Web文芸 「Twitter小説」の危機
皆さんは「Twitter小説」を知っていますか?Webから生まれた文芸である「Twitter小説」ですが、誕生から時間が経つにつれて、多様化するとともに誤解が広がりつつある現状があります。本記事では「Twitter小説」について紹介するとともに、今直面している問題について書いていこうと思います。
Twitter小説とは
「Twitter小説(「ついのべ」、「ツイノベ」とも呼ばれます)」とは、2009年に内藤みか氏が提唱したのが始まりで、1ツイート140字以内で書かれた超掌編小説のことを指します。#twnovel のハッシュタグで、今でも多くのTwitter小説作家が活動しています。
作品内容は多種多様で、文学、恋愛、青春、SF、ファンタジー、ホラー、コメディ、童話、全てが一つのハッシュタグの中で共存しています。まさに「現代の万葉集」と呼んでいいでしょう。
過去には、円城塔氏や新城カズマ氏らが参加して「Twitter小説集 140字の物語」という書籍も刊行されていたり、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンが主催して「Twitter小説大賞」も開催されていました(2013年の第3回で終了)。
Twitter小説は一旦衰退したように見えますが、実際には多様化が進んだように思います。#twnovel だけでなく、#140字小説 や#ツイッター小説 、などの様々なハッシュタグで140字程度の小説が投稿されています。
商業でも、例えば神田澪氏が2021年にTwitter小説集『最後は会ってさよならをしよう』を出版されています。同氏はTikTok上でTwitter小説の動画化もされており、多大な人気を獲得されています。
また、2015年から「ほぼ百字小説」を投稿している北野勇作氏が、2020年に#マイクロノベルというハッシュタグを提案しています。超掌編小説の分野が活性化するのは喜ばしいことですが、これまでのTwitter小説の歴史的経緯を意図的に消去し、先行者のように振る舞って自らの利益のために利用しているようにも見受けられます。
また、#マイクロノベルの作品には同氏の影響を受けて政治的な内容を含むものが比較的多いため、Twitter小説という分野全体がそうした偏った政治思想を持つ人達によるものだと誤解している方もいました。これまでにも政治的な内容を含む作品が無かった訳ではありませんし、表現の自由を妨害する意図はありませんが、個人の商業的・思想的影響を強く受けずにのびのび育ってきたTwitter小説の分野にとって良いことと言っていいのか、私は違和感を感じる部分があります。
一方、「Twitter小説」という言葉の意味も広がってきています。2010年の「ニンジャスレイヤー」、2015年の「横浜駅SF」のように、連続ツイートによる小説、ツイートを元にして生まれた小説も、広義的に「Twitter小説」と呼ばれることがあるようです。
Twitter小説という広大なフィールド
Twitter小説はたびたび注目されており、作品は増加してきていると思われますが、タグ無しで活動されている方もいるので、総数がどのくらいになるかは私にも分かりません。
参考までに、直近1週間の各ハッシュタグツイート数を調べてみました。
#twnovel: 567ツイート
#140字小説: 1358ツイート
#マイクロノベル: 303ツイート
#Twitter小説: 162ツイート
#ツイッター小説: 44ツイート
合計 2434ツイート
複数タグが付いていて重複したツイートや、作品ではないツイート、過去作品のbotによるツイートなどが含まれていると思うので、正確な実数は分かりませんが、これは「小説家になろう」の新規投稿作品数(2021/8/29~2021/9/4の間に2,644作品が投稿)に匹敵(!)します。私も調べてみて驚きました。
Twitter小説は短いので書きやすいという側面もあります。ぜひ皆さんも書いてみてはいかがでしょうか?
私とTwitter小説
ここまで自己紹介をしておりませんでしたが、私、葦沢かもめもTwitter小説に魅せられた一人です。2011年から投稿を始め、これまでに640編以上を執筆しています(これでもTwitter小説作家の中では少ない方だと思います)。証拠として以下にまとめを挙げておきますが、若気の至りと言いますか、ある種の黒歴史みたいなものなので、あまり読まないでください。
『あしざわTwitter小説集』
https://ncode.syosetu.com/n2012r/
『新あしざわTwitter小説集』
https://ncode.syosetu.com/n9763du/
Twitter小説を書いていたことから、「このくらい短ければAIに小説を書かせることもできるのでは?」と思うようになり、現在の小説執筆AIを活用した創作活動に繋がっています。実際に、小説執筆AIにTwitter小説を書いてもらっており、490作を公開しております。
『小説執筆AI「ロゾルス」がツイッター小説を書いてみた』
https://ncode.syosetu.com/n3754eu/
内容的には小説と呼べないものが多いのですが、時にイメージを想起させられる瞬間があったりするので、小説のアイディアとしては良いものがあったりします。たくさん書いてくれるのはいいのですが、人間の方で良さそうなものをピックアップする作業が辛くなって、こちらの更新は現在停止しています。
現在は、「吟遊作家リャカ」というbotで自動投稿してもらっています。昨年11月から稼働しており、1時間に1回ツイートするので、大体7000作くらいはあるのではないかと思います。私も全部は把握していません。
吟遊作家リャカ
https://twitter.com/ai_writer_ryaca
参考)【機械文芸入門】GPT-2でTwitter小説を呟くbotを作ってみた
Twitter小説の危機
