【絵本レビュー】 『3びきのかわいいオオカミ』
作者:ユージーン・トリビザス
絵:ヘレン・オクセンバリー
訳:こだまともこ
出版社:冨山房
発行日:1994年5月
『3びきのかわいいオオカミ』のあらすじ:
ご存じ3びきのこぶたのパロディ作品、なのですが、このお話しの展開は実に秀逸で楽しめます。最初のページから子ども達はクスクス笑いだし、おおブタの悪者ぶりとオオカミたちの慌て振りには大笑い、読んでいる大人の方もついつい力がこもってしまいます。
『3びきのかわいいオオカミ』を読んだ感想:
クラシカルな『3びきのこぶた』をイヤってほど読んだ大人も十分楽しめる絵本です。面白いなと思ったのは、息子にはオオカミが悪者という観念がないことです。私たちは知らぬ間に固定観念を植え付けられているのかもしれませんね。そういえば、ムツゴロウスペシャルで見たオオカミは、犬と一緒に飼われていたけれど、なかなか甘えん坊だったよね。
ことわざ好きだった父がよく私に言っていたものの一つは、「暖簾に腕押し」でした。父は無駄なことの例として教えたかったのでしょうが、私にとっては当時読んでいたコミック『YAWARA!』で見た、「柔よく剛を制す」と重なったのかもしれません。力に対して力で応えるより、低反発枕的対応の方がきっと効果的な気がします。
前にも書いたかもしれませんが、大学生くらいまでの私はやたらと「正義感」を振り回していて、いつもイライラしていました。電車やエレベーターの列を無視する人、混んでいるのにカバンを置いて他の人が座れないようにしている人、ジムのシャワールームをまるで自分の陣地みたいに使う人などなど、ただ学校から帰ってくるだけで理不尽なことに目が行き、私は大抵いつもイライラして帰ってきました。
そんな時母は大抵おちゃらけぶりを発揮し、私の怒りに油をそそぐようなことを言うのですが、ある時「誰も彼も考えなさすぎ!」と歯ぎしりする私に言ったんです。
「考えてない人はさ、人のことなんか気にしないで、毎日楽しく暮らしてるかもよ」
その時の私はイライラマックスだったので、「はあ?」と言いながら呆れたように母を見て相手にしなかったのですが、この母の言葉はなぜかずっと私の頭の中に残っています。
他人のことを気にするかしないかはともかく、怒りをこんにゃくみたいに腑抜けな対応でかわした母に、今更ながら感心しているのです。攻撃してくる相手を攻撃で返すことはエネルギーの無駄遣いでもあるけれど、ぶち返せば相手はさらに強くぶってくるでしょうから、結局両方痛い思いをしますよね。得るものがありません。どんどん強い家を建てていったオオカミたちも最後は家を爆破されてしまいました。でもお花の家を建てたら、ブタさんの意地悪もどこかへいってしまいましたね。
「柔よく剛を制す」母のおちゃらけぶりを今更ながら学んでみようかと思います。
『3びきのかわいいオオカミ』の作者紹介:
ユージーン・トリビザス( Eugene Trivizas)
1946年、ギリシャ生まれ。ギリシアの作家、犯罪学者。1974年ロンドン大学で法学修士を取得。ギリシアでは有名な作家、詩人であり、演劇やテレビの脚本も書いている。子どもの本を作っていないときは、英国南部にあるレディング大学で犯罪学を教えたり、ギリシアの法務省で名誉顧問を務めたりしている。
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今のところ日本語訳されている絵本はまだないようです。
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