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いよいよ発売!『話すための思考が身につく! 中国語文法講義』本文一部公開

最近、更新頻度が高まっている弊社のnote。
(みんながせっせと記事を書いているというのに中国語編集部はまだ一度も投稿していない…このままではまずい…!)ということで今回は、新刊『話すための思考が身につく! 中国語文法講義』の「はじめに」を公開します。

著者・林松涛先生の「中国語学習の7つのアドバイス」には、担当編集自身(もっと早くこんな視点をもった状態で中国語を勉強しておきたかった!)と強く思いました。
書籍を買っていただいた方だけでなく、中国語を勉強する多くの方にぜひ読んでいただきたい内容です!

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は じ め に

 これから中国語を勉強するみなさん、この本を手に取っていただきありがとうございます。
 私は30 年近く前に留学で日本に来た中国人です。2000 年から中国語を教え始めました。これまで自分が日本語を勉強してきたなかでの失敗や経験などにもとづいて、生徒のみなさんに中国語を教えてきました。
 たとえば、外国語を勉強するときは普通、主語・述語・目的語といった文法の用語をもとに勉強していきますよね。私が日本語を学んだときもそうでした。しかし、いざ日本語を話そうとしたときに、そのような言葉が役に立たないことが何度もありました。
 それで、私は「どうやったら日本語を早くマスターできるか」「どうやったら自分の気持ちを正しく伝えられるか」ということを日頃からずっと考えてきました。私がたどりついた答えは日本人の気持ちを知ることの重要性です。

 そのような視点で日本語に向き合うなかで2つの発見がありました。
 ひとつは、言葉の意味は実際に口にした言葉だけでなく、口に出していない話の流れと深く関係していることです。
 たとえば、かつて知人の家を訪れ、「では、そろそろ」と言われたときに、「そろそろ」のうしろに省略された言葉を状況から読み取ることができず、私はそれが「(時間だから帰ってほしい)」という意味だとわからなかったことがありました。
 ネイティブの会話ではこのように、口に出した部分と言葉にしなかった部分を合わせないと意味を理解できないことが多く、外国人として戸惑うことがよくありました。
 このような経験を経て、私は文法にそって文章を組み立てる方法を理解すること以上に、ネイティブがどのような言葉をよく省略するのかを理解することの方がより重要なのではないかと思うようになりました。これは中国語にも同じことが言えます。

 もうひとつの発見は、言葉は行動とリンクしているということです。
 たとえば「持ってきて」「あっちに」と言ったときに、聞き手が実際にものを持ってきて、向こうに置くことができればこの会話は成立します。
 つまり、言葉はそれ自体に正しい意味が存在しているのではなく、むしろ言葉を通して話し手が聞き手を動かせるかどうかが本当の役割なのです。言葉は行動の一部であるのです。

 これらのことがわかってから、自分が中国語を教えるときも単に生徒に文法の用語を組み立てさせるのではなく、むしろ中国人の考え方を伝えるよう心がけるようになりました。

 中国人も日本人も同じような世界の中で生き、生活しているので、表現しようとすることはほとんど同じです。しかし、中国語と日本語の構造は違います。同じように世界を感じていても、異なる構造を持つ言語によってそれを表現しなければなりません。
 たとえば、過去のことを表すとき、日本語では「~でした」「~だった」などといった過去形を使って表現します。しかし、中国語では過去のことも現在のことと同じ形で表現します。まるで、中国人が過去にタイムスリップできる能力を持っているかのようです。この例から、中国語の背後にある世界観は日本語のそれとだいぶ異なるという感覚が伝わったでしょうか。

 もしかすると、私たちは言葉を使っているのではなく、「言葉に言わされている」ともいえるのかもしれません。
 私たちが言語の背後にある世界観をある程度つかむことができれば、ネイティブと同じように物事を考えたり、言葉にして表現したりすることができるのではないでしょうか。

