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【かもめAI小説塾】生成AIで小説を書くときに守るべきルールやマナー

生成AIを利用して小説を書くときには、気をつけておくべき点がいくつかあります。2024年4月時点で「絶対にこれが正しい!」といえるものはありませんが、文化庁が情報発信をしてくれており、「これはよくないよね」「これなら大丈夫だよね」というラインが見えてきつつあります。しっかりとルールを守って使うようにしましょう。

また本記事で紹介する内容は、なるべく客観的に正しい情報を記載するように気をつけていますが、誤りが含まれる可能性もあります。決して内容を鵜呑みにせず、重要なポイントは弁護士の方に相談するなどしてください。

他人の著作物をプロンプトに入力しない

投稿サイトで公開されている他人の小説や、書籍に書かれている文章、また他人の作品に登場するキャラクターの情報や世界観の設定など、他人に由来する情報をChatGPTの入力(プロンプト)に使うことは避けましょう。「村上春樹風に」などもよくありません。

その理由は、もしそうして生成された文章が他の人の文章と「類似」(※法律的な意味の「類似」であり、一般的な意味の「類似」ではありません)していた場合に、「依拠性」(※これも法律用語です)があると認められる可能性が出てくるからです。

「類似性」と「依拠性」が両方認められる場合に、著作権違反となります。画像生成AIでは、他者の画像を使ってImage2Imageという画像から画像への変換を行う行為が問題ではないかと議論されています。これは文章であっても同じです。

詳しいことは下記で公開されている文化庁の説明を参考にしたり、法律の専門家に問い合わせてください。

参考:「AI と著作権に関する考え方について」文化庁

人間が手を加える

文化庁が2023年6月に実施した「著作権セミナー」では、生成AIの利用に関する文化庁の見解が非常に分かりやすく説明されていました。下記リンク先で、講演の動画と資料が公開されていますので、必ずチェックしておきましょう。

リンク:令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」

この中で示された内容のひとつとして、「人間が手を加える」という点があります。大事な点なので、上記の資料から引用します。

 《生成・利用段階》
AIを利用して生成した場合でも、その利用が著作権侵害となるかは、
人がAIを利用せず絵を描いた等の場合と同様に判断されます。
侵害となる場合は、損害賠償請求や差止請求、刑事罰の対象となります。
既存の著作物と類似性がある生成物を利用する際は、著作権者の許諾を得て
利用するか、全く異なる著作物となるよう、大幅に手を加えた上で利用する
ことが考えられます。

(出典:令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」講義資料P62 文化庁)

2023年6月時点での情報なので最新の見解と異なる点があるかもしれませんが、類似性のある文章を生成したような場合には人間が大幅に修正する必要があると記載があります。これはどういうことかというと、例えば大学のレポートで「文章を丸々コピペするな」と言われることと同じです。元の文章とほぼ同じであるのはダメですが、同じ内容のことを書こうとすれば、どうしても記述は似てしまいます。だから教科書などを参考にして人間が書くのと同じように、生成した文章に対しても、自分なりの言い方に直したり、他の情報も追加して整えたりする必要があるということです。逆に「である」を「です」に変えるような修正では不十分だと言われてしまう可能性があります。

もちろん、これは「元の文章と類似性がある場合」についての記述なので、「類似性が全くない」と言える内容であれば修正は不要であると解釈することもできます。ただし、類似性があると仮定して、ある程度人間が手を入れておくと、比較的安全性が高いといえるでしょう。もちろん人間が書いた場合であっても、偶然「類似性」がある文章を書いてしまう可能性はありますし、もし元の文章を過去に読んでいたら当然「依拠性」についても認められることになります。過去に読んだ文章を全て記憶している作家なんてこの世にはいませんから、人間が書いたとしても著作権を侵害するリスクは常に存在します。生成AIを道具として利用するということも、それと同じです。

「創作意図」と「創作的寄与」を加える

先ほどご紹介した文化庁の著作権セミナーでは、AI生成物が著作物となるか、つまり著作権が認められるかについての見解も説明されています。

 《AI生成物が著作物となるか》
AIが自律的に生成したものは、著作物に該当しないと考えられますが、
「創作意図」と「創作的寄与」があり、人が表現の道具としてAIを使用したと認められる場合は、著作物に該当すると考えられます。

(出典:令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」講義資料P62 文化庁)

同資料58ページでは、「創作意図」については生成AIを用いて自己表現しようとしていれば認められるだろうという見解が示されており、あまり問題にはならなそうです。

一方、「創作的寄与」については、文化庁としても具体例を示すことはできていません。これは具体的にどういった行為が当てはまるかはケースバイケースであり、実際に判例が積み上がらないと分からない部分が多くあるからです。「海外ではこうだった」みたいな話も、あまり当てにはなりません。あくまでも国内の法律に照らし合わせる必要がありますし、どのように生成AIを用いた作品なのかも作品によって異なります。弁護士さんによっても意見が違うのではないでしょうか。素人が安易に比較することはできません。

その上で、2024年3月に公開された「AIと著作権に関する考え方について」の40ページでは、創作的寄与は総合的に判断されるとして、以下の3点を判断するための要素の例として挙げています。

① 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
✓ AI 生成物を生成するに当たって、創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。
② 生成の試行回数
✓ 試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、①と組み合わせた試行、すなわち生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられる。
③ 複数の生成物からの選択
✓ 単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものもあることから、そうした行為との関係についても考慮する必要がある。

