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アジアの文学に興味を持ったひとのためのブックガイド(のガイド)

〈アジア文芸ライブラリー〉というシリーズの中の人をやっておりますと、もっとアジアの文学を読みたいんだけど、どうやって探したら良いのかがわからない、とか、なにか良い作品を教えてください、といったお声を、イベントなどでいただくことがあります。(そもそものアジア文芸ライブラリーとはなにか、についてはことらからどうぞ

わたしもアジアの現代文学は結構たくさん読んでいまして、これまでに様々な出版社がアジアの現代文学を出版してくれたおかげで〈アジア文芸ライブラリー〉はあるので、他社から出ている作品も〈アジア文芸ライブラリー〉と同じくらい読んでほしいです。

そういうわけで、ここではアジアの文学のシリーズや、アジアの文学のブックガイド的なウェブサイトなどをご紹介したいと思います

ただ、最初にお断りしておきたいのですが、以下ではアジアのシリーズものを紹介しているのですが、実際にはもっと多くの本が単行本という形で出版されているので、ぜんぜんブックガイドと呼べるものにはなっていません…。すみません。


アジアの現代文学(全般)のシリーズ


アジアの現代文芸(大同生命国際文化基金)

アジアの現代文学のシリーズの大先輩である「アジアの現代文芸」というシリーズがあります。これは大同生命国際文化基金が80年代からずっと刊行しているもので、現代の名作が揃っています。刊行されている国も、インドやタイ、インドネシアからバングラデシュ、ラオス、トルコなど幅広いです。


アジアの現代文学(めこん)

また、東南アジアを中心にアジアの本を出している出版社、めこんが「アジアの現代文学」というシリーズを出しています。東南アジアが多めで、ゆっくりしたペースで現在18巻まで出ています。


「現代アジアの女性作家秀作シリ-ズ」「アジア文学館」「アジアからの贈りもの」(段々社)

アジアの文学に特化した出版社、段々社は「現代アジアの女性作家秀作シリ-ズ」「アジア文学館」「アジアからの贈りもの」といったシリーズを展開しています。女性作家の作品や詩集、児童文学などを積極的に紹介してます。


アジア文芸シリーズ(てらいんく)

児童文学の専門出版社であるてらいんくも、「アジア文芸シリーズ」としてアジアの児童文学を出しています。


Read Asia (トランネット)

出版翻訳を専門とする翻訳会社であるトランネットも、東南アジアを中心としたシリーズ「Read Asia」を刊行しています。文庫本サイズで、手軽に読みやすい長さのものが多く、電子版が安いのと、紙版を買うと電子版が付いてくるところも魅力。


アジアの現代文学(全般)のウェブ情報

アジア文芸プロジェクト“YOMU” (国際交流基金)

国際交流基金の「アジア文芸プロジェクト“YOMU”」というウェブサイトで、書き下ろし作品の翻訳を公開したり、インタビューなどを発信しています。

本プロジェクトでは、アジア7か国(インド、インドネシア、カンボジア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア)で活躍する若手~中堅の作家計27人による短編小説・エッセイの書き下ろし作品を、日本語と英語に翻訳して発信します。あわせて、各国の文芸シーンの現在を、現地リポートや関係者へのインタビュー、動画などで発信します。

また、「文芸対話プロジェクト“YOMU”」としてアジアの作家を交えたトークセッションなども行っています。

アジア文学の誘い(春陽堂書店)

春陽堂書店のウェブマガジンで、書評家の倉本さおりさん・長瀬海さんの案内による「アジア文学の誘い」というイベントをもとにした連載がありました。各言語の翻訳家などを招いて、作品の紹介などを行っています。韓国文学編チベット文学編台湾文学編タイ文学編中東文学編が公開されています。翻訳家がその言語の翻訳をすることに至ったきっかけなどもリアルな話が載っていて面白いですよ。

アジア書堂(書評サイト)

