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【ASIBAレポート】最終講評会+トークセッション "GROUNDBREAKING"

「ASIBA」(Architecture Studio for Impact Based Action)は、東京大学・早稲田大学建築学科生有志(代表:東京大学大学院建築学専攻修士1年 二瓶雄太)が企画・運営している、建築系学生を対象にした2ヶ月間の都市建築領域に特化したインキュベーション・プログラムです。

ASIBAでは、2ヶ月の成果を発表する場として、カンファレンスイベントを開催しました。各プロジェクトのピッチイベントに加え、社会実装の領域でも活躍されている7名の建築家をゲストとして迎えたトークセッションや、参加者を繋げる交流会なども企画しました。
本記事は、当イベント GROUNDBREAKING のレポートになります。ご覧いただき誠にありがとうございます。


#0. GROUNDBREAKING

ー複雑化する建築・都市領域の社会課題に対して、建築を志す者には今何ができるのだろうか。
ー描いた未来図を現実の社会へと実装するためには、どのような道があるのだろうか。

ASIBA GROUNDBREAKING 2023 は、自らの妄想を形にするための姿勢を問い、繋がりを生むための1DAYカンファレンスです。ディスカッションやピッチイベントを通して、建築・都市分野が培ってきた妄想力を武器にした建築の社会実装の新たな形を模索します。

8週間のインキュベーションプログラム「ASIBA」では、約15名のメンバーがそれぞれのアイデアをもとに社会実装可能な仕組みを構想しました。その成果から垣間見える新たな建築・都市デザインの在り方を、第一線で活躍されている「実装家」の方と共に探求します。

https://asibafes.peatix.com/view

GROUNDBREAKING は新しい建築の姿を模索するためのイベントです。80名ほどの建築学生が一堂に会し、社会実装について考えました。清水建設のイノベーション拠点NOVAREを会場として使わせていただきました。

  1. NOVARE TOUR
    本会場でもある、9月にオープンした清水建設イノベーション拠点「温故創新の森 NOVARE」の内部見学ツアーを実施

  2. TALK SESSION
    建築の社会実装にまさに取り組んでいるゲストの方々によるパネルディスカッションを実施

  3. ASIBA FINAL PITCH
    建築学生向けのインキュベーションプログラム「ASIBA」のプロジェクトの最終ピッチを行い、社会実装という文脈での講評・審査を行う

  4. MEETUP
    リアル開催のカンファレンスだからこそ可能な、ミートアップを通じた交流。業界や組織、世代を横断した繋がりを作る



#1. NOVARE TOUR

カンファレンスの開幕に先立ち、本会場の「温故創新の森NOVARE」見学ツアーが清水建設様のご協力のもと行われました。ものづくりの技術を体感できる研修施設「ものづくり至誠塾」や、イノベーティブな研究開発を支援する大型実験場など、新たな時代を創っていく清水建設のイノベーション施設にふさわしい、魅力的な施設の数々を見学させていただきました。



#2. TALK SESSION

#TALK SESSION 01
『建築を社会実装するとは:新たな建築の方法論と社会像へ』

登壇者:渡邉修一(日建設計), 嶋田洋平(らいおん建築事務所), 嶂南達貴(scheme verge), 津川 恵理(ALTEMY)
建築・都市に対して主体的に関わる方法は、より多様な在り方が見出され始めています。妄想力を駆動して建築を「社会に実装する」とは、どういうことなのか。第一線でその問いに正面から取り組んでいる「実装家」の方々とともに、建築と社会の新たな関わり方を探ります。

セッション冒頭では、「拡大の時代」の終焉にあわせて、建築家という職能のあり方がどのように変わっていくのか、各分野の第一線でご活躍されている4人それぞれに考えを伺いました。空きビルの機能を改変することにより、地域の人を集め、運営・収益化するリノベーション事業を行っている嶋田さんは、建築の設計にとどまらず、事業や仕組みづくりまでを一体で建築家の仕事と捉えています。クライアントが減少し続け、建物が想定どおりに使われる保証もない現代においては、建築家自身が事業を提案し、経営に携わることで新しい仕事を「創っていく」ことが求められるのです。

建築のデザインをご専門とする津川さんも、そうした状況に理解を示し、建築家の「スタンス」が多様化していることを指摘しました。対象は「もの」か「こと」か、どのフェーズを扱うのかなど、取り組み方には無数のアプローチが存在し、顧客に選ばれるためには、そうした自身の立ち位置をはっきりさせる必要があるといいます。

