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渡辺周さん:2021年8月に選出されたASHOKA基準の社会起業家

4年ぶりに、日本からASHOKA基準の社会起業家が、選出されました。

ASHOKA基準の社会起業家の発掘は、世界中で困難を極めています。既にある社会の枠組みに当てはまる有能な人を探すのにはそれほど苦労しないのですが、まだ見えない未来の社会を想像して、将来なくてはならないシステム作りに取りかかっている人を見分けるのは容易なことではありません。

朝日新聞の記者として昼も夜もなく働いていた16年間で渡辺さんが気づいたことは、大手メディアの記者でいる限り、「権力者を客観的に監視して真実を読者に伝える」というジャーナリストの本来の使命を全うすることはできないということでした。ジャーナリストは個ではなくメディア企業の社員であるという了解が日本では一般的です。故に、「個の使命」を「企業の評判や利益」に優先させることは許されないのです。

権力者が特権を行使し、その陰で無力な者が犠牲になることがあります。そんな不条理を目の当たりにして、批判はしても、何の行動も起こさないのが普通です。が、その当たり前を許さない人たちがいます。

何年かかっても疑惑という膿に光を当て、粘り強く真実を掘り起こし、世に伝える。 彼らは「Investigative journalist(探査報道ジャーナリスト)」と呼ばれ、GIJN (Global Investigative Journalism Network) という国際的な連携ネットワークを築いています。

2003年に緩やかなネットワークとして生まれたこの繋がりは、2014年アメリカで非営利組織として認証を受け、88カ国から227のニューズルームがメンバーとなっています。2021年10月のノーベル平和賞を授かったマリア・レッサ氏も、このネットワークのメンバーです。

渡辺さんが立ち上げたTansa(旧:ワセダクロニクル)は唯一日本からのGIJNメンバーであり、渡辺さんはOSF(Open Society Foundation:オープンソサエティー財団)のただ一人の日本人の助成金授与者でもあります。人権が脅かされている国で、民主主義を維持しようと挑んでいる人々を支援対象とするOSFは、 1979年投資家ジョージ・ソロス氏が立ち上げた人権を守るための世界最大の民間レベルの財団です。発足以来、120カ国で 約320億ドルを投じてきました。

ASHOKAの選出する社会起業家は、何千キロも先の遥か彼方の津波が見える視力のある人に喩えることができます。まだ、私たちの生活にほとんど影響を及ぼしていないが、その津波は確実にこちらにやってくることを察知し、その時のための準備を始めているのです。

今回この基準をパスした渡辺周(わたなべまこと)さんが見る10年〜20年後の日本には、これまで私たちの生活の一部となっている大手メディアが存在しません。あるいは、少なくとも今と同じ形では存在していません。彼にとっての津波は、事実を国民に伝えるジャーナリストの不在の状態です。

隠されている真実を突きとめ表に出すという本来のミッションを全うする「ジャーナリスト」がいなければ、日本は民主主義どころか、その基盤である「事実を知る」ことすらできなくなるのです。一方、日本は欧米諸国に比べて、新聞やテレビから得る情報をそのまま信じこむ「鵜呑み度」が非常に高い国民です。

渡辺さんは、来たる時代に備えて、真実を伝えるジャーナリストを育成する取り組みをスタートし、それに対してASHOKAから認証を受けました。昨年4ヶ月に渡ってオンラインと対面のハイブリッドで開催したTANSA schoolは、2022年春に第二回が実施される予定です。

渡辺さんの描く理想の社会は、私たち皆が「真のジャーナリスト的なマインドセットとスキル」を備えている社会です。その理想の社会に近づくための手段をTansaスクールは提供してくれます。コースの募集対象は真のジャーナリストを目指す人だけではなく、すべての人です。コースには政府にコンタクトして自分で第一情報をとる簡単なやり方など、ハンズオンの手引きも含まれています。

私たちは、大手メディアの一部が、特定の政党の広報局的な関係となるなど、民主主義の番犬としての使命を守ることができない社会文化構造の国に生きています。ここで、私たち国民が傍観者や評論家に留まることは危険なのです。国民一人ひとりが、メディアの情報の信憑性をまず疑い、番犬となって、自分なりの吠え方や伝え方を習得していかなくてはなりません

10年後の日本の民主主義のあり方を左右するであろうTansa School が、産声をあげたのです。


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Tansaスクール

渡辺周さんの詳細プロフィール

Tansaについて


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