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Withコロナ時代のアジアビジネス入門㉙「バイデンと旧約聖書<軋む大国を癒やせるか>」@東京逍遙塾

「米国は今、癒やしの時」演説 バイデン氏の多難な船出
 バイデン次期米大統領は1月20日に行われる就任式に臨みます。トランプ支持者による連邦議会議事堂の一時占拠を受け、警備はいっそう強化され、厳戒態勢下での多難な船出を印象づけそうです。バイデン氏は11月7日の勝利宣言で、旧約聖書のコヘレトの言葉(伝道者の書)をもとに「何事にも時があります。建てる時、刈り取る時、種をまく時、そして癒やす時があるのです。米国は今、癒やしの時です」と呼びかけました。現状は共和党のトランプ支持者との決裂は根が深く、同じ民主党内でも左派の若者などから支持されるサンダース氏ら急進派を取りまとめ、融和を図るのは至難の業です。
欧米人の<アイデンディティー>に訴える聖書
 それでも、国家指導者が聖書の持つ力強い言葉を使ってメッセージを発するところに、米国、そして欧州の人々の<アイデンディティー>(同一性)に訴える意味があると思います。
 バイデン氏が勝利宣言で「アメリカの心」を訴え、旧約聖書のコヘレトの言葉やイザヤ書40章31節をモチーフにした賛美歌「鷲(わし)の翼」を引用した意味を考えさせられたのは、アリストテレス政治哲学を学ぶ東京逍遙塾の荒木勝塾長(岡山大学名誉教授)のオンライン勉強会でした。
 荒木塾長は2020年1月、東京逍遙塾の勉強会でドイツのメルケル首相を取り上げ、その信念の奥には旧約聖書の最後に登場する預言者の文書「マラキ書」があると指摘しました。その後のコロナ禍で有名になった「誰一人みすてない」とのメルケル演説は旧約聖書がバックボーンの一つになっていることが分かります。
9・11テロでブッシュ氏がダビデの言葉を引用
 思えば、米国は成長の陰で国内的にも国際的にも軋轢(あつれき)を生じてきた歴史があります。2001年9月11日、当時、ワシントン特派員だった私は担当する米国防総省(ペンタゴン)にアメリカン航空77便が激突した直後、取材に駆けつけ、ペンタゴン職員が屋外に避難し呆然としている光景を「まるで野戦病院のようだ」とレポートしました。イスラム過激派による米同時多発テロの現場に立ち、これ以上の惨状が米国内で起きることは今後ないだろうと思いました。あの9・11の夜、当時のブッシュ大統領はテレビ演説で、旧約聖書の詩篇のダビデの言葉を引用し、「死の陰の谷を行くときも、私は災いを恐れません。神が私と共にいてくださるのですから」と語りました。
日本の指導者と言葉の在り方
 国難に直面した時、欧米の国家指導者は聖書という<アイデンディティー>に訴える言葉を持っています。では、果たして日本の国家指導者はどういう言葉を持っているのか。何が国民の<アイデンディティー>に訴えるのか。日本人にとって普遍の真理を持つ古典や宗教とは何なのか。こうした問題意識のもと、指導者と言葉の在り方について考えていきたいと思います。

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