アジアの小説や小説のレビューの掲載しているウェブメディア。翻訳会社のAプラスが、ならではの知見と人脈を活かしてレビューを掲載していて、わたしが好きなアジア映画もたくさん紹介されているので嬉しい。

アジアの中の日本、アジアの一員としての日本人という視点で、アジアの人々を「同じ文化圏の中で暮らす友人」として認識しながら、その多様性と未来への可能性を、書籍、映画といった媒体を通じて知り、探っていきます。


アジア文学への招待(毎日新聞)

毎日新聞夕刊に不定期で連載されている「アジア文学への招待」では、アジアの文学作品や作家、出版状況などを随時紹介しています。担当は棚部秀行さん。


ワタン/ 中東現代文学選

科研費基盤研究「トランスナショナル時代の人間と「祖国」の関係性をめぐる人文学的、領域横断的研究」のプロジェクト。研究代表者は岡真理さん(早稲田大学文学学術院教授)。『中東現代文学選』や『ワタン / Homeland スタディーズ』などを発行し、配布しています(一部はPDFで閲覧可)。ウェブサイトには講演会などの情報もあります。


アジアの本の会

文学に限りませんが、「アジアに関する図書の普及と販売を積極的に推進すること、これを通して多文化理解と国際交流に寄与すること」を目的とした出版社有志の集まり(わたしの勤務先も加盟しています)。年に一回『アジアへのとびら』という小冊子を発行したり(書店で無料配布しています)、ブックフェアを行ったりしています。「アジアの本の会」のコーナーを常設している書店もあります。また紀伊國屋書店の法人向けサイト「BookWeb Pro」に全点リストがあります(一般の方でも閲覧可能)。



地域別のシリーズ・刊行物・ウェブサイトなど

東南アジア文学(東南アジア文学会)

東京外国語大学の教員・学生を中心とした東南アジア文学会によって1996年から発行されている、東南アジアの小説・評論を掲載する雑誌。PDFでダウンロードして読むことができます。


チベット文学と映画制作の現在 セルニャ(チベット文学研究会)

チベット文学研究会(セルニャ編集部)が運営するウェブサイト。チベット文学研究会では冊子の『セルニャ』をこれまで7巻+別冊1冊を発行して、小説や詩の翻訳や、文学や映画の紹介などを行っています。またウェブサイトの「図書室」では日本で刊行されたチベット文学の作品が網羅的に紹介されています。


新しい台湾の文学(国書刊行会)

怪奇幻想ものなどで名の知られている、独自の路線を突っ走る国書刊行会から、じつは1999年から2008年にかけて台湾文学のシリーズが出ていました。現在でも多くの作品が新刊で手に入ります。

1970年代以降の「台湾意識」の興隆とともに、中国大陸から切り離され独自の発展を遂げつつあるこの国の文学は、特に87年の戒厳令解除以後、空前の活況を呈している。都市、セクシュアリティ、ポストコロニアリズムなど、様々な問題を内包し、世界的に注目を集める作品の数々を本格的に紹介する本邦初のシリーズ。

また、国書刊行会からは「シリーズ台湾現代詩」(2002~2004)というのもありました。

台湾文学ブックカフェ (作品社)

呉佩珍、白水紀子、山口守の編者によって編まれた3巻の作品集。1巻が女性作家集2巻が中編小説集3巻が短編小説集となっていて、クィア文学や原住民文学なども取り入れた、台湾の複雑なアイデンティティやエスニシティに触れることができるアンソロジー。


台湾文学コレクション (早川書房)

おなじく呉佩珍、白水紀子、山口守の編者によって編まれた3巻の現代文学のコレクション。1巻が近未来小説集、2巻と3巻は長編。個人的には、カバーの紙材がそれぞれに違うのが好きなところ(作品ももちろん好きです)。


「新しい韓国の文学」「CUON韓国文学の名作」「韓国文学ショートショート」(CUON)