 そのため、私は普段の授業のなかで、その世界観や認知の仕方を生徒のみなさんになるべく話すようにしています。
 実際、そのような言語の背景にある世界観を知ったことで中国語が話しやすくなった、という感想もいただいています。生徒も新しい発見に興味津々で、それをきっかけに中国語と日本語と比べながら、日本語の背後にある世界観を考えたりして、言葉の面白さを楽しんでいるように見えます。私としても、そうした新しい発見があると、とても嬉しいです。
 本書の学習を通して、みなさんにもぜひそのような世界観を体感してほしいと思っています。ここで、そのための7つのアドバイスを贈ります。

中国語学習の7つのアドバイス

1. 焦らずに自分のペースで勉強を続けよう

 私は30 年近く日本語を勉強してきました。もしかすると、読者の方よりも長く日本語に触れている場合もあるかもしれません。しかし、それでもまだ日本語をマスターすることができていません。ここで言いたいのは、そもそも外国語を勉強するのは非常に難しいということです。
 外国語を勉強することは、川を渡るようなものです。泳いで渡る人、船をこいで渡る人など、渡り方は人それぞれです。本書のなかには他の参考書とは異なる説明をしている部分もあるでしょう。それはどれが正しい、正しくないということではなく、アプローチが異なるということです。さまざまな学習法があるなかで、この本がみなさんにとって、川を渡って向こう岸に到着するための「橋」のような存在になりましたら幸いです。
 そして、人によって川を渡る方法が違えば、向こう岸に着くまでのスピードに個人差があるということも納得していただけると思います。当然、外国語の習得スピードも人によって異なります
 これから先、本の内容が理解しきれずに落ち込んだり、うまく中国語が通じず挫折しそうになったりすることがあるかもしれません。それでも焦らずにゆっくり自分のペースで勉強を続けることが大切です。

2.中国語と日本語の共通点をいかそう

 当然のことと思われるかもしれませんが、中国語と日本語には共通点と相違点があります。「日本語と中国語は同じだ」という風に考えてみてください。仮に、50% は共通、50% は異なるとした場合、異なる50% の部分に集中して中国語を勉強していけばいいからです。反対に、「日本語と中国語は違う」という前提からスタートすると、共通点も相違点も覚えなければなりません。
 たとえば、「象は鼻が長い」という文のように、中国語にも話題を提示してから話を進めていく方法があります。そのため、“ 我动手术(私は手術をします)。” は「私が(医師として)手術をする」と「私が(患者として)手術をする」という2つの解釈をすることができます。
 これはほんの一例ですが、中国語と日本語にはさまざまな共通点があります。相違点を覚えることになるべく力を注ぐことで、効率よく勉強ができるでしょう。考え方の問題ではありますが、「違うところだけ覚えていけばマスターできる」と思うと、より前向きに学習に取り組みやすくなりませんか。

3.相手への想像力を働かせよう

 言葉の背後にはネイティブの世界が広がっています。そこにはみなさんにとって理解しづらい感覚もあるかもしれません。
 たとえば“ 他以前是老师。” は、「彼は先生だった」と訳されることが多いですが、実は「彼は現在も先生である」可能性と「彼は現在は先生ではない」可能性があります。
 これは日本人にはなかなかとらえづらい感覚でしょう。これから中国語を勉強していくなかで、ついつい日本語の発想に固執して中国語を理解しようとしてしまい、壁にぶつかることがあるかもしれません。そのときは、想像力を働かせて相手の立場に立って考える習慣をつけましょう。それによって日本語の世界とは異なる、中国語の世界がみなさんの前に広がり始めるはずです。