出典:「AI と著作権に関する考え方について」P40 文化庁

あくまでも上記は判断するための要素の例であり、文化庁としても各ケースにおいて「必ず著作物性が認められる」と断定してはいないことに注意してください。

こうした情報を踏まえて、少なくとも「創作的寄与」があることを示すものは用意しておくとよいでしょう。入力する際のプロンプト、試行回数を示す成果物、大量に生成した中から人間が選択したことを示す証拠など、とにかく記録を残しておくに越したことはありません。前項にて「人間が手を加えよう」と書きましたが、どこを人間が修正しているかも記録しておけば、十分に「創作的寄与」があることの証明となるでしょう。

一方、いわゆる「ポン出し」と呼ばれるAIで生成したままの文章を利用するのは、リスクは比較的高いと言えます。特別にそうする目的がないのであれば避けておいた方が無難ですが、別に「ポン出し」が悪いということはありません。「独自性のあるプロンプトだから創作的寄与があり、著作権が認められる」と主張することは可能ですが、判例が無い以上、今はなんとも言えません。私も創作的寄与となり得るようなプロンプトを模索してはいますが、それだけで十分かどうかは私だけでは判断できません。

どのようにAIツールを使ったか記録する

上記と関連しますが、AIツールを使う際には、どのように使ったのか説明できるようにしておくとよいでしょう。偶然、他人の文章と同じ表現を書いてしまった場合に、人間が書いた部分なのか、それともAIが書いた部分なのかは重要なポイントです。もしAIが書いた部分であり、その作品をAIが学習していた場合、「依拠性」が認められてしまう可能性があります。一方、人間が書いた部分であり、過去にその作品に触れたことがないのであれば、「依拠性」が認められる可能性は低いでしょう。

参考:「AI と著作権に関する考え方について」文化庁

特に、AIに生成してもらった文章を人間が修正する、という作業を繰り返すと、どこがAIの文章でどこが人間の文章だったか、分からなくなることが多いです。ChatGPTやClaudeなどはチャットのログが残るので、重要なチャットは削除せずに、何に使ったのか分かるように適切な名前を付けて保管しておきましょう。AIの文章を元に人間が修正する場合は、AIで生成した原文をメモ帳などのテキストエディタにコピペして保存しておくとよいでしょう。

AIツールを使うことが許されている場面で使用する

文学賞では、生成AIの利用がOKなものとそうでないものがあります。例えば、日経「星新一賞」や日本SF作家クラブの小さなSFコンテスト、かぐやSFコンテスト、ハヤカワSFコンテスト、創元SF短編賞などは、応募規約に生成AIの利用が可能であることが明記されています。それぞれの賞によって細かい取り扱いが異なりますので、具体的な情報は公式サイトを参照してください。

数年前までは日経「星新一賞」しか明文化していませんでしたが、こうして応募可能な賞が増えてきたことは、AIを利用して活動してきた私としては大変うれしい限りです。

また大学のレポートなどで「AIツールを使って書いてはいけない」というルールが課せられている場合には、それに従いましょう。「どうせバレないだろう」という考えは、浅はかであると言わざるを得ません。

AIを使って大量に生成した文章で迷惑をかけない

文学賞に大量の小説を応募してしまうと、審査側に迷惑をかけてしまう可能性があります。下読みにかかる時間が膨大になれば、コストがかさみ、次回の開催ができないという事態もありえます。コンテストによっては一人当たりの応募数が限定されていることもあるので、ルールを守りましょう。そうでない場合でも、常識的な応募数をおすすめします。

かくいう私も、優秀賞に入選した第9回日経「星新一賞」では、AIを利用して執筆した小説、合計100作品を応募していました。当時まだ生成AIが話題になっていなかったこともあってか、あまり問題視されませんでしたが、私もご迷惑をおかけしてしまったなと非常に反省しております。

Web上の投稿サイトでも、一度に大量に投稿すると新着情報を埋め尽くしてしまうことにもなるので、投稿する行為が認められているとしても避けた方がよいでしょう。AI利用作品専用の投稿サイトもありますので、そうした場所を利用することも選択肢の一つです。

また「ブログ記事をChatGPTで大量に生成できる」という宣伝を見かけることがあるかもしれません。その人々はそれを「ビジネス」と呼んでいるようですが、私はそうは思いません。ビジネスとは「三方よし」、すなわち「売り手よし、買い手よし、世間よし」であるべきです。世間をないがしろにした活動を、私は良いとは思いません。

自作の文章であると主張しない

AIを使って生成したにもかかわらず自分で書いたと嘘をつく行為は、不誠実であり薦められるものではありません。読んでいて違和感に気付くことができる内容であり、すぐに種明かしされるのならばフェアであると言えますが、AIの文章はパッと見ただけでは分かりません。後から「AIの文章だった」とばらしても、読者は騙されたという不信感を抱きやすくなります。できる限り、AIを使った文章であることを相手に明示しましょう。

小説であれば、あらすじや紹介文にどのAIツールをどう使って書いたかを簡潔に記載しておくとよいでしょう。

おわりに

今後もAIを用いた小説執筆に役立つ情報を発信していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

今回の内容は、2023年2月に公開した『あしざわ法典 ――ChatGPTを使って小説を書く方法――』の内容を、最新の情報に基づいて改訂したものです。

本書は、世間に先駆けてChatGPTを使って小説を書くための基本的なノウハウをまとめたものです。無料で公開しています。今後も本書の内容をアップデートしつつ、「かもめAI小説塾」のマガジンにて公開していく予定です。

合わせてメンバーシップを開設しました。価格は月500円です。一応、メンバーシップに入れば限定記事を閲覧できる特典をつけようと考えてはいますが、私はできる限り無料で記事を公開して、多くの方に役立てていただけるようにしたいです。ソフトウェアの世界でいえば「オープンソース」の概念に近いと思います。

私の理念にご共感いただける方はメンバーシップにてご支援いただけると嬉しいです。ご支援をいただければ、AI創作の普及のための活動に割ける時間を増やせるので、何卒よろしくお願いいたします。


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