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アショカについて

ソーシャル・イノベーションの分野を勉強している人や、社会起業に興味がある人なら、「ASHOKA」という名前を聞いたことがあるかもしれません。けれど日本語の情報は少ないし、ウェブサイトを見てもよくわからない……という声を良く聞きます。そこで、アショカとはどんな組織なのか、どんな活動をしているのか、何を目指しているのか、をこの記事では説明していきます!

アショカとは

ASHOKA: Innovator for the Publicは、世界最大・最古の社会起業家ネットワークです。名前の副題は、「公益(the Public) のためのイノベーター(innovator: 刷新する人)」を意味します。ASHOKAは1980年に非営利組織として米ワシントンで発足しました。カントリーオフィスは38か国にあり、アショカ・ジャパンは、東アジア初の拠点として2011年に発足しました。

ASHOKAが定義した「社会起業家(Social entrepreneur)」を発掘する作業に1970年代後半から取り組み、インドの教育者グロリア・デスーザを第一号のアショカ・フェローとして選出したのが1980年です。2021年までに約97か国から4,000人を超える社会起業家を見つけて「アショカ・フェロー(Ashoka Fellow)」として認証し、グローバルなネットワークを築いてきました。アショカ・フェローとは、社会にある様々な綻びを生み出している水面下の構造的な欠陥に介入し、問題を解決するための新しい構造を生み出し拡散するという類い稀な能力を持つ人たちです。

この発掘作業に取り組んで20年ほど経った2000年頃、ひとつの気づきがアショカ内で生まれました。その気づきとは、「問題の解決を数百万人に一人の割で見つかる『アショカ・フェロー』だけに頼っているのでは、時代の変化に追いつかない。なぜなら、解決者の数よりも発生する問題の数がはるかに多いから」です。

めまぐるしく変化する社会が生み出す大小様々な問題の解決のためには、私たち一人ひとりが「チェンジメーカー」としてのマインドセット(心の姿勢)を持つことが肝心だという認識が生まれたのです。そして、私たちが目指す社会のあり方を形容する標語として、
"Everyone a Changemaker"(一人ひとりがチェンジメーカーである社会)
が生まれました。この場合、「Everyone」は、人種、性別、年齢、学歴、障害の有無などに関係なく、あらゆる人を意味しています。

◇ チェンジメーカー (Changemaker)とは
身の回りの「おかしなこと」や社会の歪みを自分ゴトとして捉え、自分ができる範囲で社会に変化を起こす人すべてのこと。年齢、職業、性別などを超えて、学生でも、先生でも、会社員でも、主婦でもチェンジメーカーになることができる。

社会起業家(ソーシャルアントレプレナー)

メディアなどで「社会起業家」(ソーシャルアントレプレナー)という言葉を耳にしたことがあるでしょうか? この言葉と言葉の表す概念は、実は50年前には存在すらしていませんでした。それを1972年に生み出したのが、ASHOKA創設者・CEOのビル・ドレイトン (Bill Drayton)です。

歴史家でもあるドレイトンは語ります。

産業革命までは社会福祉と商いの区別はなかったんです。人類は自分の生まれた土地に住み、代々受け継がれた仕事に従事するのが唯一の生き方でした。しかし、産業革命を契機に「社会福祉」と「商い」の分断が起こりました。そしてこの分断のために「社会福祉」分野では清い志はあるがイノベーションが起こりにくいカルチャーとなり、「商い」の世界では利益優先で人間の尊厳や幸福を考慮しないカルチャーが定着しました。この分断が、多くの問題を孕む社会を創りだしたのです。いま私たちに課された仕事は、この分断の境界線を取り除き、「目標設定や戦略などを組み込んだ社会福祉」セクターと、「人間の尊厳や幸福を考慮する商い」のセクターを早急につくることです。この目的のために私は、ASHOKAを立ち上げたのです。

New York UniversityのStern’s Program in Social Entrepreneurshipのディレクターを務める ジル・キックル教授によれば、現在、「ソーシャル・アントレプレナーシップ」の定義は200以上あるが、New York University を含む多くのアメリカの大学では、オリジナルのASHOKA定義を採用しているとのことです。 「ASHOKA定義」を理解していただくために、まず「ダイレクトサービス」と「システムズ・チェンジ」という二つの社会問題解決アプローチを簡単にご紹介します。

