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Withコロナ時代の視点 連続インタビュー②「アテネの大疫病と調査・追究(ゼーテーシス)」 佐藤正志・早稲田大学名誉教授@日本橋フェローセミナー

  佐藤先生は早稲田大学ジャーナリズム大学院(J-School)の創設のために尽力した一人である。
 4月10日の日本橋フェローセミナーZOOM会議で佐藤先生にインタビューした際、「Withコロナの課題ですが、BBCやSNSなどで情報をとっています。それと感染症と市民と政策課題についてJ-Schoolの同窓会誌に寄稿しました」と述べた。

 人間的価値に強くコミットしたツキディデスの「パンデミック報道」
  「繰り返す危機、パンデミックに喚起されて」(3月12日付)と題する寄稿は、ギリシア時代のアテネの大疫病にさかのぼり、調査・追究(ゼーテーシス)の重要性を述べている。
  「歴史的には、ツキディデスの調査・追究(ゼーテーシス)から歴史という分野が成立してきましたが、いまパンデミックに取り組むジャーナリズムの日々の報道はどうでしょうか。パンデミックによって私が直ぐに想起するのは、ツキディデスが『ペロポネソス戦史』において書き残した前430年のアテネの大疫病です。それは、やはり『戦史』に記録された、アテネのデモクラシーの輝きとそれを支える市民的徳を高らかにうたいあげたペリクレスの演説の行われた年のその翌年のことです」
  「ツキディデスは、疫病に感染した人々の症状から、それが都市全体に感染してゆき、やがて人々のモラルを打ち砕き、ポリスの社会生活そのものを解体してゆくまでの過程を、きわめて詳細に、息をのむような情景の描写で報告しています。それは作り事を排して、因果関係を明らかにしようする方法と同時に、自由な市民の社会を成り立たせている人間的価値への強いコミットメントによってはじめて可能となったドキュメンタリーのように思えます。調査・報道が歴史に連なってゆくことを、今日の危機は喚起しているのではないでしょうか」

 共生社会の為のメディアとリベラルアーツ

 佐藤先生は2019年3月2日、「政治理論史の課題と方法—ホッブズの政治哲学を軸として」をテーマに早稲田大学3号館で最終講義を行った。その10日後、日本橋フェローセミナーの前身となる「ビジネスイノベーション創造講座」(早稲田大学日本橋キャンパス=WASEDA NEO、毎日アジアビジネス研究所共催)で、「共生社会の為のメディアとリベラルアーツ」と題して講演し、小松浩・毎日新聞主筆と対談した。
 佐藤先生は、2008年度に設立したJ-Schoolの意味を「アカデミアとジャーナリズムの出会いの場」と表現し、プロフェッショナルとしてのジャーナリスト養成の必要条件として①専門知、すなわち幅広い専門分野について科学的知識と哲学の理解②ジャーナリズムとメディアの役割に対する深い洞察③批判的思考力④プロフェショナルな取材・表現力⑤現場主義、つまりフィールドに基づく経験――をあげた。
 パンデミックをめぐる報道・調査の在り方を考えると、「科学的知識と哲学」を反映した番組や記事が少ないことが気になる。
 佐藤先生は講演で自由な市民にふさわしい技術・学問としてギリシア的伝統である「自由七科」(人間についての学問の三科=文法学・論理学・修辞学、事物についての学問の四科=算数・幾何・天文・音楽)が環境の変化に応じて何度も学び直すリカレント教育には必要であるとの考えを示した。
  企業や大学の枠を超えて<卓越した経営リーダーのための学び>を追求する人材育成塾・日本橋フェローセミナーの設立にあたっては、急激に変化し変容する世界の未来を見据え、思考の軸としてリベラルアーツ、「自由七科」の要素を取り入れている。

 4月28日にONLINEセミナー「アフターコロナに向けて」を開催

 日本橋フェローセミナーは4月28日(火)19:00-20:30、ONLINE(ZOOM)による合同セミナー「アフターコロナに向けて」を開催する。


佐藤正志(さとう・せいし)早稲田大学名誉教授
2019年3月、政治経済学術院教授を定年退職。在職中、大学院政治学研究科長、政治経済学術院長、早稲田大学理事を務める。2006年9月に政治学研究科長に就任するとともに、科学技術ジャーナリスト養成プログラム(MAJESTy=Master of Arts Program for Journalist Education in Science and Technology)の代表者を引き継ぎ、またその在任中である2008年4月のジャーナリズム大学院(J-School)の創設のために努力した。


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