さて本題です。昨日、Twitter小説を紹介するWeb記事を見かけました。
その記事の中では、Twitter小説文化として「嘘松」ツイートやツイートを書籍化された方々が取り上げられている一方で、#twnovelや#140字小説といった存在には全く触れられていませんでした。
Twitter小説は、それを集中的に管理する人物・組織がいないという性質上、こうした誤った認識が広まってもなかなか訂正されません。ともすれば、誤った認識が正しいとされてしまう可能性すらあります。
実際、「Twitter小説」でGoogle検索してみると、私が「Twitter小説とは」の項で書いたような歴史的経緯を説明する記事は見当たりませんでした。多様化が進んだ一方で、こうした動きの記録がなされなかったのが原因ではないでしょうか。
新たに「Twitter小説」を知った人が、正しい知識を得る場が無いというのは大きな問題です。Twitter小説の形が原点から変わっていくことは文化として当然起こり得ることではありますが、このままではTwitter小説というWeb発の文芸の当初の姿が消えてしまうかもしれません。
私はこの状況に、強い危機感を抱きました。
「Twitter小説」が文化として残っていくためには、次の4つの課題を解決する必要があると個人的には考えています。
①ハッシュタグの乱立
②作品をアーカイブする場の欠如
③長文小説画像投稿や連続投稿の混在
④作品を共有・評価する場の欠如
①ハッシュタグの乱立
#twnovel 以外に、#140字小説 、#ツイッター小説 、#マイクロノベル など複数のタグが区別なく使用されているために、なかなか全体像を掴むことができません。他のタグを知らない人も多く存在すると思われます。
②作品をアーカイブする場の欠如
作者個人が自作品をまとめることはあっても、全ての作品が一箇所にアーカイブされておらず、過去の作品へ容易にアクセスできません。著作権は作者にあるので勝手に収集することもできません。アカウントが削除されて残っていない作品も多くあると思われます。これは学術的損失と言っていいでしょう。
③長文小説画像投稿や連続投稿の混在
長文小説を画像化した投稿や、140字以上の連続投稿も同じハッシュタグを用いられることが多く、作品へのアクセスをさらに難しくしています。(それらの作品が悪いということではありません)
④作品を共有・評価する場の欠如
かつては「Twitter小説大賞」が開催されていましたが、現在は行われていません。ツイノベの日(https://twitter.com/twnvday_bot)様が毎月企画を行っているのが唯一かもしれません。
これらの課題点に対して、私は現時点で明確な答えを持っていません。
いきなり「一つのハッシュタグに統一しろ」というのは乱暴な話ですし、作品のアーカイブをするにも著作権やデータベースの維持・管理などハードルはたくさんあります。
誰かが集中的に管理するというのも、誰もが自由に書いて楽しめるTwitter小説の性質とは反するように思います。Twitter小説作家を職業とする人がいてもいいですし、知り合いの間だけで楽しむという人がいてもいいと、私は思っています。
この記事で議論を呼びかけるというのも何か違うと思うので、皆さんの心のどこかに留めておいて頂いて、良い方向へと変えていけるタイミングを誰かが見つけた時にみんなで協力できたらいいのかなと思います。
「Twitter小説 画像ジェネレーター」の開発
こうしたことを考えると、今の私にできるのは、140字のTwitter小説という「形」の作品が生まれることをゆるやかに方向付ける「何か」を作ることかな、と思いました。
そこで思いついたのが、Twitter小説の画像ジェネレーターです。これなら、既存の活動を乱すことなく、140字という「形」で書く小説の存在を広める手助けができそうです。それに投稿には画像があった方が目に付きやすいので、作者さんの役にも立ちそうです。
とはいえ、優秀な既存ツールがあります。SS名刺メーカー様です。非常に高機能でおしゃれに仕上がるので、既に多くの方がTwitter小説を投稿する際に使っています。私自身、おすすめです。
SS名刺メーカー
https://sscard.monokakitools.net/meishi.html
そこで、SS名刺メーカー様よりもシンプルかつ140字により最適化したツールとしてであれば存在意義があるのでは、と考えました。名前に「Twitter小説」を冠した画像生成ツールが一つくらいはあった方がいいかな、くらいの感覚です。
かつてテキストを動画にする遊びをしていたので、その時の技術を応用すればいけそうだなという予想もありました。
こうして作ってみたのが「Twitter小説 画像ジェネレーター」です。広告も無いですし、テキストや画像もデータベースに保存していないので、安心して使えると思います。
Twitter小説 画像ジェネレーター
https://twnovel-image-generator.herokuapp.com/
10時間で作ったのでボロがあるかもしれませんが、そこら辺は大目に見て頂けると嬉しいです。
縦書きも対応できたら良かったのですが、なかなか難しそうだったので、強い要望があれば対応しようと思います。
終わりに
私はTwitter小説が好きです。最近あんまり書いていませんが、それでもたまにハッシュタグを検索しては、キラキラと輝く作品達に心動かされています。
名前も知らない方の、そんなにいいねが付いていないような作品でも、すっと心に入ってくることが多くあります。私は臆病なのでなかなかいいねを付けるのが苦手ですが、もっと多くの方に読んで頂きたい作品ばかりです。
ぜひハッシュタグを検索して、Twitter小説を読んでみてください。きっと気付いたときには、自分で書き始めていると思います。
もしかしたら私みたいに、思いもよらぬ道に進むかもしれません。
本記事が、貴方のお気に入りの作品との出会いのきっかけになることを願って。