食料、医療、その他のサービスなど、助けを必要としている人達に直接的にかかわる奉仕的活動が、ダイレクトサービスです。貧困層への食事の配給、学生への少人数制アドバイスプログラム、地域住民への無償の法律相談などが例に挙げられます。

一方、社会問題を生み出している構造を理解し、その原因にアプローチすることで、問題が起こらないような新しい仕組み、新しい当たり前を作っていくのがシステムズ・チェンジです。

ビル・ドレイトンは、システムズ・チェンジの必要性に焦点を当て、その担い手を意味する新しい言葉「ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)」を造り、1980年、活動母体としてASHOKAを創設しました。

\さらに詳しくはこちらの記事を参照してください/


アショカ・フェロー:ASHOKA定義の社会起業家

ASHOKAでは42年間かけ、97カ国で4,000人を超える究極の社会起業家を見つけ出し、「アショカ・フェロー」として認証した上で、彼らとASHOKA関係者(スタッフ、個人サポーター、パートナー企業など)のネットワークを作り、取り組みが促進・拡大していくのを後押ししてきました。

一般に知られているフェローとしては、Wikipediaを創ったジミー・ウェルズ、貧困層の女性のためのマイクロファイナンスという貸付システム(グラミン銀行)を創りノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス、超優秀なエリート大学生がアメリカ社会の中枢部を担うリーダーになる前の2年間、貧困地域の小学生の先生になるシステム(Teach for America)を創ったウェンディ・コップなどがいます。

Wikipediaが生まれる前、百科事典は富裕層だけが持てるものでしたが、Wikipediaのおかげで、誰もが無料で「知識」にアクセスできるようになりました。また、Wikipediaは誰もがページを閲覧できるだけでなく、編集権をも持つ新しい在り方を生み出しました。今まで、出版社や学者などほんの一部の人にしか認められていなかった権利を、全ての人に解放したのは画期的なことでした。別の言葉で表現すると、Wikipediaは「知識の民主化」 (democratization of knowledge)を実現する新しい仕組みを作ったのです。

アショカ・ジャパンでは、「究極のチェンジメーカー」というマガジンで、色々な分野のアショカ・フェローを毎月一人ずつ紹介しています。ぜひこちらの記事で彼らのストーリーを読んでみてください!

アショカ・フェローたちの生む変革は、政府の政策変更を促したり、他の主要組織に採用されるなどの影響力を持ち、その分野に新しい基準へとつながる場合が多いのです。

世界中で約4,000人いるアショカ・フェローを対象とした最近の調査では、75%が国家レベルで政策への影響を及ぼしており、90%が他の組織、国家、政策に模倣されている、という結果が出ています。

「模倣されている」というのは、つまりコピーされている、真似されている、という意味です。ここがビジネスの世界と違う見方をする面白い部分になります。ビジネスの場合、今までにない素晴らしいものを作ったら特許や知的財産権などで保護し、真似されないようにします。目的は、売り上げや名誉を自分だけのものにすることで、通常の資本主義の考え方に沿っています。

一方で、アショカ・フェローのような社会起業家が目指すのは、自分たちの組織が大きくなることではなく、最終的に社会問題が解決されることです。彼らは「自分たちだけでは手が届かない人たちがたくさんいます。誰でも真似できる良いモデルを作ったので、ぜひ使ってください。みんなで一緒によりよい社会を目指しましょう」という姿勢を持ち、インパクトが広がって、その結果一人でも多くの人が恩恵を得ることを最優先とします。通常の資本主義に慣れた人にとっては、頭の中のギアを切り替えなくてはなりません。

一人ひとりがチェンジメーカーに

ASHOKAは、ソーシャルアントレプレナーシップという考え方すら存在しなかった1980年代からアショカ・フェローを世界中で発掘し、彼らをつなぐネットワークを作りながら、より良い世の中を目指して、一歩も歩を緩めず活動してきました。

2000年ごろから、天才級のアショカ・フェローを支援するだけでは、世界の変化のスピードについていけないという認識がASHOKA内部で生まれ、新たな方向性が打ち出されました。それが、Everyone a Changemaker(一人ひとりがチェンジメーカーである世界)です。

「チェンジメーカー」とは、社会の課題を自分ゴトとしてとらえ、自分ができる範囲で社会に変化を起こす人すべてを指します。学生でも、主婦でも、会社員でも、弁護士でも、それぞれの立場で身の回りのおかしいことに対して行動し、変化を起こしていく社会、これがアショカの目指す世界です。

