見上げてごらん

今から35年前のこと。
ちょうどいまごろのこと。
一番仲の良かったいとこ。
夜、ファミコンで銃を打つゲームをしていた。
「少し疲れちゃった」
そう言って彼は横になった。
ぼくもやめてとなりに寝た。
そっと手を繋いで寝た。
次に目を開けると、繋いだ手は汗でびっしょりだった。
彼は心臓が悪かった。
すぐおばさんを呼んで…
それから記憶が途切れた。
ぼくも発作が起こったみたいだった。
彼は、その日は、帰っては来なかったみたいだった。

見上げてごらん夜の星を
小さな星の小さな光が
ささやかな幸せをうたってる
見上げてごらん夜の星をボクらのように名もない星がささやかな幸せを祈ってる

今から35年前のこと。
ちょうどいまごろのこと。
一番仲の良かったいとこ。
次の日も、次の日も帰ってこなかった。
「少し疲れちゃった」
あの言葉が頭を回っていた。
彼と手を繋ぐかわりにぬいぐるみを抱きしめた。
彼は、そのまま帰っては来なかった。
それから数日、記憶がブツブツ途切れ途切れだった。
思い出したくない事は忘れてしまうということは本当だった。

手をつなごうボクと
おいかけよう夢を
二人なら
苦しくなんかないさ


二人なら苦しくなかったはずのあの時間。
将来はお菓子屋さんになると言ってたあの時間。
彼の笑顔ははっきりと覚えているのに。
遠くへといってしまったあの時間。

そして
今から35年前のこと。
ちょうどいまごろのこと。
日航機墜落事故があった。
それに坂本九さんも巻き込まれた。
大々的なニュースになった。
近くにあった「死」、
遠くで起こった「死」、
というものをまだ受け入れられなかった。
テレビを見ながら「上を向いて歩こう」を歌ってた。


ファミコンの銃
彼の手の温もり
誰もいない部屋
墜落のニュース
葬儀場のくろさ
火葬場のけむり
誰もいない部屋
誰もいない部屋

目をつぶると
それがフラッシュバックして繰り返す

いまも、そしてこれからも。
彼が、九さんと仲良く歌ってるといいな。
そう思いながら、夜空を見上げる。

見上げてごらん夜の星を
小さな星の
小さな光が
ささやかな幸せをうたってる
見上げてごらん夜の星を
ボクらのように名もない星が
ささやかな幸せを祈ってる


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