続いて、空飛ぶクルマの社会実装に向けて、新規事業に取り組まれている渡邊さんは、クライアントからの依頼を「待っていればくる」といった受け身の姿勢を脱し、事業者みずからが未来の大きな構想を描いて、実装に向けて主体的に取り組むことの重要性を強調します。空飛ぶクルマといった革新的モビリティが特別視されることなく、誰でも気軽に利用できるになることが渡邊さんのビジョンであり、そうした社会の実現を見据えることで、現実の仕事の重点や方向性が定まってくるのです。
渡邊さんはまた、新規事業や革新的技術を最初に導入するのは、都市部よりも地方の方がポテンシャルが大きいことを指摘します。自治体の補助金が得やすいことや、都市部ほどシステムが固定化していない地方において、建築系の新規事業が活躍する土壌は大きいと言えます。

まちでの体験のDX化によって新たな価値創成に取り組む嶂南さんは、建築領域で新規事業をいかに実現していくかについて、スタートアップの観点から議論を展開しました。一度の契約で何千億というお金が動く建築業界だからこそ、事業と顧客のニーズをうまくマッチングさせることが大きな利益に繋がるといいます。
嶂南さんはまた、渡邊さんの話をふまえて、地方でビジネスを展開していく際の戦略について語りました。地域のユーザーが不足している場合、単一の企業が独立して事業を行うだけでは不十分です。むしろ、そこが最初のコアとなって他のコンテンツを巻き込んでいくことで、オープンなプラットフォームビジネスを展開できる可能性があるといいます。


#TALK SESSION 02
『建築を社会実装するために:若手実践者のビジョンとリアル』
登壇者:髙堰うらら(omotete), 山口大翔(SAKIYA), 池本しょうこ(ND3M)

まさに実装への道を歩んでいる、あるいはその入り口に立っている若手の立場から、率直で等身大の意見を交換します。目指している世界と目の前のリアル、それぞれを語ることで参加学生にとって新たな可能性の芽となることを期待します。

セッションに登壇していただいた3人は、同年代の新進気鋭たる若手実践者でありながら、事業化の経緯や社会との関わり方においてそれぞれが違ったスタンスを持っています。駅や商業施設で配布できる生理用品の拡充、ひいては女性のモビリティの向上に取り組まれている高堰さんは、もともと生理用品の配布サービスに関する実証実験を学生有志で行っていたといいます。ヒアリングなどを通した仮説検証をもとに徐々に規模を拡大していき、在学中での起業に至りました。
高堰さんによれば、事業を成功させるためには、単に技術を実装して行くだけではなく、利害関係の調整や経営戦略を通して、いかにルールメイクを行っていくかがカギになるといいます。

一方、コンピュテーショナルデザインやデジファブを中心に活動するND3Mの池本さんは、どれだけお金をかけずにイノベーションを生み出せるかという点に、事業の面白さがあるといいます。ND3Mは学生・社会人など様々な所属を持つ方から構成される任意団体であり、収益化を図るかわりに、社会的に大きな意義を持つプロジェクトを多く実施しています。そうしたスタンスによって、クライアントを説得させる難しさはあるものの、様々な企業や自治体などとの柔軟な連携が可能になるというメリットがあるといいます。

そして、ミリ波による非破壊検査技術によって、木造家屋の耐久性評価を行い、空き家活用の促進を目指しているSAKIYAの山口さんは、アカデミアの領域にとどまらず、社会での実践を通して、社会問題の解決に挑むことの可能性を説きました。もともと3Dプリンターを用いた建築物のジョイントの研究開発を行っていた山口さんは、大学に在籍していながら、プロジェクトを通じて社会と接点を持つことが多くあったといいます。またミリ波の技術を用いたデバイスの開発が、空き家関連だけでない様々な分野での問題解決に役立つことも期待できるといいます。専門分野にとらわれず、社会に潜んでいる課題に対して柔軟に対応していくことが今後のカギになりそうです。



#3. ASIBA FINAL PITCH

トークセッションの後は、いよいよ各提案のピッチに入ります!
ASIBAプログラムで8週間やってきたことを合計10チームが発表しました。

ASIBAは主に次のようなものを重視していました。「顧客の側に立って考えること」「仮説検証を行うこと」「強いビジョンを見せること」「粘り強くやり続けること」。社会実装を軸にしたスタジオだからこそ使う人や業界のことを最大限に考える、建築学生のプロジェクトだからこそ信念や思想から始める。このように提案を磨いていくことで、ようやく社会が耳を傾けてくれるようになると私たちは考えています。