特に、次世代を担う若者がチェンジメーカースキルと、その土台となるエンパシーを身につけることを目指し、様々な活動を行っています。

◇ エンパシー (Empathy)
他者の心に(想像力で)自分の心を重ね、その人が何を感じているのか(想像力で)推し量る能力のこと。エンパシーが醸成されると他者の悲しみや喜びを自分事として捉えられるようになります。心理学ではエンパシーをいくつかに区分していますが、アショカで大事にしているのは、「認知的エンパシー」(Cognitive Empathy)と呼ばれるものです。
これは生まれつきで決まるものではなく、筋肉トレーニングのように訓練することで誰でも鍛えることができる「意思的」な能力です。飢えで苦しんでいる人を見て、「なんとかしたい」と感じる「反応 (reaction)」とは区別されます。

ユースベンチャー:若者チェンジメーカーが自由に挑戦する環境

変化を好まない日本社会で、若者が社会を良くするための活動をしていくのは容易ではありません。「何かがおかしい」と思って行動したり、「こういうものがあったら苦しむ人が少なくなるんじゃないか?」というアイデアを思いついても、「受験や就職の役に立つの?そんなことやる時間があったら勉強しなさい」という保護者や先生、「変わったやつ」と言ってくる同級生などに囲まれたまま信念を貫くのは、孤独な道のりです。

そういった「おかしい」という宝物のような気づきを大事に、失敗を恐れずのびのびと実験できる環境を一年間提供するのがユースベンチャーです。

2012年以来、44回の審査パネルを実施し、112組の若者チェンジメーカーを選出し、彼らのコミュニティを作ってきました。さらに詳しくはこちらの記事をご覧ください。

また、最新の10名のユースベンチャラーについて知りたい方は、こちらの資料をご覧ください。

チェンジメーカースキルを広める

アショカ・フェローやユースベンチャラーたちが体現している「チェンジメーカー・スキル」という能力は、現在国際バカロレア(IB)やOECDなどの教育指針にも取り入れられ、今後スタンダードになっていく能力の一つです。「チェンジメーキング」の道程で磨かれるのは、いわゆる非認知能力です。やる気、情熱、エンパシー、観察力、粘り強さ、回復力、などの非認知能力は、21世紀で輝いて生きるための能力であり、その教育をスタートさせることは、喫緊であると私たちは信じています。

世界の潮流から遅れがちな日本では、未だに教科の点数だけが優秀度を測る尺度として通用しています。このような状況を変えるため、アショカ・ジャパンでは以下のような取り組みをしております。

LEAPワークショップ:「社会にいいことをしたいけれど、何から始めて良いのかわからない」という学生向けの120分ワークショップ

Journey of Innovation(ジャーニー・オブ・イノベーション):アショカ・フェローの人生を追体験することで、社会を変革するとはどういうことを深く理解する90分の授業

YourKids(ユアキッズ):これからの時代に必要なチェンジメーカースキルと、その土台となるエンパシーを、親子で鍛える4ヶ月プログラム(主に企業の社員向け)

詳しく知りたい方は、スタッフ<yashida@ashoka.org>までお気軽にお問い合わせください。また、インターンとしてこれらの活動に参加したい方は、こちらからご応募ください(メモ:2022年3月現在、応募多数のため応募を締め切っております。9月ごろ再開を考えております)。

Get involved

最後まで記事を読んでくださりありがとうございます。アショカの活動に共鳴してくださる方は、ぜひ以下の方法でご参加ください。

- Facebook: https://www.facebook.com/AshokaJapan
- イベントに参加するhttps://ashokajapan.peatix.com/view
- ニュースレター登録(イベント情報など):https://bit.ly/AshokaJapanNewsletter
- ユースベンチャラーのブログを読むhttps://bit.ly/YV_blog
- 寄付するhttps://syncable.biz/associate/ashoka-japan/
- インターンとして参加するhttps://forms.office.com/r/crFWqkYDFP

不明な点や質問などあれば、japan@ashoka.orgまでお気軽にお問合せください!

アショカの全ての活動は、共鳴してくださる方々の寄付金で実現しています。少額でもとても励みになりますので、ぜひご支援のほどよろしくお願いいたします。