【絵本レビュー】 『車のいろは空のいろ 白いぼうし』
作者:あまんきみこ
絵:北田卓史
出版社:ポプラ社
発行日:2005年11月
『車のいろは空のいろ 白いぼうし』のあらすじ:
男の子がぼうしの中につかまえたチョウをにがしてしまった。松井さんがチョウのかわりに思いついたものとは… 全部で八つのお話が入っています。
『車のいろは空のいろ 白いぼうし』を読んだ感想:
タクシーの中って不思議な空間ですよね。大分前ですが、旦那がタクシーの運転手さんが書いたブログを読んでいました。いろんなお客さんが乗って来て、本当に色々なことが起きるようです。その方はニューヨークのドライバーさんなのですが、どこにいてもタクシー運転手さんは私たちとは違う体験をしているのかなと思います。だいたい「タクシー」という名前がついているだけで安心して乗っていますが、全く知らない人の車に一人で乗るのですから、怪しいことではありますよね。子供のころ「知らない人の車に乗っちゃいけないよ!」と言われたことありますか。
私の父はどこへ行くにも自分の車で行ったので、タクシーに乗ることはありませんでした。初めてタクシーに乗ったのは、母とでした。若い時の母はタクシーが好きで、どこへ行くにもバスでなくタクシーを利用していました。今はすっかりバスのおばあちゃんですけどね。でも、本当の理由は、時間通りに家を出られずいつもバスを逃していたので、遅刻しないようにタクシーに乗っていたのではないかと疑っています。
その日も母とのデートで、私はタクシーに乗りました。綺麗な白いカバーのかかった座席。帽子と手袋をつけた運転手さん。勝手に開くドア。何もかも不思議でした。そして何より忘れられないのが匂いです。当時はまだ車内でタバコも吸えていましたから時々タバコの匂いもしましたが、何よりもなんともいえないタクシー独特の匂いがしました。芳香剤なのでしょうか。でもどのタクシーに乗ってもだいたい同じような匂いがしました。前のダッシュボードのところについている料金メーターがどんどん上がって行くのも、当時は面白く感じました。
特に面白いと思ったのは、タクシーの運転手さんが話しかけてくることです。まるで近所の人とでも話すように母が運転手さんと話すのを、私は面白く聞いていました。もちろん降りた後「あの人のこと知ってたの?」と聞きましたけど。その後どのタクシーに乗っても母は運転手さんと話をするので、もう慣れっこになりました。ちなみに母は今でも道中ずっとおしゃべりしています。かなり外交的な母の一面を知るきっかけにもなりました。私は、なんだか恥ずかしくて話せません。でも絵本の松井さんみたいなドライバーだったら、話す気になるかもしれませんね。
スリリングなタクシーといえば、大学の卒業旅行初めてスペインに行った時でした。ツアーだったのですが、自由時間に同級生三人と市内を探索した際タクシーに乗ることにしました。スペイン語が話せないので、公共の交通機関はハードルが高すぎるように思えたのです。自由時間も限られていたので、目的地に一刻も早く着きたいというのもありました。私たちは行きたい場所の名前を紙に書いておいて、それを運転手さんに見せて「ポルファボール!」。運転手さんが行き先を口に出したのすら聞き取れないくらい、私たちはスペイン語がわかりませんでした。一体本当に目的地に着くのだろうか。もしぶっかけられたらどうしようと、私たち四人は料金メーターをじっと見つめていました。私は時々外を見て居場所を確認しようとしましたが、どこを走っているのか認識するのは不可能でした。このままどこかへ連れて行かれたら。。。ハラハラドキドキの十五分後、私たちは無事に目的地の市場に着いていました。やれやれ。
私たちはドキドキだったけど、このスペインの運転手さんにとっては不思議な日本人女子四人組だったことでしょうね。いい話のネタとなったことでしょう。
『車のいろは空のいろ 白いぼうし』の作者紹介:
あまんきみこ
1931年満州に生まれる。坪田譲治主催の童話雑誌「びわの実学校」の同人となり、1968年『車のいろは空のいろ』で第1回日本児童文学者協会新人賞、第6回野間児童文芸推奨作品賞を受賞。作品に『おにたのぼうし』(ポプラ社刊)『きつねのみちは天のみち』(大日本図書刊)『ふうたのはなまつり』(あかね書房刊)他多数。エッセイ集に『空の絵本』(童心社刊)がある。京都府在住。
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