ピッチというものも建築ではあまり見ることがありません。主にビジネスの場で行われるピッチは、設計スタジオのプレゼンテーションとは少し異なります。投資家や顧客など分野外の方々に見てもらうことが前提のため、共感や説得力が重要となってきます。今回のピッチでも、それぞれが何を考え何に情熱を燃やしているのかを軸にしたストーリーとともに、新しい価値と今後の計画を語ってもらいました。

以下が10の提案です!
ASIBAには意匠・環境・構造・都市などさまざまな建築学生が参加し、提案内容も建築設計・アート・設備システム・流通サービス・都市アプリと多種多様でした。みんなで切磋琢磨しながら実装へと向かっています。
※各提案の詳細は別の記事にまとめる予定です


二畳建築設計事務所(新美志織, 吉村 理子)
「二畳からはじめる。」
二畳建築プロジェクトを構想中。軽トラックの荷台に乗せられる規格内で小さな建築を設計・販売する

最初の発表は新美さんによる二畳建築でした。軽トラックの荷台サイズの建築空間を設計・施工し、販売するというものです。図書館からシャボン玉までさまざまな使い方を企画中です。実際に街を走っている姿を想像したくなります。12月から実証実験として実際に制作・使用を試すそうです。


森田靖之
「中古家具に新たな価値を」

壊れてしまった、欠けてしまった中古家具にアッタッチメントを付けることで、新たな価値を生み出す提案

森田さんの提案は中古家具の新たなブランディングについてです。実際に制作した椅子を見せながらピッチを行いました。壊れて使えなくなったお気に入りの家具の再価値化というとても楽しい試みです。講評では、新たな部品を記号的に挿入するだけでいいのか、という点が問われていました。


馬場悠輔
「Problem」

馬場さんの提案は、境界を揺らがせることで建物のルールから抜け出したい、という探求から生まれました。自分の部屋や公共空間に「やわらかくて大きいハコ」という異物を挿入することで、意識してこなかった生活のあり方や空間の新鮮さを生み出します。とても挑戦的で美学的な作品です。


中山亘
「纏う寄席」

現代の落語を、建築の観点から構想

中山さんの提案は純粋な落語への愛によるものです。落語を広めるために、新しい落語建築やスタイルの可能性を探っています。現代茶室のように、落語を成立させる最低限の要素以外は自由な「現代寄席」を考案しました。ギャラリーや都市空間で新たな落語が実演される日が来そうです。


俵健太郎
「大十:新しい大工との作り方」

地方創生における、大工と移住者との共創

俵さんの提案は大工を繋ぐプラットフォームです。家を「一緒に」作ってくれる人を大工であると考え、地方移住者と大工のマッチングを行います。自身のDIYやセルフビルドの経験から感じた、知識や技術を対面でシェアできる仕組みの必要性に答えていきます。


Y3N(山路湧, 二瓶雄太)
「ともに学ぶための場」

勉強会促進プラットフォームの提案

Y3Nの提案は勉強会プラットフォームです。勉強会オタクの山路さんは、ともに学ぶ場の大切さと、日時設定や人集めといった環境づくりの大変さを訴えます。このプラットフォームを通して共通のテーマを持つ学生同士の交流を図り、やがて企業とも繋げていきたいとのことです。


宮田龍弥 , 藤間朋久
「建築設備の『自律化』による建築と人間の『共生』」

AIを用いた中古ビルの維持・管理ビジネスの提案

宮田+藤間さんは、AI設備管理のアプリケーションWithvacを提案しました。都市に存在する大量の設備を、AIを活用し最適に管理するシステムです。建築と人間の双方向的な「対話」を促すことで、ビルオーナーにとっても設備会社にとっても価値のあるシステムを開発していきます。

ReLink(本多栄亮, 水越永貴, 渡会裕己)
「建材再利用の標準化」

解体した建築資材や部品を再利用する仕組み作り

Relinkは、中古建材に新たな価値を見出すためのシステムを提案します。既存建材のリユースを推進するために、建材情報や設計者をつなぐプラットフォームを開発中です。廃棄される建材量から隠れ資産額を算出し、都市に埋もれる宝の山の価値と新しいデザインの可能性を追求します。


NESS(森原正希, 須藤望, 川北大洋)
「生成AIを用いたボトムアップデザインサービス」

生成AI技術を用い、民主的な都市開発を目指す

NESSの提案は、まちづくりへの生成AIの活用です。生成AIのデザインの民主化の側面に着目し、多様な視点を取り込むための市民参加型ワークショップの可能性を模索します。地域住民に主体的に参加してもらうことで地域への愛着を示し、安易な再開発への対抗策となることを目標とします。


ASIBA(二瓶雄太ほか)
「建築都市社会実装スタジオ」

建築学科生有志が企画・運営する、建築系学生を対象にした2ヶ月間の都市建築領域に特化したインキュベーション・プログラム

ASIBA自体もASIBAでの提案の一つであり、実証実験の最中です。ここで得た気づきを活かして、これからの活動をより良いものにしていきます。
「終わりではなく始まりとしての最終講評会。社会実装とはつまり、ただ、ひたすら、やめないことなのではないか。」



#4. AWARD

受賞作の報告です!
ASIBA GROUNDBREAKING では、3つの協力企業に賞を作成していただきました。受賞作には各企業からの協力や支援などが提供されます。
企業のみなさま、ご協力いただき誠にありがとうございます。そして受賞者のみなさん、おめでとうございます!


