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Withコロナ時代のアジアビジネス入門57「ニセコ町の共感資本社会と利他の思想」@デジタル経済と哲学(5)

 政府与党はWeb3(ウェブスリー)を日本の成長戦略の一つに据える。テクノロジーをめぐる論議が先行する中で、非中央集権で自律分散型のブロックチェーンを生かした経済社会とはどういうものなのか。共感資本社会を目指して非営利株式会社eumo(ユーモはEudaimonia持続的幸福の略。本社・東京都港区)を運営する新井和宏・代表取締役に経営哲学を聞いた。
SDGs未来都市ニセコ町に移住
--北海道ニセコ町に移住しましたね。
 新しい芽はテクノロジーとともに実体経済のプレーヤーがいなくては育たない。うまく融合していくには都会よりは地域の方が良いと思っている。ニセコ町の町長が地方自治体で初めて(eumoの掲げる)共感資本社会を目指すと町議会で宣言した。ニセコはSDGs未来都市に認定されており、自然と共生しながら、世界と様々な形でつながり、うまく自分たちで持続可能な仕組みをつくっている。eumoはニセコ町の住民自治を進める上で強力なツールになりうると思っている。
--eumoにとってWeb3とは。
 Web3で言えば、ブロックチェーン、NFT(非代替性トークン)、DAO(分散型自律組織)を駆使して新しい社会システムをつくっていく動きがある。しかし、我々はいきなりブロックチェーン、NFT、DAOが一般の人たちにうまく定着すると思っていない。テクノロジーは裏で活用すればいい。まずはその考え方とか仕組みのほうを優先したほうがいい。コロナによって電子マネーが普及しやすい状況になってきたので、まずはそこで切り替えていく。あくまで普段使っている決済サービスと同じ状況だと。ただ、その考え方が次の世代のものになっていると伝えることも必要だ。共感コミュニティ通貨eumoは3ヶ月で有効期限が切れるが、ニセコ町では、期限切れのおカネと売上高の1%は地域の子どもの未来のために使うことを決めている
地域で<共助の仕組み>つくり直す
--何のためか。
 共助の仕組みのつくり直しです。自分たちで経済を定義しておカネの流れを変える。その一部、つまり税金を自治体がとるのではなく、共助のお財布で集めて、それを住民自治のために使う。かつては互いに金銭を融通し合う民間の団体の「講(こう)」があり、そこには地域のしがらみがあった。今はテクノロジーで関係人口を増やし、共助のお財布でおカネを集めることが可能だ。地元の住民だけでなく関係人口の方々からも共助のお財布におカネを集めてきちんと住民自治に使っていく考えだ。新しい「講」の概念をつくっていくことが重要ではないか。地域でインフラを全部持とうとすると効率的ではない。様々な地域でプラットフォームを提供することが大切だ。地域のより良いものが発信でき、そこに共助のお財布が育(はぐく)まれていけば違う絵面になる。これが我々にとっての第1フェーズだ。
--次はどういうフェーズか。
 次に、地域で連携ができ、企業間取引が増えてきたら、ペイメントで法定通貨に替えることが少なくなるわけだから二次利用が促進される。これによって、おカネに関する新しい発想を提起し、新しい価値観を醸成したい。ギフト経済、贈与経済の入り口を提供する。実際、各ユーザーが、自分がどれくらいギフトしたか、どれくらいギフトを受けたかをきちんと可視化していく。今後、ギフトした量とギフトを受けた量の差分に対して、再びギフトを受けることができる機能をつける。これは利他的な考えを促進することになる。ギフトするという行為自体、幸福学上で幸福度が上がるといわれる。困ったときにきちんとギフトを受けられるようになれば、貯める行為より使う行為に着目するようになる。eumoはこの実証実験をしているわけです。
--eumoはなぜ、株式会社なのか。
非営利型株式会社のこだわり
 私は投資家として資本市場のなかで活動してきた。株式会社が「ここまでできる」ということを見せていくことが大切だ。実は昨年、非営利型の株式会社になったわけです。そうしようと思ったのは、プラットフォームを司(つかさど)る会社というのは儲かるうえ、携帯やペイメントを提供するような会社はある種の徴税的権利を持ってしまう。プラットフォームを営利企業がやってしまうと歪んでしまう。NPOとか一般社団とかの形態もあるわけだが、我々は株式会社でどこまでできるかを非営利型の株式会社として表現したい。それに加え、テクノロジーありきではテクノロジーが浮いた形、空中戦になる。地に足がついた形にならない。我々の役割は、中央集権でなくてもうまく機能できることを、テクノロジーじゃない部分でも表現することだ。
--岸田政権の掲げる「新しい資本主義」をどう評価するか。
 一番重要なのは世界観だ。個々の延長線上でスタートアップだとか、それぞれのパーツは分かるが、全体としてどこに持っていこうとしているのか、世界観が見えてこない。その時のデザインに向けて 新しい資本主義というならいいが、その場合でも、新しいものとは何かが見えてこない。 我々は新しいことにチャレンジしている 。その方向性に共感してくれているわけで、それがないと今までの延長線上になる。スタートアップに支援するから少し増えるかもしれないということでは、本当に新しいところにたどり着くことができるのか疑問が残る。
利他の能力>をビッグデータ化する
--金融やコミュニティの未来をどう考えるか。
 自由に自分たちの地域のおカネをデザインする時代がくる。これまでの金融の信用とは、借金を返したり、取引の決済実績に基づくものだった。我々が見ている将来像は、利他的な部分を増やし、ギフトしたり、ボランティアする能力をビッグデータ化して新しい時代の信用を変えていくことだ。利他の能力をデータ化、仕組み化することが重要だ。そうなれば、次の社会が見えてくる。

【略歴】新井和宏(あらい・かずひろ)株式会社eumo代表取締役
1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。2008年11月、鎌倉投信株式会社を元同僚と創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍した。鎌倉投信退職後の2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立。北海道ニセコ町在住。

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