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FTX のチャプター11申請と関連する法的事項について

AsiaWise Group

文責:弁護士 阿部信一郎、弁護士 谷昌幸

1.はじめに

2022年11月8日、FTX の運営する取引所からの暗号資産及び金銭の引き出しが停止した。また、同年11月11日、FTXグループ各社は、米国連邦倒産法のチャプター11の手続きを申請した。グローバルにサービスを提供していたFTXの多額の債務超過が報じられているところであるが、日本で業務を行なっていたFTX Japan株式会社(以下「FTX JP」という。)については、資金決済法上の義務に従い、顧客からの預かり分以上の金銭及び暗号資産を保有しているとの発表がFTX JPからなされた。ただし、依然としてFTX JPから金銭の大部分及び暗号資産の顧客に対する返還はなされていない。

本稿においては、FTX及びFTX JPからの発表等に基づき、関連する法的事項について整理を試みる。本稿で言及した事実については、FTX及びFTX JP等からの公表事実以上の裏付け等は取れていないことに留意されたい。

2.発表等から窺われる事実の概要

(i)  FTXは暗号資産の現物及びデリバティブ取引等を取り扱う世界第2位の規模の暗号資産取引所であった。

(ii)  FTXは、基本的には、①バハマに本拠を置く法人が米国及び日本を除く全世界の顧客、②米国でライセンスを受けたFTX USが米国居住者、③日本でライセンスを受けたFTX JPが日本居住者のそれぞれに対してサービス提供を行っていた。

(iii)  FTX JPは、資金決済法に基づく暗号資産交換業及び金融商品取引法に基づく暗号資産デリバティブに関する金融商品登録業の登録を受けていた。

(iv)  2022年11月8日、FTX JPを含むFTXの取引所が暗号資産及び金銭の出金を停止した(この頃、FTX USについては何らかの引き出しができていたと思われるが詳細は不明。)。

(v)  同月10日、関東財務局は、金融商品取引法に基づく①業務停止命令、②資産の国内保有命令[1] 及び③業務改善命令、資金決済法に基づく①業務停止命令、②業務改善命令[2] を行った。

(vi)  同月11日、FTX JPは日本円の出金を一部再開し、詳細は明らかではないが、一定の範囲で顧客への返金を行ったようである[3] 。

(vii)  同月11日、バハマのFTX Trading、FTX US、FTX JPを含むFTXグループの約130社が、米国デラウェア法上のチャプター 11の手続きを申請した[4] 。FTXのCEOは米国の弁護士のJohn J. Ray III氏に交代した[5] 。

(viii)  同月13日、FTX JPから、顧客から預かっている資産に関し、暗号資産はFTX JPのコールドウォレットにおいて、法定通貨は日本の信託口座において分別管理を行っている旨の確認と保管する法定通貨や暗号資産の数量を含む保管状況についての報告がなされ[6] 、また、同月21日にも同様の報告がなされ、その中で顧客の米ドルの預かり残高については、換算レートにもとづいた円相当額を信託することにより、分別管理を実施しているとの報告もなされた[7] 。

(ix)  同月16日、FTX JPは、上記(v)のそれぞれの業務改善命令に従い、関東財務局に対し、業務改善計画の提出を行った[8] 。

3.関連する法的事項の整理

(1) FTX JPが管理する金銭について

資金決済法上、利用者の金銭については、元本の受益者を利用者、受託者を信託会社等とする信託が設定されなければならないと定められている(同法第63条の11第1項)。上記2で述べたとおり、FTX JPの発表によれば、FTX JPの利用者の金銭(日本円及び米ドル)は、日本の信託口座において分別管理されているとのことである。

(2) FTX JPが管理する暗号資産について

FTX JPは、資金決済法上、利用者の暗号資産を自己の暗号資産と分別して管理することを義務付けられている(同法第63条の11第2項)。そして、FTX JPの顧客が預ける暗号資産は、利用者の暗号資産の95%以上とFTX JPが保有する履行保証暗号資産(利用者の暗号資産のうちコールドウォレットで保管されていない5%以下に相当する数量)[9] とを合わせて利用者の暗号資産100%以上に相当する数量をコールドウォレット(インターネットとは遮断されたウォレット又はそれと同等のセキュリティのウォレット)に保管することが義務付けられている。

