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Withコロナ時代のアジアビジネス入門㊹「ナイチンゲールと<愛の風景>」@札幌「テレサの森」物語(2)

「近代看護教育の母」の理念を投影
 札幌市南区真駒内郊外にある700坪の自然豊かな傾斜地を音楽家の演奏活動の舞台にするべく始まった園芸療法士、石山よしのさんの「テレサの森」プロジェクトは少しずつ進み始めている。音楽家や芸術家など様々な人々が関わり、古楽に始まった構想は今や<音楽や芸術にとどまらない舞台構想>へと歩み続けている。その舞台構想とともに、「テレサの森」プロジェクトには石山さんが希求する近代看護教育の母、フローレンス・ナイチンゲール(1820年~1910年)の理念を投影した<愛の風景>が見える。
 石山さんは、札幌、東京、千葉県において、医療現場で看護師や看護管理者として12年、看護学校の専任教員として15年、その他医療コンサルタントや私立看護専門学校の設立や副校長としての学校運営など長年にわたり医療、教育に携わってきた。
自然治癒力 発揮できる環境づくり
 その根底となる原点として一貫して尊重してきたのは、クリミヤ戦争で尽力し看護の歴史に名を残したナイチンゲールの教えだった。それは石山さん自身が寄り添うべく患者や看護学生、現場で働く職員、対象は違えども「その人自身の自然治癒力や持てる力が十分に発揮できるように自分自身も含めた環境を最良の条件に整える」ことにあるというナイチンゲールの看護の捉えにあった。設立にかかわった私立看護専門学校のエントランスには、アーテイストの小助川裕康氏によって彫られた木造のナイチンゲール像が立ち、今も看護学生を見守り、その精神を受け継いでいる。
自他ともに<保身との闘い>
 しかし、長きにわたる経験には、常に試練や葛藤が多く、自他ともに<保身との闘い>の連続であったという。そんな時勇気づけてくれたのがマザーテレサ(1910年~1997年)である。自分にはもっと広く深い確固たる信念が必要だと思いを巡らせた時、ふと頭に浮かんだのが、迷った時、妥協しようとした時に自分を支え奮い立たせてくれたマザーテレサの言葉や彼女の強い使命と信念に貫かれた生き方だった。マザーテレサの魅力は、ナイチンゲールとの共通性が多くあり、保身にかられず信念と使命感を持って最後まで生ききることであり、その姿が石山さんの憧れでもあった。
「愛の逆説10か条」に精通したマザーテレサ
 「愛の逆説10か条」(ケント・M・キース著)にも精通しているマザーテレサの理解を深めることで、彼女の<愛>を根底にした使命感に基づく生き方は石山さんに確固たる指針を示すものであった。
 「愛の逆説10か条」の10条には次のように書かれている。
 「世界のために最善を尽くしても、その見返りにひどい仕打ちを受けるかもしれない。それでもなお、世界のために最善を尽くしなさい」
 この教えは石山さんの看護の仕事を支え続けた。私立看護専門学校設立から10年が経つ今、「わたしの庭」(仮称)の傾斜地頂上に建てられた「テレサの家」にはナイチンゲール像作者の小助川裕康氏に描いてもらったマザーテレサ画が飾られている。「テレサの森」プロジェクトの始動後に再会した彼の好意によって、今度は「テレサの家」中央にマザーテレサ像が造られる。10年もの時を越えて彼の彫りだす像はナイチンゲール像同様に、音楽や芸術、自然や植物に集う人々を「愛のまなざし」をもって見守り続けるだろう。
「自然や植物による癒し」園芸療法
 もう一つ石山さんを支え続けた大きな存在には「自然や植物による癒し」があった。仕事や家事の合間に欠かすことのない自宅での園芸活動は、仕事の大変さを忘れさせ、植物はそっと傍らに寄り添いいつも優しく活力を与えてくれる存在として実感できたという。看護教員時代に園芸活動が療法となる「園芸療法」を知り、仕事の傍ら札幌国際大学に通って園芸療法士を取得した。看護師退職後は臨床や看護教育を完全に退き、園芸療法で恩返しをしたいと地元を中心に病院も含め園芸療法活動をしている。
“ぷにゅぷにゅ”した多肉植物の魅力
 その活動は、5、6年前から園芸療法の題材植物として注目していた多肉植物の栽培をしながら、ワークショップやイベントなどで園芸療法の普及と多肉植物の魅力を広げている。多肉植物は“ぷにゅぷにゅ”とした多肉質な葉や独特なフォルムで人気があり、手入れがしやすい植物だ。将来的に、「テレサの森」プロジェクトは多肉植物はじめ植物や自然とのかかわりの中で心身を整え自然治癒力を高めながら健康的な暮らしの一助となり、近年注目されている植物の「癒し」の力を応用し、音楽、芸術、森林,芳香など総合的な代替療法や統合医療への足がかりとなる北海道発信の新事業にしたいと考えている。
プロジェクトは看護の総決算
 臨床ナースの頃の同僚であり、癌患者の緩和ケアサロンを目指す上野恵美子さんもプロジェクトに参画することになっている。石山さんにとって「テレサの森」プロジェクトは、ここに集う全ての人々の自然治癒力や持てる力が発揮できる最適な環境づくりとしての看護の総決算なのだ。そして、大の植物好きだった石山さんの母親や社会奉仕に人生をかけていた兄への想いも込め、今も石山さんは<愛の風景>の形づくりを考え続けている。
 次回は「テレサの森」設計をめぐる建築家の哲学を紐解いてみる。

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