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中野実桜:多様性を身近に感じるボードゲームで誰もが誇りを持って生きられる世界へ

中野実桜さんは京都府の高校三年生。多様性を身近に感じられるような楽しいボードゲームIROIROを一から制作し、クラウドファンディングで200万円以上集めて製品化しました。

最初は紙ねんどで試作品を作ったりしながら、一年間かけて何度も作り直して今の形に辿り着いたそうです。何がきっかけだったのか、どんな道のりを歩んできたのか、この活動を通してどんな未来を作りたいのかを紐解いていきます!

(この記事は、2023年4月We Are the Change x 関西にて発表されたものをまとめたものです。)

ボードゲームIROIROとは?

「多様性・ダイバーシティ」をテーマに、実桜さんが作ったボードゲームIROIRO。

↓こちらは、ストップモーションを使って制作したIROIROの遊び方紹介動画。これを見るだけで、実桜さんがものづくりが好きなんだなということが伝わってきます。

まずプレイヤーにはパワーが配られます。優しさ、勇気、お金、知恵、芸術性など、それぞれ違うパワーを持っています。そしてこのゲームの主役は、「こまりびとカード」

この「こまりびと」は社会で困りごとを抱えている人たちなんですけど、具体的に言うと、車椅子ユーザー、トランスジェンダーの方、妊婦さんなど、色んなアイデンティティを持った人たちが出てきます。プレイヤーの人たちはみんなでパワーを出し合って、この「こまりびと」を助けます。

「こまりびと」を救うと、テトリスみたいなパズルピースがゲットできます。これを集めていって、ボードに上手く当てはめて完成させることが出来ればゴールという、協力型ゲームです。

きっかけはスウェーデンの幼稚園

なぜ「多様性」をテーマにしたボードゲームを一から作るようになったのか。

それは遡ること五年前、中学一年生の時に学校の研修でスウェーデンに視察へ行った時のこと。現地の幼稚園に貼ってあったあるポスターが目に止まったそうです。そこには、「お母さんが二人と、お父さんと子どもたち」、「お父さん二人と子どもたち」など、様々な形の家族の写真が貼ってありました。

現地の幼稚園の先生は、「私たちは、このポスターを使って、子どもたちに『家族の形は無限大にあるんだよ』って教えてるんだ」って言ってはりました。

 これを聞いて、まずすごい素敵だなと思ったし、私の中で「多様性 ≒ ∞」というテーマが密接に結びついていきました。この感覚をもっと今の子どもたちに伝えたいなと思って、ボードゲームIROIROを開発しはじめました。 

最初はあまり面白いものができず、何個もプロトタイプを作ったり、一人で人形を並べてテストプレイしたりして、少しづつ改善していったそうです。

デザインのスキルも、特別な機材もない中で、学校にあるパソコンでマウスを使って絵を描きながらカードを作っていったと言います。

お金も無かったので、クラウドファンディングで230万円集め、実際に製品化させることに成功しました。実桜さんは「ないない」づくしの中でも色々な工夫をしながら形にしていきました。

製品化して終わりではなく、このボードゲームを使いながらワークショップも開催しています。最初は相談のミーティングすら断られることも多かったり、「これどこに価値があるの?」と言われたりと苦しい経験もありつつ、今までに全国各地で300人以上にワークショップを届けています。

多様性って自分のこと

ワークショップの参加者から寄せられた感想やアンケートを元に、IROIROが届けている価値が二つあるという実桜さん。

まず一つ目は、「みんなが困りびと」というマインドが肌でわかる、ということ。

この「こまりびと」というのは、社会で色んな困り事を抱えている人たちのことです。ゲームの中にはこまりびとカードが44種類あるんですけど、これを見ているだけで、「あぁいろんな人がいるんやなぁ」とか「こんなことに困るんや」ってことが分かるって言ってもらえます。

