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試行錯誤のチェンジメーカー:延原令奈(前編)

「成功」は一直線じゃない

皆さんは「チェンジメーカー」(=社会にいい変化を作り出す人)という言葉を聞いた時、どんなイメージが頭に浮かびますか?リーダーシップを持って色んな人を巻き込み、どんどん行動していく人でしょうか?思慮深く、他の人が気づいていないことに気づける人でしょうか?

アショカでは、問題に気づくことや行動力と同じくらい、「試行錯誤する能力」が大事だと考えています。つまり、最初から全てが上手く行くわけない、と色々実験してみた後で、失敗を踏まえて修正し、よりよいものにしていく、という姿勢です。今までにないものを作り出す「チェンジメーカー」は、一直線で平坦な道ではなく、色んな寄り道や曲がり角を進み続け、「これだ」と思うものをどんどん更新しながら進んでいきます。

今回の記事では、まさにこの「試行錯誤」を体現するチェンジメーカーであるユースベンチャラーの延原令奈さんについてご紹介します。昨年4月には、「辞めてみる」という決断からの再出発という記事に活動をまとめました。再スタートを切り1年経った今、どんなことを考え、何をしているのか改めてインタビューしてみました!

\前回の記事はこちら/

教員養成課程のアップデートを

一方通行の教育ではダメだという認識が広がり、カリキュラムにも反映され始めている反面、実際に子ども達へ届ける教員や、これから教員になる大学生には十分な訓練の機会がありません。延原さんが一番やりたいと感じていたのは、今の教員養成に欠けている「コーチング」「ファシリテーション」の能力を身につけるトレーニングです。

「コーチング」とは、子どもの本音を引き出す力のこと。対話を通して自分の特性や進みたい道、やりたいことなどを見つけていきます。延原さんはコーチングの力を身につける「自分を知る授業」を開発し、2年間で20回開催。140名が参加しました(現在は活動休止中)。

自分を知る授業 公式アカウント @jibunsirujugyo

そして、コーチングで子どものやりたいという気持ちが明確になった後、それを実現するために伴走していくのが「ファシリテーション」の能力です。今回延原さんは、この力を身につける先生を育てるための大学生向けプログラムを一から作り、10月から12月にかけて、大阪と愛知で2つのプログラムを同時並行で始めました。

まずは自分がやってみる

参加者の学生は将来、学校現場で「ファシリテーション」をする側になります。別の言葉で言うと、先生が一方的に話し続ける授業スタイルではなく、学生がそれぞれテーマを決めて、それについて自分たちで調べたり、チームでプロジェクトを立ち上げるような授業を設計し、進めていくことを求められます。

しかし、今の多くの大学生は自分たちがそのような授業形式を受けてきておらず、イメージができないまま教室で授業しなくてはいけません。そこで延原さんは、参加者がまずは生徒側で体験してみることから始めました。

大学では講義形式の授業がほとんどだけど、このプログラムでは自分でやってみるということを重視しました。私がいくら口で説明するよりも、自分で体験した方が何倍も深く理解できるし、何より楽しいんです!

愛知県で行ったプログラムは、90分×8コマの構成。大学1年生から修士2年生の25名が参加しました。まず最初の3回は、VTuberによる教材を使ってアバター作りなどをし、テクノロジーについて考える授業を体験しました。

みんなに、自分が触れてこなかったものに触れるという体験をしてもらいたくて。既に教室にiPadが入ってきていますが、将来はメタバースとかが当たり前になっているかもしれないですよね。新しいものに対してすぐ拒否感を示して、既存のものにしがみつくのではなく、ちょっとかじってみて「やってみたら意外と楽しいし、自分達の授業を面白くするのに使えるかも」と思える人になってほしいという想いを伝えました。

プログラムのメインでは、探究学習などにも使われる「デザイン思考」のフレームワークを使いました。デザイン思考とは、「共感→課題設定→アイデア作り→プロトタイプ(試作品作り)→検証」を繰り返すという流れで、ユーザー視点に立って課題解決する方法です。

(引用:「デザイン思考とは?」大阪工業大学

例えば、誰かの悩みを解決するためにインタビューしていく中で、「よく物をなくすのをどうにかしたい」という問題がわかったら、さらにインタビューして、なぜそれが起きているのかを探り、解決案を提案します。

