コラム : 陳言の中国「創新経済」 躍り出たショートビデオサイト「TikTok」 --驚くべきそのビジネス化のプロセス

日系企業で働いている北京在住のママさん社員Tさんは、学校の保護者会で初めて抖音(TikTok、ティックトック)という言葉を聞いた。

「多くの小学生がティックトックで遊んでばかりいて、宿題を忘れます。親御さんはもっと厳しく子供のしつけをしてもらいたいですよ」と、小学校の教師はぼやいていた。Tさんは初めて「ティックトック」という言葉を聞いた時、何のことかさっぱりわからなかった。なぜ子どもたちはテレビゲームよりも喜んで遊ぶのだろうか? ネットで調べると、2分足らずでTさんは、ティックトックのソフトをダウンロードし、帰宅する時にはこのソフトについて詳しくなっていた。

「知らないうちに家に着き、知らないうちに暗くなり、夕食の準備もしないうちにあっという間に3時間経っていました。こんな面白い動画をみたことがありませんでした。ティックトックは見る人を愉快にさせ、時間が経つのを忘れさせ、こんなに長い時間、スマートフォンで遊ぶなんて私自身が信じられませんでしたよ」と、Tさんは話していた。幸いなことに、彼女の娘はティックトックで遊ばないが、もしティックトックで遊んでいたら、もっと長い時間、スマホを見ることになり、勉強は二の次になっていただろう。

ウィーチャットの強力なライバルに

上海に本社を置く中国企業「新浪」(SINA)は2009年8月、中国版ツイッター「微博」(weibo、ウエイボー)のトライアル版を世に出し、ポータルサイトの中で、ツイッターサービスを提供する初のサイトになった。「微博」は直訳すれば「マイクロ・ブログ」という一般名詞だが、一般的には「微博」といえば新浪を指す。このほか、「騰訊(テンセント)微博」、「網易微博(NetEase)」、「搜狐(Soho)微博」などがあり、一時、中国のネットユーザーが最も頻繁に使うソフトだった。2017年8月現在の月間アクティブユーザーは合計3億7600万人に達し、中国人成人のほとんど半数が微博を利用したことになる。

11年1月21日、騰訊が「微信」(WeChat、ウィーチャット)を売り出した。これはスマート端末が提供する即時通信サービスの無料アプリだった。利用者は「新浪はネットユーザー間の交流が不便」と感じていたので、微信が現れると、すぐに微博を上回り、庶民が使用する最も広範なスマホアプリとなった。昨年3月、騰訊の創業者兼経営最高責任者(CEO)の馬化騰氏は全国人民代表大会(全人代)で、ウィーチャットのアクティブユーザーはすでに9億8000万人に達したと述べた。

現在、北京字節跳動科技(バイトダンス)が16年9月にデビューさせたティックトックはウエイボー、ウィーチャットを圧倒し、中国で急速に広まっている。ティックトックは若者のミュージックショートビデオ・コミュニティー・プラットフォームで、ユーザーはこのソフトを使って楽曲を選び、ショートビデオを撮影し、自分の作品をアップできる。今年1月、ティックトックはアクティブユーザーが2億8000万人に達したと発表した。成長情勢から見て、ティックトックの伸び幅はかつてのウエイボー、ウィーチャットの成長を圧倒的に凌駕している。

ティックトックなどの出現によって、中国社会に大きな変化が生じた。かつてにぎやかだった駅や地下鉄車内が今ではすっかり静かになっている。ほとんどの人がティックトックに没頭し、時折、笑い声が聞こえる程度で、おしゃべりの声はほとんど聞こえない。このように、瞬く間にウエイボー、ウィ―チャットに取って替わったスマホアプリは見たことがない。

ウエイボー、ウィ―チャットとティックトックの間に連携はなく、1本の動画をティックトックからウエイボー、ウィ―チャットに送るにはダウンロードして、またアップロードしなければならず、かなり煩わしい。もし、この三つが連携していたら、ティックトックの拡大がさらに速くなり、最終的にウエイボー、ウィ―チャットを大幅に上回るだろう。

普及初めのビジネスモデル――「ご祝儀」でユーザー拡大

現在、日本ではキックバック方式で、モバイル決済の普及を図っている。一方、中国では日本と違って、ウエイボー、ウィ―チャット、ティックトックとも営業開始当時は「紅包」という「ご祝儀」「金一封」を配る方式が一般的だ。

今年2月5日の春節(旧正月)にティックトックは5億元(約80億円)の「紅包」を配った。大晦日の夜だけで、6114万人のユーザーがこのイベントに参加した。イベントの内容は簡単で、ティックトックは日本の紅白歌合戦のような中央テレビ局(CCTV))の番組「春節晩会」と連携して、「今年も幸せな1年に」をテーマにショートビデオを作り、結果的に関連動画の視聴総量は247億回を突破し、参加したユーザーは337万人に達した。ティックトックの「紅包賞」はこの時節にぴったりの内容(両親との触れ合いのビデオ、駅のホームで家族と再会した時の情景、家族に仕事の様子を伝えるビデオなど)だったので、ティックトックのユーザーの大部分がした。

2月5日は旧暦の元日。関連レポートによると、今年の春節は「ティックトックで新年おめでとう」が流行し、3000万人近いユーザーが「年賀状」を友人知人に送り新年を祝福した。ユーザーが新年のあいさつをする時、画面の背景に自動的に金色の昔の貨幣、金元宝や灯篭、春聯などの春節グッズが現れ、起動すると春節のBGMが流れた。こうした新鮮さから多くの人々をショートメッセージから春節ムードたっぷりの年賀ムービーを送り、素晴らしい祝日を生き生きと録画するように変わって来た。

スマホの録画機能を使うことができれば、読み書きができない人でも動画を送ることができ、動画で遠方の友人、家族と交流できる。こうした読み書きのできない層の人々もスマホ世界に直接入って来ることができる。ティックトックは完全にウエイボー、ウィ―チャットに取って替わることはできないが、ティックトックのユーザーがさらに増えれば、ウエイボー、ウィ―チャットに対する衝撃もさらに大きくなるだろう。


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陳言

ジャーナリスト、日本企業(中国)研究院執行院長

1960年、北京生まれ。1982年、南京大学卒。82-89年『経済日報』に勤務。89-99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99-2003年萩国際大学教授。03-10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。今年1月から「人民中国」副総編集長も務める。



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