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【The Dogs Story vol.5~熊本地震から5年救助犬ハルク】

オイラ、ハルクだよ。
災害救助犬として仕事をしているよ。オイラは2014年の広島土砂災害をはじめ、フィリピン台風災害、ネパール地震災害、茨城県常総市水害、台湾台風災害、そして2016年4月14日夜に起きた熊本地震災害の現場にも駆け付けたんだ。

熊本地震が起こった4月14日、オイラはオイラのハンドラー(母ちゃんなんだけどね。)と一緒に救助犬の試験を受ける為に、その日の夕方広島県神石高原町を車で出発して長野県に向かっていたんだ。オイラは、試験の緊張よりも母ちゃんと車で出かけることが楽しくてウキウキしていた。関西を過ぎて夜になりオイラは車の中でウトウトと気持ち良く寝てい。そして岐阜県までやって来た時、母ちゃんが「大変だ、ハルク!熊本で地震だ!」と叫んだ。オイラは「えっ?」と飛び起きて母ちゃんを見た。母ちゃんは、車をすぐに高速道路の出口から出て、またすぐ入口に入り反転180度して来た道のりを戻り熊本を目指した。電話で救助犬の試験をキャンセルするという事を話しているのを聞いて、オイラはこの地震はただ事ではないなと思った。車には、試験に備えて捜索活動に必要な道具もオイラのハーネスやフードも積んでいたし、準備はできている。母ちゃんとオイラは夜通し車を走らせ、広島を通り過ぎて、熊本に着いた時にはもう朝になっていた。

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神石高原町から出発した、夢之丞くんとレスキュー隊のみんなと益城町役場で合流して、被害の大きかった益城町役場周辺の住宅地に入った。多くの家の屋根瓦が落ちていて、倒壊している家屋もたくさんあった。オイラと夢之丞くんは、崩れている家の隙間に鼻を突っ込んだり、周りを嗅いだりしてそこに閉じ込められている人がいないか陽が暮れるまで探した。幸いここには人の臭いはなく、みんな無事に避難をした後だった。オイラたちの役割にはそこには誰もいないということを知らせるのも仕事なんだ。レスキュー隊は、この日の捜索を終えて一旦広島に戻ることにした。だけど、母ちゃんとオイラは、他の救助犬仲間が到着するのを待ち、災害対策本部の会議参加と今日の捜索の引き継ぎをして、夜の7時に益城町を出発した。帰り道は大渋滞で、高速に入り福岡県との境にあるサービスエリアについたのが、もう午後11時になっていた。夜通し走って捜索活動をした母ちゃんとオイラは疲れ切っていて、このサービスエリアで仮眠をすることにした。

車の中でぐっすりと寝ていると突然、ドンッと下から突き上げられたかと思うと、携帯のアラートが鳴って車がガタガタとひっくり返りそうな勢いで横に揺れていた。何だ?と思ったけど、それが地震であることはすぐにわかった。オイラはネパールで地震の揺れは経験していたし、母ちゃんが「ハルク、大丈夫だよ。」と落ち着いていたので、オイラも怖くなかった。でもそのサービスエリア付近は震度6あったそうだ。母ちゃんは車のラジオをつけて、「ハルク、大変だ!また熊本に戻らなきゃ。」と言ってあちこちに連絡をして、オイラはご飯を食べてトイレをして、母ちゃんはユニフォームに着替え、またすぐ出動の準備をした。オイラ達は再び熊本に向けて出発した。目的地は、土砂崩れが起きた南阿蘇村。

熊本地震は、4月14日に続き16日午前1時半頃にも再び大きな揺れが起こった。これが本震だったらしい。オイラと母ちゃん(ハンドラー)はその地震をサービスエリアで仮眠をしていた車中で経験した。情報収集してオイラと母ちゃんは、土砂災害と多くの大学生の寮が崩壊したという南阿蘇村へと車を走らせた。