■清水建設賞
二畳建築設計事務所(新美志織, 吉村 理子)
「二畳からはじめる。」

□実証実験の運用資金20万円が授与されます

清水建設賞を獲得したのは、新美さんによる二畳建築でした。ビジョンの面白さ、検証の深さ、プレゼンの説得力などさまざまな点で優れていた提案でしたが、最も光っていたのは彼女の情熱だったそうです。「この人に任せればうまく行く!」を最も感じさせた案でした。
12月からさっそく実証実験に入ります。まずはシャボン玉KIOSKのための二畳建築から始めるとのことです。実装まで進み続けます。


■日建設計賞
中山亘
「纏う寄席」

□共創スペースPYNTでのピッチの機会と該当分野のメンターによる3回のメンタリングセッションが授与されます

日建設計賞を獲得したのは、中山さんの落語建築でした。津川さんは以前、卒業制作の審査会で中山さんを推薦していたそうで、形を変えて落語建築が実現していく様子を見られて感動している、との言葉を頂きました。上演体験を覆すような、都市をハックする作品に展開していくようです。
日建設計の方との共創も期待できるなか、どのような落語建築/イベント/運動が見られるのかとても楽しみです。


■3x3 Lab Future 賞(エコッツェリア)
Y3N(山路湧, 二瓶雄太)
「ともに学ぶための場」
□該当分野の3名の会員様によるメンタリングの機会と、3回の発表イベントの開催権が授与されます

3x3 Lab Future 賞を獲得したのは、勉強会プラットフォーム"COLUB"を発表したY3Nでした。3x3 Lab Future は創造的な交流のためのイノベーション拠点ということもあり、COLUBの目指す勉強会の効果にとても興味を持たれていました。建築分野以外への波及も気になるところです。
実証実験は小さな規模の読書会から始まります。第一回はロバート・ヴェンチューリの有名な二冊を読みます。


■オーディエンス賞
NESS(森原正希, 須藤望, 川北大洋)
「生成AIを用いたボトムアップデザインサービス」

当日観覧に来ていただいた学生のみなさんにも投票していただきました。オーディエンス賞は、生成AIのまちづくりでの活用を目指すNESSでした。慣れ親しんで地元の景色がなくなっていくことに対する悲しみと怒りから始まったピッチが、共感と必要性を訴えたそうです。
最初の実証実験は、なんとカンファレンスの翌日でした。湘南でのまちづくりDXイベントの企画の一つとして、リアルなWSを行いました。



#5. CLOSING & NEXT

ASIBA GROUNDBREAKING は以上で閉幕となりました。
建築学生がもつ才能を活かし、建築を取り巻くさまざまな要素に目を向け、自分たちの未来というものに責任を持つための、社会実装という選択肢。今まで建築ではあまり語られてこなかった社会実装という領域を今ここで開拓していくことの重要さを、多くの学生と共有することが出来ました。
何かとてつもなく大きなうねりのようなものが会場を取り巻いている、そう感じられるほどの可能性に満ちたカンファレンスとなりました。

閉会後は立食形式の交流会を行いました。観覧に来ていただいた学生も含め、さまざまな話が飛び交っていました。業界や組織、世代を横断した繋がりのきっかけとなることを願っています。

ASIBAは今後も活動を続けていきます。第二期スタジオなどさまざまな企画を構想中です。興味のある方はご連絡ください。今後の活動もぜひ応援いただけると幸いです。

最後となりますが、今回ご協力いただいた企業のみなさま、ご登壇いただいた実装家の方々、観覧に来ていただいた学生のみなさん、当日運営に携わっていただいた方々、ASIBAプログラムへ参加しピッチも行ったメンバー、ASIBA運営の学生7名、みなさま誠にありがとうございました。今後の活動もぜひよろしくお願いいたします。



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ASIBAでは、第二期スタジオ開講に向け準備を進めています。興味のある方はTwitterまたはメールでお気軽にご連絡ください。


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