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【絵本レビュー】 『スーホの白い馬』

再話:大塚勇三
絵:赤羽末吉
出版社:福音館書店
発行日:1967年10月

『スーホの白い馬』のあらすじ:

スーホというのは、昔、モンゴルに住んでいた羊飼いの少年の名前。貧しいけれど、よく働き、美しい声をした少年だった。そのスーホがある日つれて帰ってきた白い子馬は、だんだんと大きくなり、スーホととても仲良くなった。スーホは白い馬のために、白い馬はスーホのために一生懸命だった。ところが…。

『スーホの白い馬』を読んだ感想:

モンゴルへ行ってみたいと長い間思っていました。大学時代の行きたい国No. 1はモンゴルでした。ゲルで生活してみたいと思っていました。そんなこともあって、今でもモンゴルと聞くととても興味をそそられます。まだ行ったことはありませんが、いつか機会があったら行ってみたい場所の一つです。

馬にはあまり詳しくありませんが、動物の気持ちというのは偽りがなくまっすぐだなとこの絵本を読んでいて感じました。動物はもちろん話すことができません。でも私たちがどういう人物なのか、動物たちは瞬時に見抜いているような気がします。

スペインにいた時、私は友達の犬を預かりました。友達は三ヶ月間南米に旅行したいというので、彼女の犬が懐いていた私のところに来たのです。犬はアダという名前のダックスフントの混ざった小型犬で、すでに十三歳のおばあさん犬でしたが、とても愛嬌が良くて賢い犬でした。飼い主が行ってしまう時はさすがに追いかけて行きたそうにしていましたが、見えなくなるとすぐに落ち着いて、リードをつけなくても私の後にきちんとついて来ました。

仕事をして夜は外出することが多かった友人は、時に三日分くらいのドッグフードを置いてアダをアパートに残して行くことも度々あったことを私は知っていました。アダはご飯を一気に全部食べてしまい、水を吸って何倍にも膨らんだドッグフードでいっぱいのお腹を上にして寝ていることもよくあったと、友達は話してくれました。あまり散歩にも行っていなかったのか、私のところに来た時のアダは、五分くらい歩くのがやっとでした。

私はまずアダのダイエットを変え散歩も一日三回しました。最初は五分がやっとだったのに、半年後にはグレイハウンドもびっくりするくらいの速さで走れるようになっていました。その間飼い主はeメールを一度送って来ました。

やっと太陽が私の周りを回るようになった気がする。もうしばらく旅をしたい。もしアダをこれ以上預かれないなら、友達を送るから返事ちょうだい。

私はアダを見ました。ほぼ同時にアダも私を見返しました。
「アダは私でいいのかもしれない」
そんな気がして、私は友達にアダをこのまま預かると返信しました。

そのEメールからさらに半年ほどが経ちましたが、友達からは音沙汰もなく、アダはすっかり健康的になりました。週末の午後中歩いても平気で、私の行くところにはいつもついて来ました。ヨーロッパでは犬がデパートやお店に一緒に入れるので、外で不安になっている犬が吠え続けるという光景をあまり見かけません。アダは私の習字教室にも一緒に来ました。夜友達に会う時にはバーにも同伴し、大好きはオリーブを時々もらって満足していました。

一年ほど経った時、共通の友達がアダの飼い主が帰って来ていることを教えてくれました。教えてくれた彼は、飼い主が私に連絡をしていないことに驚いていましたが、私は自分の犬なのだから住居環境が整えばきっと連絡してくるはずと信じていました。

その翌週。私がアダと週末のマーケットを散歩していると「アダ!」と呼ぶ声がしました。振り返るとアダのママがいました。「アダ! アダ!」叫びながらアダに近づいて来ました。私はアダがどう反応するか興味があったので、様子を見ていました。

アダは声のする方に顔を向けたものの、誰だろうというように首を傾げています。飼い主はアダに駆け寄り「あ〜、可愛くなって!!」と抱きしめました。ところがアダは飼い主の腕の中から私を困ったように見ているのです。私に気を使っていたのか、それとも本当に抱きしめられている理由がわからなかったのかはわかりません。でも無反応な様子に気がついた飼い主は、さっと立ち上がると私の方を初めて見ました。

「アダに何をしたの?」

質問の意味がわかりませんけれど?と思いながら私はただ肩をすくめました。飼い主が連絡をくれなかった一年間、私はアダにご飯をあげて散歩させ、綺麗なベッドを用意して時々(嫌がったけど)シャワーで洗ってあげただけです。「何をした?」という質問は不甲斐ないようにも思えましたが、飼い主としては私が毎日アダに「ママが来たら無視するように」とでも教えていたように感じたのでしょう。

飼い主は、今までアダをありがとうとか、これからアダをどうするつもりなのかなどの話をすることもなく、怒って行ってしまいました。そしてアダはといえば、私の横にピタリとついています。様子を見ていた飼い主と私の共通の友人が言いました。

「だってアダは風の子の犬になっちゃったんだもの」

犬だって感情があるんです。犬に限らずどんな動物にも感情があります。大抵は彼らの感情にはお構いなく飼い主が決まってしまいますが、もし彼らが話すことができたなら、きっと一緒にいたい家族を自ら選んでいるのかもしれません。私は最低限のお世話しかしなかったと思っています。あまり感情移入してしまって別れが辛くなるのが嫌だったからです。でもアダにとってはその最低限が、自分の居場所と感じるのに十分だったのかもしれません。

大怪我をしたにもかかわらずスーホのところに戻って来た白馬の気持ちが、アダとの経験で感じ取ることができたように思います。私はアダをドイツに連れて来ることはできませんでした。アダはガリシアの山に連れて行かれたとルームメイトから聞きました。もう十四歳になっていたアダには厳しい気候であったかもしれませんが、余生を幸せに過ごしてくれたことを願うばかりです。でもアダはいつも私の心の中に居続けているのです。


『スーホの白い馬』の作者紹介:

大塚勇三
1921年、旧満州に生まれる。出版社勤務を経て、外国の児童文学作品の翻訳に多く携わる。主な訳書に『長くつ下のピッピ』(岩波書店)、『小さなスプーンおばさん』(学研プラス)、『グリムの昔話1~3』『アンデルセンの童話1~4』(以上、福音館書店)など、絵本の再話・翻訳に『スーホの白い馬』『たんじょうび』『プンク マインチャ』(以上、福音館書店)などがある。2018年没。



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