 国道の検問をいくつか通してもらい、南阿蘇村が見えてきた所で、唖然とした。目の前に続くはずの道がない。山が大きく崩れ、道路と橋を流し、まるでものすごく巨大なショベルカーが山を掘り、えぐりとったような光景だった。現場はすぐ目の前なのに!助けを求めているヒト達がすぐそこにいるのに!検問にいた白バイ隊員さんに回り道を聞いた。かなり判り憎い道である。車をのぞき込んでオイラの顔を見た白バイ隊員さんが「自分が先導しますので、付いてきてください!」と言って白バイのサイレンを鳴らしオイラ達の車を先導してくれた。途中、山道にも大きな岩が落ちてきていたり、アスファルトが裂けていたり、とても普通の車では走るのは難しい。オイラ達の車は、本格オフロード。ここぞとばかりに性能を発揮してくれた。1時間ほど走ってようやく南阿蘇村に着いた。多くの家が崩れ、大学生の2階建ての寮は、1階が崩れてペシャンコになり2階が1階のようになっていた。ここに閉じ込められているヒトがいるかもしれないということで、オイラと母ちゃんは1階の隙間を探すことにした。オイラの背中がつく位の高さしかない隙間で、オイラは鼻をクンクンさせて臭いを探した。オイラ達犬は、1秒間に2回のペースでクンクンする。吸った空気は、鼻の横の切れているところから後ろ向きに吐き出すんだ。スローモーションで見ると、まるで蒸気機関車のようだよ。ここをクンクンしてもオイラの見つけられる人の臭いがしない。でも誰かいるようなんだ。だけどその人はオイラとは遊んでもらえない人なんだと思った。母ちゃんが、消防の人に首を横に振っていた。消防の人達が、チェーンソーを使って建材を切り始めた。

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 そしてオイラ達は、次の現場へ。高台の別荘地で山が大きく地滑りを起こし、家が4軒も一度に流されている。オイラは、広島土砂災害の時を思い出した。土砂は高さは家の姿が見えないような状態で、おいらは一生懸命クンクンしたけど、土の臭い以外しないんだ。これは重機が入らないとダメだということで、オイラ達はまた1時間以上歩いて次の現場へ。土砂で押し流された家が杉林で止まっている場所だ。ここでは、オイラたちと後から合流した自衛隊のみなさんと捜索したり、瓦礫を撤去したり暗くなるまで作業を続いた。

翌日からは、避難所に避難された方への支援活動に。犬や猫を連れて避難された方は、車中泊や体育館の外の軒下で過ごす方が多い。そんな方々に動物たちと一緒に過ごせるテントを立てた。人用の支援物資だけじゃなく動物用の支援物資も仲間たちに声をかけて集めてもらった。犬や猫たちも避難されている方々の大事な家族。一緒にいるから安心できるし、家に残してくるとそのお世話に帰った時に余震に遭うという2次災害も防ぐことができる。

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本当は、オイラ達が出動することが無いことがいい。だけど、いざという時にオイラ達の鼻を使って一人でも多くの人たちを助けたい。だから、オイラは日々訓練をするんだ。そんなオイラも今年10歳になるよ。そろそろ現場には行かなくなるかもしれないけど後輩たちも頑張っているし。だけどあと少しだけ母ちゃんと走りたいかな。

【ハルクのプロフィール】2011年6月21日生まれ。ゴールデンレトリバー。2011年東日本大震災が起きたことで私たちにチームに救助犬候補犬として来ることに。2014年IRO国際救助犬連盟主催の試験瓦礫部門A段階に合格。2014年8月の広島市土砂災害から昨年2020年まで、出動回数は15回。地震・土砂災害・高齢者や登山者の行方不明捜索に。明るく朗らかだが、ボールのためならその名の通り強靭なパワーを発揮します(笑)子犬の面倒を看るのがが好きで、最近はお父さんと呼ばれています。今後は、新人ハンドラーの育成にも一役買ってくれそうです。ハルク!私の相棒でいれくれてありがとう!

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