シェア
明日ノ澪
2022年9月22日 17:32
沈黙の後、今度は小春が話しはじめた。「入学式のあの日、貴方と目が合って、思い出したの。ずっと胸の奥の抽斗に了ってあった色が蘇ったように」「それって、どんな色?」彼女は左下に目線を落として少し沈黙した。蝉時雨と雨が容赦なく降る。「半透明の緑色。質感はシーグラスだった。」「今はちがうの?」「あんまり訊かないでよ」金曜の夕方ということもあってか少々店内が混んできた。ここはお酒の提
2022年9月3日 21:10
『キスは色恋だよ』大学時代の友達の結婚祝いを渡しに行った帰り道。十六時。助手席に小春を乗せて、車で雨の八月を走る。先週のあの言葉はたまに僕の頭の中にふらりと現れる。ここ最近はずっとそんな感じだ。「君との思い出で一番古い記憶があってさ」「入学式でしょ?職員室の前で目が合った話したよね」「いや、それよりもっと、前なんだ。」彼女はさっきコンビニで買ったアイスティーをひと口飲んでから、
2022年8月26日 10:30
あの悪い夢の所為で中々落ち着かない。胸の奥に夢の跡が残ったままぼんやりと寝室から出る。僕は思わず目を細めた。雪の光だ。キッチンにある窓から小さな街を見下ろす。空と地上の間は粉雪で煙っていた。高台にあるが故に階段が面倒だが、景色だけは良かった。街中の物件と比べれば利便性は劣れど、僕はこの家に一目惚れをしてしまったのだ。このキッチンの窓は色々な景色を見せてくれる。この窓から朝陽