇気がいるんです。白い紙は永遠の可能性を秘めています。一体どこから始めたらいいのか考えてしまいます。まるで私たちの人生そのもの。私は大学四年を控え、自分が一体何をしたいのか迷いに迷っていた時を思い出しました。いいなと思う会社があっても、「一体ここで退職まで働けるのだろうか」と考えると、急に自信がなくなります。可能性がありすぎるのが難しいのは、全責任が私自身にあるからだと思います。もし続かなかったら、合わなかったら、そう思うとなかなか決められません。
そんな時、母が言いました。
「そんなの始めなきゃわからないでしょ。入ってみて合わなかったら他へ行けばいいじゃん」
いとも簡単に言う母に
「そんな無責任なことできないでしょ!」
と噛みついたのですが、今考えると最もです。入ってみなければわからない。その会社に嫌でもしがみついていなければならないなんて言う法律はありません。また職探しをしなければならないのは面倒ですが、嫌いな場所にいる必要もありません。
でも重要なのは、始めてみる、なのです。真っ白い紙を前に間違いを恐れて悩み続けるよりも、ベチャっと墨を落としてみたほうがいいんです。落としてみたら、次の紙にどう書いたらいいかわかります。失敗は失敗でなく、成功への第一歩。がっかりするのではなく、次は気に入ったものに近づけるという刺激であったほうがいいですよね。
「遊び心を持って、めちゃくちゃにやってみてください。部屋はビニールシートでカバーしてありますから、ご安心を」
ワークショップ三日目、私はみなさんにこう言いました。参加者の方たちは笑ったけれど、とても素敵な作品が出来上がりました。一番心配していた人も、立派な「飛」を紙いっぱいに書いてくれました。恐怖は遠くへ飛んで行ったことでしょう。
絵本の女の子も、サンタさんに手紙を書くことで見えない恐怖へ一歩近づきました。近づいたことで見えてくる道というのもあることでしょう。
『サンタさんへのてがみ』の作者紹介:
ハーウィン・オラム(Hiawyn Oram)
1946年南アフリカ共和国生まれ。イギリスのロンドン在住。世界的に著名な児童文学作家。子どもの本の執筆のほか、子ども向けテレビ番組の制作にも携わっている。『ぼくはおこった』(評論社)がイギリスでマザーグース賞を、日本で絵本にっぽん賞特別賞を受賞
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