また、資金決済法第63条の19の2において、暗号資産を預けた顧客に対して、他の債権者に先立ち弁済を受ける権利が付与されている。同条第2項は、動産の先取特権について一旦第三者に引き渡しがなされた場合、優先弁済権が喪失する旨を定める民法の規定を準用している。なお、第3項の政令は、いまだ制定されていない。この優先的に弁済を受ける権利の法的性質としては、同条において民法の先取特権の規定が準用されていることから、先取特権に準じた担保権と一般的に解されている。

上記1(v)に記載の金融庁による資産の国内保有命令は、違反者に対しては刑事罰(1年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科)を科しうるものであるが[10] 、資産の国内保有命令に違反して一旦資産が国外に移された場合に国外から資産の管理権を取り戻すための直接の規定は設けられていない。

(3) チャプター11手続の基本的性質

チャプター11手続は、原則として管財人が選任されない「DIP(Debtor in Possession)型」と呼ばれる手続きであり、本件の債務者であるFTX の経営陣が手続開始後も引き続きFTXの資産(財団)の管理処分権を有する、日本の民事再生に類似する手続きである。ただし、本件ではCEOが弁護士に交代したことは上記2(vii)で述べたとおりである。また、FTX グループ内の親会社は、FTX JP等のグループ内の子会社または孫会社の株主としてFTX JPの役員の選解任を含む権限を行使することは妨げられない。

(4) オートマティック・ステイ

チャプター11手続きの申立てと同時に、自動的に債務者及びその資産(財団)に対するオートマティック・ステイの効力が発生し、債権の取立て、担保権の実行を含む広い範囲の行為が米国法上禁じられる。

オートマティック・ステイに違反する行為は私法上無効であり、また、違反者に対しては、損害賠償が請求される可能性があり、態様次第では、懲罰的賠償(punitive damages)の対象にもなりうる(連邦倒産法第362条(k)及び(l))。

オートマティック・ステイの効力は、理論上は米国の連邦倒産法に基づく手続きであり、したがって米国内の効力しかないはずである。しかし米国内に債権者が支店や営業所等を有している場合には上記損害賠償及び懲罰的賠償の対象となるおそれがあるため、実務上は米国外にもその効力が及ぶことも予想される。したがって、債権者による米国外の資産を対象にした取立てや担保権の実行にリスクが存在する。

オートマティック・ステイからの救済として、裁判所は、利害関係人(a party in interest)の申し立てにより、ヒアリング手続きを経た上で、一定の場合に、オートマティック・ステイの終了、取消し、修正、条件付けなどの救済措置をとらなければならないと定められている(連邦破産法第362条(d))。

(5) チャプター11の手続き内での資金決済法に基づく優先弁済権の取扱い

FTX JPが預かっている資産のうち、顧客の金銭については顧客を受益者とする信託が設定され、暗号資産についても、実態として分別管理され金融庁から国内資産保有命令が出されているため、グローバルとしてのFTXの観点からは、FTX JPの経営者を刑事罰のリスクにさらさずに、FTX JPが顧客から預かっている資産を日本国外に持ち出すことは困難である。他方、日本の顧客の観点からは、特にFTX JPが管理する暗号資産についての上記(4)で述べた米国法上のオートマティック・ステイのリスクに関して個別の事情に基づく検討が必要である。

(6) 仮差押え手続きについて

FTX JPの顧客がFTX JPから金銭又は暗号資産の返還を求めるために、日本の裁判所において仮差押えの手続をとることは考えられるか。

まず、仮差押えの手続をとるためには、「その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるとき」(保全の必要性)が認められる必要がある(民事保全法第23条第1項)。本件では、FTX JPの発表を前提とすればFTX JPが顧客から預かっている金銭や暗号資産は法令に則り分別管理されているとのことであるが、とはいえ顧客への返還はほとんど進んでいない状況であり、チャプター11手続きの申請及びグローバルでの債務超過の事実と相まって保全の必要性が認められるか否かについて、事実関係の精査と検討が必要になる。暗号資産の仮差押えについては、空間に実在するような有体物であることを要件とする「物」ではなく、また、分散性が保たれている限り「債権」にも該当せず、「その他の財産権」(民事保全法第50条第5項、民事執行法第167条第1項)として仮差押えの手続が行われることになる。その場合、秘密鍵を債務者(本件でのFTX JP)が管理している限り、事実上は、仮差押えの効力に反して暗号資産を第三者に送付することが可能であるというリスクが存在する。

