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少しの憂鬱とマニキュア

 世の中には「何者にもならない人」と「何者にもなれない人」がいる気がしていて、自分は圧倒的後者だと思う。

そう強く思ったのは大学時代の数少ない友人にアイドルになろうとしている事を打ち明けた時で、それは人間の人生観の違いを初めて大きく感じた時でもある。

「ついていけない」
笑いながらそう一言言われた。その後しばらくして、やっぱ目指すところが違うんだなぁと声がした。

「地元に戻ってそれなりに就職してそれなりの家庭築いてそれなりに生きたい」「そこそこでいい、目立ちたいという思いはない」
それがその人の人生観だそうだ。

その人は私よりも美貌も人徳もコミュニケーション能力も周りに人を集める謎の魅力もあった。サークルではいつも中心にいた。大学でも学部の友人といることがほとんどのようだった。何故かみんな名前を知っていた。当時は羨ましいとすら思っていた。それなのに「そこそこの生活をすること」を望んでいることに心底驚いた。

なんだか悔しくも感じた。何者にもなろうとしてなくてもきっとなる気がしたから。きっとその人は望まずとも最高の人生を送るような気がしたから。人から選ばれる沢山の理由があったから。先天的に持っていたものも後天的に得たものもわたしよりも何倍も多いように感じられたから。どうしてなんでももってるくせに——。


こんなに浅ましいわたしは結局なににもなれないんだろうな、とその時ふと感じた。

顔が違って生きてきた人生が違えばこんなにも目指すものは変わるの?なんで一緒に生きてくれなかったの?人間どう生きたいかみんな違う、なぜ?母親も言ってた「それなり」ってなに?
わからなくて唸ったアパートの部屋をふと思い出した。

そこでもぼーっとしたい日はマニキュアを塗っていた。
中指だけ全然上手に塗れなくて汚い白なのは今のわたし。