あるチームは「自分自身でこだわりのある、オーダーメイドの文房具を買えばいいんじゃないか」という仮説を立てて、検証してみました。結果は失敗。でも、実際に買う行動を促してみたことで、「値段やこだわりはあまり関係ないみたい」ということが判明したため、またインタビューして、別のアイデアを提案していきます。

課題設定の難しさも、アイデアを絞る難しさも、自分がやったからわかる。一番最後の時間は、教師の立場から振り返って、「生徒だったら、ここでつまずきそうか」とか、「その時にどういう手立てをしようか」と、自分が体験したからこそできる深い議論をしていました。

必要なのはテクニックよりもマインドセット

大阪教育大学の15名を対象にしたプログラムは、STEAMを取り入れた教科横断の授業を作るという内容でした。しかし本当の目的は、授業案を作るテクニックを学ぶことではありません。

(引用:「STEAMとは」経済産業省STEAMライブラリー

経産省はSTEAMを取り入れた授業を「ワクワクを中心とした、知ると創るが含まれている授業」と説明していますが、抽象的でよくわからないですよね。私自身もどういうことだろうってめちゃくちゃ考えた結果、テクニックよりも「先生がどうあるか」が大事だという結論に至りました。

先生は、生徒の前で常に完璧でないといけないし、生徒よりも知識がないといけない。そんなイメージが先生を縛っているかもしれないと延原さんは指摘します。

答えのある問題を解くだけならそれで良いけれど、実験やプロジェクトは、最初から完璧であることよりも、いかに失敗から学ぶかが大事です。また決まっている一つ「正解」を見つけることよりも、自分なりの「答え」を見つけていくことが必要になります。ならば、先生も「常に完璧であること」よりも、「失敗から学んで成長する」姿勢を学生に見せていかないといけません

「試行錯誤や失敗を恐れていませんか?」「正解っぽいものを無自覚に求めて、思考にブレーキをかけていませんか?」ということを何度も強調しました。特に先生になろうとする人は、正解ありきで結果を出すのが得意だったり、逆に基準が無いと不安になってしまう人が多いと思います。だからこそ、正解がない授業を作ることを楽しんでもらったりとか、完璧じゃなくていいんだよってことを体験してもらいたいなと思いました。

まずは色んなゲームやワークを行い、「こうあるべき」という先生のイメージを一度リセットしました。

例えば紙でタワーを作るゲームをしてみて、成功することよりも何回も挑戦してみることや、前回より上手くできたことの方が大事だと感じてもらいました。
他にも、「教師が生徒よりも知識がないと授業を行うべきではない。本当にそうだろうか?」という議題を挙げて、生徒に授業してもらう可能性についても話し合いました。ある分野で生徒の方が知識を持っている場合もあって、その子がクラスの前で授業したら、成功体験になる可能性もありますよね。

実際に模擬授業を作る時も、普段やっていることとは違う経験をしてもらいたくて、二つの条件をつけて授業を考えてもらいました。

一つ目の条件は「授業しない授業」か「生徒が授業する授業」のどちらか。

もう一つは、「STEAMライブラリーにある動画教材を2つ以上使った授業」か「自分の進路とは違う人を対象にした授業」(例:中学の英語教員になる予定なら、小学生の算数の授業など)という条件です。

私自身も生徒役でみんなの模擬授業を聞いていて、めちゃくちゃ面白い授業をしてくれて純粋に楽しかったし、最後みんなすごい良い顔してて。
授業を作れたという成功体験が、今後探究授業を作る上でとても自信になると思う」「普段できないことをして、柔軟に考えられるようになった気がする」と言ってくれて嬉しかったです。

単位が出ない実験的なプログラムだったにも関わらず参加者からは大好評で、「後輩にもぜひやってほしいので来年度やるなら手伝いますし、やらないなら自分で団体作ってやります」という学生まで出たそうです。

プロジェクトをするのに当たって、たくさんの教授の方々や学生の皆さんに協力をいただいて本当に感謝しています。今回、プログラムを通して届けられた学生さんはほんの一部なので、より多くの教師の卵にこのような機会が増えるように引き続き精進していきます。

まとめ

今回の記事では、「教員養成課程のアップデート」を実験していくために延原さんが取り組んだ二つの授業を取り上げました。後編では、こういった活動を続けるためのマインドは一体どこから来るのか探っていきます。お楽しみに!

\後編はこちらから!/


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