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生活の鎮魂歌『スティルライフ』

 頭の中に留まっていた風景がコマ送りのように流れていく。特別な風景ではない。どこにでもあるような――むしろ単調な風景。窓辺から差し込む朝の日射し。高架橋から見える車の往来。電線越しに映える雲。青い空と、西へ渡っていく鳥の群れ。生活の中に溶け込んでいる風景を拾い出し、そのガラスの表面をそっと日の元に差し出していくような音楽。それが『スティルライフ』。


 日に当たる側面を変えていくことで、その煌めき方も変化していく。ピアノ以外の楽器はない。ゆったりとしたリズムに素朴な音色が重なり合っていく。せわしのない日常を弛緩させ、落ち着いた色香を呼び起こさせるように。音楽というインクを垂らし、徐々に色が変わっていく楽しみを思い出させるように。あくる日、ある光。いつかの情景といつまでもそこにあるはずの温もり。空の下にいるだけで享受できるはずのその安らぎ。遠くの雨の音や、誰かと誰かの楽しげな会話……目を閉じ、どこまでも青く広がる空を窓の向こうに眺めながら、ずっと聴いていたくなる音楽。僕はまだ人生を続けている。

 紙ジャケット仕様のCDには五つの写真が入っていて、それがまた良い。叙情的で、等身大で、何かを想起させるような風景。それらの風景が一つの記憶を含み、個人的な物語に繋がっている。『音楽で何とか生活できるようになり帰省した際、母のピアノ・レッスン室へ足を運んだ。小学校の校長先生だった祖父は僕が八歳の頃、亡くなった。五月の風と青空をよく覚えている(中略)……丁寧な包みを開けると、祖父が描いたであろう静物画が現れた。持ち帰り、東京の部屋に飾った。それから十年が経ち、僕は静物画という意味の「スティルライフ」というピアノソロ・アルバムを作った(中略)……物語はどこから始まっていたのだろう』

 写真の裏にはこのピアニストの記憶が綴られている。物語はどこから始まっていたのだろう。その不可思議性がたまらなく愛しい。

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