特に「多様性・ダイバーシティ」という単語を出すと、多くの人がすぐ「LGBTQ」「女性活躍」「障がい者・外国人の雇用」など、自分に関係ない一つのトピックに結びつけてしまう風潮に対してモヤモヤを感じるという実桜さん。

私は、多様性は本来そういうものじゃなくて、もっと私たちに近いもの、私や皆さん、皆さんの周りの人たちのものなんじゃないかなと思っています。

なのでこのボードゲームでも、「いわゆる多様性っぽい人たち」だけじゃなくて、左利きの人だったり、お年寄りや妊婦さんも居ます。これは私自身の困りごとだったり、私のお母さんやおばあちゃん、友達の困りごととか、そういうのを織り交ぜて作りました。

多様性を「自分ごと」と感じるのが難しい人が多い中、実桜さんは楽しく遊ぶ中で自然とそう感じられるようなボードゲームを設計しました。ゲームを進めていくと、パワーが足りなくなっていき、泣き出す子が出てしまったことも。

私がいつも伝えているのは、「皆さん自身もこまりびとになり得る」ということです。

もしかしたら、突然事故が起きて、明日ハンデを負うことになるかもしれない。突然外国に転勤を命じられて、全然文化とか言語が違う世界に住まないといけないかもしれない。そういう皆さんの人生の中で、どこで困りびとになるかって、誰にも分からないと思うんですね。

だからこそ、多様性の問題って、他人ごとじゃなくて自分ごとだと思っています。それをボードゲームっていう、自分の手を動かして、自分で物語を進めていくっていう体験を参加者の皆さんにしてもらうことで、多様性の主人公になって、自分ごと化してもらえています。

遊んだ後に考える

多様性を自分ごととして肌で感じられることに加えて、IROIROの持つもう一つの価値は、「相手の立場に立って思いやるスキル」が実践できることだと実桜さんは言います。

その秘密は、ボードゲームを遊んだ後に出す「宿題」にありました。

ワークショップの最後に「こまりびとカード」を子どもたちにオリジナルで考えてもらいます。ただ、考えてもらう時には街を歩いて、実際に見つけたこまりびとについて書いてください、と。で、解決のアイデアは、この人をどうしたら助けられるのかなって考えてくださいって伝えています。

これは12歳の男の子が書いてくれたものなんですけど、この子は朝電車に乗っていたら、足の不自由な人が乗ってきたから席を譲ってあげたって言ってくれました。

こんな感じで、ボードゲームで学んだ思いやる心とか、コミュニケーションのスキルとかを実生活に落とし込める工夫をしています。ボードゲームの世界と現実世界を段々リンクさせていく、というのをワークショップ内では意識しています。

「誰もが自分に誇りを持って生きられる未来」へ

「みんなが困りびと」というマインドが肌でわかる。そして、「相手の立場に立って思いやる」スキルが実践できる。

今までのワークショップを通じて、この二つがIROIROの価値だと実桜さんは感じています。そして、この二つは、実桜さんが目指している「誰もが自分に誇りを持って生きられる未来」に必要不可欠な要素だといいます。

実桜さんの活動のきっかけになったという、中学一年生の時にスウェーデンで見たポスターには、色々な形の家族が貼ってありました。その懐の深さ、優しさに惹かれたという実桜さん。しかし日本では、ある一つのあり方が「理想の形・正解」とされてしまうことがよくあります。

英語では、 “different”と “wrong” は違う意味です。でも日本語では「ちがう」と「まちがい」はほぼ同じ意味になってしまいます。たとえ世の中の人と違っていても、間違いではないし、むしろいいこともあります。「ちがいはちがくない!」ってことを教えてくれたのが、このポスターで、多様性でした。

特に同質性を好み、同調圧力が強い日本では、「ちがう」ことが目立ち息苦しくなることも。「自分は間違って生まれてきたのかな?」そんな風に否定的に感じ、自信を失うということは、多くの人が経験しているのではないでしょうか?逆に人それぞれ「ちがう」ということを前提として捉え、「理想と違う」≠「間違い」となれば、もっと生きやすく、もっと多くの人が自分に誇りを持って生きられるのかもしれません。