数々の韓国文学を日本に紹介し、韓国文学ブームの立役者ともいえる出版社(版権仲介も行っている)のCUON。「新しい韓国の文学「CUON韓国文学の名作」「韓国文学ショートショート」などいくつかのシリーズを展開しています。読んだ限りではどれも外れがないのが素晴らしいところ。


〈となりの国のものがたり〉ほか(亜紀書房)

「これから来たる細亜の世をリードする」という志で創業された亜紀書房からもいくつものアジアの文学が刊行されていますが、シリーズとしては韓国文学の〈となりの国のものがたり〉と、〈チョン・セランの本〉〈キム・エランの本〉があります。


「韓国文学の源流」「韓国女性文学シリーズ」(書肆侃侃房)

たくさんのアジアの小説を出している福岡の出版社・書肆侃侃房しょしかんかんぼうですが、シリーズものとしては「韓国文学の源流」「韓国女性文学シリーズ」があります。侃侃房はほかにも台湾文学やチベット文学などアジアの現代文学を積極的に出しています。

『中国現代文学』(中国現代文学翻訳会/ひつじ書房)

現代(中国語の意味じゃなくて、日本語でいう現代)の中国の小説を翻訳している中国現代文学翻訳会による刊行物。グループによる検討を経て刊行されるので翻訳の質が高いことも特徴。ひつじ書房が発売しているので一般流通しています。

『小説導熱体』(中国同時代小説翻訳会)

中国同時代小説翻訳会が発行する雑誌。短篇小説やエッセイの翻訳、コラム、連載、現代中国文学に関する研究会情報などが掲載されているそうです。


インドネシア現代文学選集(上智大学出版)

上智大学で2019年から刊行されている(現在までに4冊)シリーズ。大学出版が出しているのでお堅い本かと思えば、結構エンタメよりの作品が多い印象。ディー・レスタリの短編集『珈琲の哲学』は表題作が映画化され動画配信サービスでも観ることができるなど、現代の人々に愛されている作品が入っているようです。


現代インド文学選集(めこん)

前出のめこんから出ていた現代インドの選集。インドといっても様々な言語・地域の作品を収録しているようで、古い本だが新刊で手に入れることができ、値段もまあまあ手頃なのがありがたい。

東南アジアブックス(勁草書房)

勁草書房がアジア文学というと以外に思われるかもしれないが、70~90年代に刊行していたシリーズ「東南アジアブックス」のなかには現代文学の作品が結構たくさんあります(ノンフィクションや研究書も混じっている)。新刊ではまず手に入らないですが、ときおり古本屋で遭遇することがあります。

はじめてのタイ文学(ZINE)

タイ語翻訳家の福富渉さんが個人で翻訳・販売しているZINE。現代の若い世代の小説や詩を紹介しています。デザインもかっこいい。


さいごに

おそらく、見逃していたり忘れていたりしてここには入っていないものが多いと思います。お知らせいただければ随時更新します。

冒頭に書いたとおり、ここに紹介したシリーズよりも多くの作品が、単行本・文庫本という形だったり、新潮クレストブックスや白水社エクス・リブリスのような世界文学のシリーズとして刊行されているので、そっちを紹介することができればいいのですが、力が至らずすみません…。

というか、上記のようなシリーズに入る物はわりと純文学よりの作品であることが多くて、面白くて読みやすい本は単行本で出ることが多いんですよね。

本当は、アフリカ文学読書会が作っている日本語に翻訳されたアフリカ文学の一覧表のアジア版のようなものを作りたいのですが、わたし一人の力では無理なのと、どういうかたちで作ろうかなあなどと考えているところで停止しているので、なにかアイデアがあったり協力してあげてもいいよという方はご連絡ください。

アジア文学の見取り図、のような本は作りたいなと思っています(関係者各位:よろしくお願いします!)。

あ、あと〈アジア文芸ライブラリー〉もよろしくおねがいします!!


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