4.文脈と一緒に意味を考えよう

 言葉は話し手と聞き手がいてはじめて成り立つものです。つまり、言葉は、そこに独立する意味があるわけではありません。これは単に話し言葉に限ったことでなく、書き言葉であっても聞き手(読み手)のことを意識して言葉を考えなければなりません。話す人と聞く人の両方のやり取りのなかで言葉の意味を考える習慣をつけましょう。言葉は人間の行動の一部なのです。
 たとえば、“ 你明天去上课吗?” は、「明日、(生徒として)授業に出ますか?」と「明日(先生として)講義をしますか?」という2 つの解釈ができます。中国語では、ここであえて「授業を受けに行く」のか「授業をしに行く」のかをはっきり言う必要はありません。それは、聞き手の立場によって文の意味が変わるためです。さらに、ネイティブの頭の中では「聞き手が理解できるのであればわざわざ言葉にして話す必要はない」という意識も働いています。
 言葉は話し手と聞き手の共同作業です。つい話し手にばかり意識を向けてしまいがちですが、聞き手の立場や状況を考慮しなければ、正しい意味は伝わらないのです。文法的に正しい言葉を言ったとしても、聞き手の理解が違ったら意味がありません。
 中国語を使うときも、文脈を意識して話し手と聞き手の両側から意味を考えましょう。先ほどの例のように、私たちは日常生活のなかでだれもが文脈を考えながら言葉を話したり聞いたりしています。ですので、一文の意味だけでなく、文脈を取り入れて考えましょう。ひとつの文がなぜ正しいか、正しくないかを考えるときには、話し手の原理だけではなく、それを受け取る聞き手への理解も重要なのです。

5.文法用語よりネイティブの考え方に注目しよう

 たとえば中国語には以下のような表現があります。
  ①在那里写。「そこで書く。」
  ②写在那里。「そこに書く。」
 これを文法的な観点から見ると、① の“ 在” は「~ で」という意味で「行動の場所」を表し、②の“ 在” は「~ に」という意味で「動作の着点」を表す、と説明することができます。しかし、「正直こういう説明は苦手…」と感じる方もいるかもしれません。
 今度は少し視点を変えてネイティブの考え方をもとに例文を見てましょう。「中国人は時系列にそって、動作の順番で話す傾向がある」ので、①の「そこで書く」は「まずそこにいる、その後に書く」、②の「そこに書く」は「まず先に書く、書く場所はそこ」と考えることができます。
 このようにネイティブの感覚をもとに例文を分析することは、中国語をよりスムーズに理解するための手助けとなるでしょう。
 「こう言えば相手はわかる」「あの言葉は言わなくても相手はわかる」というように言葉の背景にはネイティブ同士の暗黙の了解があります。つまり、文法というのはネイティブの考え方からまとめられたルールなのです。そのため、文法を用語として暗記するよりも、むしろネイティブの考え方に注目した方がいいでしょう。

6.まずは中国語の全体像を把握しよう

 本書を使って勉強するとき、みなさんに意識してもらいたいのは、先に細かい部分に目を向けるのではなく、まずは全体像を把握するということです。絵を描くときを例にしても、「構図→輪郭→それぞれのパーツ」というように「全体→細部」という順番で進めるのがよいとされていますよね。中国語もそれと同じです。
 中国語は、物事のとらえ方によって、おもに3つの文型を使って表現します。具体的には「これは何か」「これはどうであるか」「私はなにをするか」という3種類です。
 この3つの文型の要点をバランスよくおさえ、そこから細かい知識や、文型と文型の間の関係を理解していきましょう。
 最初のうちは細かいところにこだわりすぎず、全体的に見ていくことで、結果的により効率よく中国語文法を理解できるでしょう。

7 .「理論」と「実践」をうまく組み合わせよう

 中国語には“ 理论结合实践” という言葉があります。文字通り「理論と実践を組み合わせる」という意味です。
 この本で私が説明するのはあくまでも理論の話です。みなさんは書いてある内容を疑いながら勉強を進めてください。そして、なるべくたくさん中国人と会話したり、中国語で書かれた本や新聞を読んだり、映画やドラマを見たりしてみましょう。たくさんの実例を通して、この本に書いてあることを検証していってください。
 この本を読みながら内容を暗記する必要はありません。逆に意識して実践を積まなければ本書の内容はなかなか定着しないでしょう。実践の場で「あ、これ本で勉強したところだ!」という気づきがあれば、みなさんはきっと自然と本書の内容を覚えられるでしょう。
 最終的に、みなさんが中国語を正しく理解し、中国人とうまくコミュニケーションが取れるようになって、この本が必要ではなくなるほど中国語が上達してくれることを願っています。それが、私が一番望んでいることです。

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また、明日から順次書店での販売も始まりますので、お近くの書店で本書を見かけた際にはぜひお手に取ってご覧ください!


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