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探査ジャーナリズムの挑戦(We Are the Change x Kansai 開催レポート①)

アショカ・ジャパンでは、二年ぶりとなる対面イベントWe Are the Change x Kansai を、12月19日に大阪で開催いたしました!

オンラインでは中々感じられない熱気に溢れた会場の様子を、三つの記事に分けてお届けいたします。残念ながら当日ご参加できなかった方も、写真と文章でお楽しみいただければ幸いです。
(協力:一心寺文化事業財団、ANA BLUE WING プログラム)


レポート第一弾は、去る8月末にASHOKA基準の社会起業家として認定された渡辺周氏による基調講演「探査ジャーナリズムの挑戦」について。Tokyo Investigative Newsroom Tansa(旧ワセダクロニクル、以下「Tansa」)の共同創設者・編集長の渡辺周(まこと)さんは、日本に存在しない「探査報道」のフィールドを作りつつ、若者にもそのマインドセットを広めていこうとしています。

はじめに

渡辺周さんの経歴 - Makoto Watanabe
1974年 神奈川生まれ、広島・大阪育ち
1998年 早稲田大学を卒業、日本テレビに入社
2000年 朝日新聞に入社。島根県松江市へ。
〜阪神支局、浜松支局、名古屋本社を経て特別報道部〜
2016年 朝日新聞を退社
2017年 ワセダクロニクル創刊
2021年 Tansaに改称

▼Tansaの紹介ビデオ(90秒バージョン)


世界報道の自由度ランキング67位の日本

日本ではジャーナリストが殺害されたり、逮捕されたりということはほぼありません。それなのになぜ世界報道の自由度ランキングでは67位なのか。国連の特別報告者も「官邸に何か弾圧されているんじゃないか」と考えていましたが、朝日新聞で16年働いた渡辺さんは、それは誤解だと話します。

「官邸が脅してくることは一切ありません。よく忖度って言葉が使われますけど、勝手に自分たちが折れているだけで、弾圧も何もないんです。日本型の言論の不自由っていうのは、誰かにいじめられてどうか、ということではなくて、横を見るってことなんです。学校でもみんなの顔色を伺って目立たないようにして、流れが決まったら一気にドンとみんな従う。これでもかってくらい集中砲火で叩くのって、マスメディアでもありますよね。でも誰かが最初にやるまで誰も動かない。これが日本のメディアです」

探査報道とは

日本ではまだあまり知られていない「探査報道」。英語ではinvestigative journalismといい、「調査報道」とも訳されています。

明日わかることを今日伝えるような競争じゃなくて、放っておいたらずっと埋もれたままの事実を掘り起こすのが探査報道です。よくメンバーには『向こう岸に上陸し、ファクトを掴んでくる』というんですけど、川の手前側に困っている人がいて、向こう岸にいじめている人たちがいる時に、川のこちら側から『ひどいじゃないか』と石を投げたり、肩を寄せ合って泣いてるだけじゃダメだと。やっぱり川を渡って、向こうに深く入り込んで、事実を掴んだら、こっちの岸に戻ってきて発信する、それが探査報道です。」

Tansaは日本では唯一Global Investigative Journalism Network(GIJN)に加盟しており、非営利団体として独立した報道を行う世界の流れに乗りながら、海外のニューズルームと協力しながら取材と報道を行っています。

一番成功しているのはアメリカと韓国。アメリカはウォール・ストリート・ジャーナルの元編集局長だったPaul Steigerが編集長となって始まったProPublica(プロパブリカ)が有名です。大きな財団がついていて、ピューリッツァー賞も2回取ってます。反対に韓国のNewsTapa(ニュースタパ)は薄く広くで、月1000円の寄付会員が4万人います」

社会的に意義のあることをしているけれど、なかなかお金が集まりにくい非営利のジャーナリズム。海外の団体が集まって合宿した際は、「どうやってお金を回していくか」をテーマにしたといいます。スポンサーの影響を受けず、中立性を保ちながらどう経営基盤を保つのかは長年の課題です。

国内で探査ジャーナリズムのコミュニティを

渡辺さんは、国内で探査報道ができるジャーナリストを養成する取り組みとして、2020年からTansaスクールを始めました。若手記者は真のプロフェッショナルに、市民は自らジャーナリストになることを目的としています。

「今のメディア界は状況が深刻で、5〜10年以内に新聞社がどんどんつぶれていくと言われています。そうすると一気にみんなが露頭に迷い、テキトーな情報しか出回らなくなってしまう。でも、会社がなくなっても、ジャーナリストという職業は必要とされる。だから真のプロフェッショナルになりましょう、と」

「市民の方も大事で、今はネット時代なので、皆さん色んなことができるんですね。情報をきちんと精査して、メディア任せにせず、自分で発信できるようになりましょうということでやっています」

このTansaスクールを通じて、色んな人のコミュニティを作ることを目指しています。

学生にも探査報道のスキルとマインドを

また、広島のフリースクールでも「スクープを放つ」というテーマで、5回の講座を行いました。

「皆さん、スクープの語源って知ってますか?実は『すくう』という意味なんですよ。なので、放っておいたら抜け落ちそうなものを拾って、発信する。これがスクープです。要は、自分なりに情報を取って、自分にしかできない表現をしよう、ということです」

参加者のうちの一人、人類の起源をテーマにした中学生が最初に持ってきたのは、進化論など本やネットで調べてきた情報。つまらなそうにしているので「本当にそう思っている?」と聞くと、その中学生は「僕、人類の祖先って馬だと思うんだよね」と答えました。「ギリシャ神話にケンタウロスっているってことは、本当にあったかもしれない。それに馬に似ている顔の人もたくさんいるし」

お母さんも「普段は全く主張をしない子なんですけど、この文章の添削に対してはやたらうるさくて。こんな主張する彼は初めて見ました」とビックリしていたそうです。

仰々しいものじゃなくて、こういう探査報道のマインドとスキルをもっと浸透させたいです。ずっとメディアで働いていて思うのは、大人になってからじゃ遅いんじゃないかと。染み付いちゃっていて、記者会見でも誰かが先に質問するのを待っている。だから子どものうちからこういう姿勢を身につけてほしいと思います」

まとめ

第二次世界大戦の大本営発表から変わらず、権力に忖度する日本のメディア。しかしその本質は、周りの顔色を伺いながら目立たないように生きる、多くの日本人が持つ傾向だと渡辺さんはいいます。今後、新聞社などがつぶれていくであろうという歴史の転換点を迎えようとしていますが、これはメディアやジャーナリストだけの問題ではなく、日本人全員の問題です。

そんな中、自らが探査報道を実践していくだけではなく、Tansaスクールや、学生への講座を通して探査報道のマインドとスキルを広めようとする渡辺さんは、日本に存在しない新しいフィールドとコミュニティを作ろうとしています。

ぜひ今後の動向にご注目ください!

もっと知る

▼Tansaのホームページ

▼渡辺周さんの詳細な日本語プロフィール

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