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【絵本レビュー】 『きちょうめんななまけもの』

作者:ねじめ正一
絵:村上康成
出版社:教育画劇
発行日:2008年5月

『きちょうめんななまけもの』のあらすじ:

動物園のなまけものは、木にへばりついているだけのなまけものに見えるけれど、動物園が閉まって、見物客がいなくなったとたん…何をするのかな?


『きちょうめんななまけもの』を読んだ感想:

「なまけもの」

これは子供の頃の私の別名でした。命名者はもちろん父。「なまけもの」と名付けられた理由は、何かを言われてもすぐにしないからです。でも私の言い分としては、父が物事を頼むのはいつも私が何かをしている真っ最中なのです。本を読んでいたり、何かを作っていたり、もしくは帰ってきてまだ靴もコートを脱いでいないような時などに頼まれても無理なので、私の返答は「ちょっと待って」なのですが、父には気に入らないのです。
「今すぐやれ!」
父は怒鳴り始めるので、私のやる気も失せてしまいます。ちょっと待っていてくれさえすれば、ページの終わりまで来たら、一番複雑な作業が済んだら手伝いに行かれたはずですが、すでにことはただの手伝いから強制労働に変わってしまいました。

すぐに動かず腰が重いから「なまけもの」。でもこの絵本を見ていると、なまけものだって頑張っているということがわかります。いつも穏やかで、焦ることなんてなさそうという人だって、見えないところでいろいろな努力をしているはずなのではないでしょうか。

コロナが始まりベルリンのプールが閉まってしまってから、私は平日毎朝少し早起きしてホームエクササイズをするようになりました。その以前も泳がない日は週に数回ヨガなどをしていましたが、今は平日ほぼ毎日三十分ほどします。家族が起きてくる前の一人でいられる時間でもあるし、何より少しでも身体を動かしておくと一日心がシャキッとする感覚が好きなのです。

逆にうちの旦那はギリギリまで寝ているのが大好きなのですが、ヨガをしにインドまで行った過去の経験から、とりあえず今もヨガスタジオに登録はしてあるし、早く目が覚めてしまった朝には七時のクラスへ行く事もあります。ただ彼はそれを他の人に言うので、まるですごくストイックな生活を送っているかの印象を与えますが、私が見ている限り彼がヨガスタジオに行ったのは今年に入って二、三回。それなのに彼は「ヨガをする人」というイメージを持たれているので、アピール上手って得だなあと思ってしまうのです。

それなら私もみんなに言えばいいのでは、となりますが、私はみんなに感心してもらうよりも、自分がしている努力に対して自分が満足できていることの方が大切であることに気がつきました。運動に限ったことではないけれど、何かのきっかけで人目についた時日々積み重ねた努力が実を結ぶと、ああよかった、と心がふんわり暖かくなるのです。

動物園のなまけものも、「なまけもの」という役に徹底しているけれど、本当はそうではないことを自覚しているから、なまけものと呼ばれても気にならないのではないかな、なんて勝手に同類者としてなまけもの君を評価してみたのでした。

みなさんは隠れた努力、どんなことをしていますか。

『きちょうめんななまけもの』の作者紹介:

ねじめ正一
作家、詩人。1948年6月16日、東京生まれ。青山学院大学経済学部中退。1981年処女詩集『ふ』で詩壇の芥川賞といわれる「H氏賞」を受賞。1989年、初めて手がけた小説『高円寺純情商店街』で直木賞受賞。熱狂的な長嶋茂雄信者としても知られ、『落合博満 変人の研究』で落合博満をその後継者とおもいっきり解いた。『熊谷突撃商店』『眼鏡屋直次郎』『天使の相棒』『荒地の恋』『ひゃくえんだま』等著書多数。




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