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Withコロナ時代のアジアビジネス入門㉒「ベトナムはアジアの奇跡か」@梅田邦夫・前ベトナム大使ONLINE講座(3)

   ベトナムは東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の中で一番の経済成長が見込まれ、世界でもプラス成長を達成できる数少ない国の一つです。同時に、もめ事も多く、ベトナムの仕事は「OKYが合言葉」で忍耐が必要のようです。米中対立が激化する中、ベトナムは共産党国家に含まれるのか、民主国家の陣営なのか。そもそも、ベトナムと中国共産党との違いは何なのか。
 毎日アジアビジネス研究所は梅田邦夫・前駐ベトナム日本国大使を講師に迎え、第3回講座「経済からの視点:経済発展の勢いにあふれ歴史的転機を迎えているベトナム経済と日本」を10月23日に開催しました。
「もめ事」相談はASEAN諸国で最多
 私は講座の中で「日系企業から大使館への相談件数はASEAN諸国で最多であり、もめ事のほとんどはベトナム中央政府ないし地方政府に起因している」との指摘が印象的でした。これは現地の日本人商工会議所加盟企業数が2018年2月にタイを抜いてASEAN諸国で1位となり、10年間で約1千社から2千社に倍増したことと関連しています。経済分野におけるベトナムの重要性が高まることに伴って、もめ事などの相談件数も増えることを物語っています。まさに「ベトナムでの仕事は忍耐を要する。『OKY』<お前が(O)、ここで(K)、やってみろ(Y)>はベトナムに駐在するすべての人にとって合言葉」(梅田氏)には合点がいきました。
「ベトナムはアジアの奇跡か」(NYタイムズ)
 フック首相は10月2日、今年のGDP成長率を2.5%から3%を目指すと発表しました。日本、欧米など先進国が相次いでマイナス成長の中でプラス成長を維持しています。米ニューヨーク・タイムズ紙が「ベトナムは日本、台湾、韓国に次ぐアジアの奇跡になれるか」(10月13日付)と論評していますが、現在のベトナムは若さと成長のエネルギーに満ち満ち、政治状況も安定し、大きく飛躍する歴史的チャンスを迎えています。2017年以降、ベトナムへの投資ブームが再来し、2017年、18年は日本が1位となりました。投資累積額(19年末)は1位が韓国(677億ドル)、2位が日本(593億ドル)となっています。韓国の投資額が多いのは、韓国を代表するサムスンがベトナムに工場建設などで集中投資していることが要因となっています。

米中覇権争いでベトナムの立場
 梅田氏の講座で外交官らしい見解であると感じたポイントがあります。
 それは米中両国が覇権争いをし、「民主国家VS共産国家」に色分けされた場合、共産党が政権基盤のベトナムは苦しい立場になることも予想されるというものです。確かにベトナムの統治の序列をみると、トップがベトナム共産党書記長(チョン氏)、2位が国家主席(チョン氏が兼任)、3位が首相(フック氏)、4位が国会議長(ガン氏)となっています。
中国は強権統治、ベトナムは国民第一主義
 今回、梅田氏はベトナム共産党と中国共産党の類似点と異なる点を説明してくれました。
「共産党一党支配ということで多くの人が、ベトナムは中国共産党の弟分と誤解している。『容器』は似ているが、『中身』は大きく異なる。中国は強権統治だが、ベトナムは国民第一主義である」。
 梅田氏によると、類似点は正統性の確保、二重構造(党と政府)、土地ころがし経済、貧富格差拡大であり、異なる点は統治形態、思想、国会、司法、軍、少数民族、宗教、言論・報道の自由であるとのことです。
次期トップにブオン氏、フック氏ら
 ベトナムでは2021年1月、5年に1回開催される共産党全国代表者大会(党大会)を開催し、人事案が討議されます。チョン氏の退任は確実視されており、次期トップは経済対策に手腕を発揮したフック首相か、序列4位のブオン共産党書記局常務の争いとも伝えられています。私は汚職追及で求心力を増したチョン氏の側近であるブオン氏が優勢であると予想しています。チョン氏の好みが堅実な内政引き締め型のブオン氏であると思うからです。いずれにせよ、現在、水面下では激しい駆け引きと多数派工作が行われていることは想像に難くないでしょう。

■梅田邦夫(うめだ・くにお) 前駐ベトナム日本国大使
日本経済研究所上席研究主幹 、毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー
 広島県出身。1978年外務省入省。外務省アジア大洋州局南部アジア部長、外務省国際協力局長、駐ブラジル日本国大使などを経て、2016年10月から2020年3月まで駐ベトナム日本国大使。

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