実桜さんは、自分も他人もみんな「こまりびと」であるし、相手の立場になって思いやることでその人を助けることができるという感覚を、誰でも楽しめるゲームを通じて広げています。

この感覚が多くの人に広まることで、彼女の目指している「誰もが自分に誇りを持って生きられる未来」へ少しづつ近づくことが出来そうです。

IROIROのワークショップの前と後でアンケートを取っているんですけど、「人と関わるときに、自分とその人のちがいを楽しむことができる」と答えた人は16%も増えました。

私にとってこのIROIROって、どんな時でも味方になってくれるような、お母さんのような存在です。なので、これからの未来の子どもたちにも、そんな素敵なお母さんのような存在に出会ってほしいなと思います。

質疑応答から

Q. 「多様性」という言葉を使っていますが、「多様性」という言葉を置き換えるとどういうものをイメージされていますか?

(実桜さん)ディズニー映画「ズートピア」のイメージです。いろんな動物たちが共生している国のお話なんですけど、キリンがいたり、ナマケモノがいたり、ネズミがいたり。その人たちがみんなそれぞれ楽しそうに生きているんです。それが私の「多様性」のイメージです。

Q. 初めにスウェーデンに行って家族の形っていろんなものがあるんだなと知ったところから、色々考えたと思います。なぜボードゲームに行き着いたのか教えてください。

A.(実桜さん)スウェーデンに行ったのが中一で、これを始めたのは中三なので、その間は完全に抜けてたんですよ。中三になって自分の好きなこととかすごく悩んでいた時期だったので、マインドマップとかを書いてみたんですよ。
その中で、自分は世界観を作るとか、デザインを作るのが好き、というのがわかって、教育に興味があるとわかった時に、そこを組み合わせて、教育をボードゲームにして、今のおもんない授業とか講演会みたいなのを変えたいと思って、ボードゲームにしました。
で、テーマを選ぶ時に、どんな世界観を作りたいかって自分に問いかけたところ、ポスターを思い出して、「そういえばあれ、すごく素敵だったな」って思い出して、あれにしようって思いました。

実際にIROIROで遊んだことがあるというオーディエンスの一人は、「普通にゲームとして楽しくて盛り上がった!」と言っていました。まずはゲームとして面白いからこそ、何回も遊びたくなるし、他の人にも紹介したくなる。一人で試行錯誤しながら開発したゲームは、学びだけでなく、クオリティも高いようです。

別のオーディエンスからは「企業のダイバーシティ研修では講演が多いけれど、こういうゲームだと盛り上がっていいと思う」との声も。実は既にIROIROの熱烈なファンが、このゲームを企業に取り入れており、チーム研修で何度も使われているそうです!

編集後記

今回、アショカ・ユースベンチャラーとして認定された中野実桜さん。

元ユースベンチャラーの審査員からは、「自分のこれまでの経験を内省して、その熱を次のアクションに変えていっていることが素晴らしいと思いました。『誰もが自分に誇りを持って生きられる未来を作る』という想いの部分はずっとブラさずに、それができているかな、できていないかな、と常にチェックしながら活動していくと、もっと大きいアクションになったり、影響を与えられるんじゃないかなと思います」とのコメントも。

一年以上かけて開発し、それを製品化するだけでなく、ワークショップを精力的に行ったり、自分がいなくてもこのゲームやワークショップが広がるような仕組みを考えています。

楽しく遊ぶことで、敬遠されがちな「多様性・ダイバーシティ」を身近に感じ、誰もが自分に誇りを持てるように。実桜さんのこれからの活動からも目が離せません!

もっとIROIROや実桜さんについて知りたい方へ

<公式HP>

<SNS>
Twitter: @diversityIROIRO
Instagram: @iroiro._.diversity


アショカ・ユースベンチャーについて


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