また、利用者が仮差押えの手続をとったとしても、チャプター11を申し立てたFTXグループ側としては、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律(以下「承認援助法」という。)に基づく外国倒産処理手続の承認の申立て(同法第17条第1項)を行い、日本における仮差押え等の手続の中止やさらには取消しを求める可能性がある(同法第25条第1項及び第5項)。その場合、同法第21条に定める承認の条件や同法25条柱書の「承認援助手続の目的を達成するために必要があると認めるとき」などの条件について裁判所が判断することになる。

(7) 承認援助法上の管理命令

承認援助法との関連では、米国でチャプター11手続を申請したFTX グループが日本の裁判所に申立てて、FTX JPの業務及び財産に関して、承認管財人による管理命令が発せられる可能性もある(同法33条)。この場合、承認管財人は日本国内に存在する財産の処分や国外への持ち出しを、裁判所の許可を得て行うことができる(同法35条)。裁判所は当該許可を日本国内において債権者の利益が侵害されない限り行うことができると規定されていることから、日本国内の顧客である債権者の権利は保護されるものと解されるものの、このような事態が現実化した場合には注意が必要である。

4.おわりに

日本の規制によるある意味の不便さを受け入れ、コンプライアンスのためのコストも間接的に引き受けて取引を行ってきた日本の利用者が今回の事件に際してグローバルの利用者と同じ保護しか受けられないというのでは、あまりに日本の利用者にとって酷な結果となる。金融庁等の関与により、関係者間で調整の上、上記の認識のもとに速やかにFTX JPから日本の利用者へ金銭や暗号資産等の返還が行われることが期待される。

他方、本件は国内外の関係者の動きを含めて予断を許さない状況であることも確かであり、預かり資産の返還を受けられていない利用者その他の関係者としては、関連する法的事項について理解をした上で臨機応変な対応をとることも必要であると考える。


[1] https://lfb.mof.go.jp/kantou/kinyuu/pagekthp0270000011.html

[2] https://lfb.mof.go.jp/kantou/kinyuu/pagekthp202211103297.html

[3] https://twitter.com/FTX_JP/status/1590906063012134913

[4] FTX Groupによるプレスリリース: https://twitter.com/ftx_official/status/1591071832823959552
FTX JPによるプレスリリース:
https://help-jp.ftx.com/hc/ja/articles/12435959423385

[5] John J. Ray III氏は、エンロンの破綻事案においてエンロンのCEOを務めた弁護士である。

[6] https://help-jp.ftx.com/hc/ja/articles/12458835958681

[7] https://help-jp.ftx.com/hc/ja/articles/12719827213465

[8] https://help-jp.ftx.com/hc/ja/articles/12562926177817

[9] 資金決済法第63条の11の2

[10] 金融商品取引法第56条の3、第198条の6


執筆者

阿部 信一郎

霞ヶ関国際法律事務所 代表
弁護士(東京弁護士会)

日本における国内外の企業再編・倒産法の先導的な専門家の1人。直近では、JAL事件を超えて日本最大の倒産事件となったマレリグループのADR事件及び民事再生事件に手続実施者として関与。事業の再編・再生に必要な取引(M&Aを含む)、ストラクチャーにおける著名なアドバイザー。訴訟、仲裁やM&A、独禁法、コンプライアンス等守備範囲は企業法全般におよぶ。多数の著書を寄稿し、各種セミナー、イベントで講演。中央大学法科大学院客員教授(事業再生法)、国士舘大学法学研究科客員教授(会社法)。中国政法大学客員教授(日本法)

環太平洋国際法律家協会(IPBA)倒産法部前部長、東アジア再建協会日本支部代表、事業再生家協会執行役員、倒産実務家日本協会理事、国際倒産再建協会(III)アジア・日本担当理事、事業再生研究機構会員、日米法学会会員、米国法律家協会会員、米国倒産協会会員、国際仲裁総合研究所(JIIART)代表理事

HP: https://www.kiaal.com/lawyers/s_abe


谷 昌幸

AsiaWise法律事務所 カウンセル
弁護士(第二東京弁護士会)

司法修習終了後、西村あさひ法律事務所及び国内法律事務所において、主にM&A、クロスボーダー法務、独禁法の分野に従事。その後、個人的に興味を持ってきたBlockchain/Web3やデータ/DX分野とクロスボーダー×法務の掛け合わせの分野で世界に貢献したいと考え、AsiaWise法律事務所に加入。

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