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視えなくなっても、できることに目を向けて広げていく― あしらせと共に続ける挑戦

私たちAshiraseは、視覚障がい者のためのナビゲーションデバイス「あしらせ」を開発しています。足への振動で目的地まで案内するため、スマホを都度取り出したり音に頼りきる必要がなく、視覚障がいをお持ちのかたが単独で移動する不安を減らし、歩く安心感を提供します。

今回は、そのあしらせを1年近くご利用いただいているあしらせユーザーさんにインタビューを行いましたので、その内容をお伝えしたいと思います。

インタビューを受けてくださったのは、関東にお住まいの女性、Aさん。

もともと視力に問題がなかったAさんが、視覚障がいと診断されたのはおよそ15年ほど前。網膜色素変性症という徐々に目が見えなくなっていく病気と診断を受け、現在は明るさや白線がわかるぐらいの見えかたとのこと。
病気が進行するに伴い、徐々に支障が出てきて当時の仕事を辞めることになったり、人と会うことに消極的になった時期を経た後、8年ほど前から点字を学び始め、今では週に1度、点字触読サポートボランティアという点字をほかの方に教えるボランティア活動をされていたり、あしらせを使って色々なところに出かけたり、多くの挑戦を続けている方です。

徐々に視力が奪われていく中で、Aさんが何を思い、何をして過ごしていたのか。多くのことが見えなくなってしまった今、どんなことをしているのか。そして、Aさんにとって、あしらせはどのような存在であるのか。

お話をお伺いしましたので、ぜひご覧ください。こちらのインタビュー内容についてはAさんのご許可をいただいております。


病気の発覚、徐々に見えなくなることへの戸惑い

ーまずは簡単に自己紹介からお願いいたします。

はい、Aと申します。徐々に視力が下がっていくという網膜色素変性症を患っています。8年ほど前から点字の勉強を始めまして、今では週に1度、自分が点字を教える側としてボランティア活動をしています。また、3人の子供がいて夫と一緒に暮らしています。

ーAさんは先天性の病気ではないとのことですが、視力が悪くなってきたのはいつごろからなんでしょうか?

およそ15年ほど前からです。診断された当初は視力がまだ0.7ぐらいあって全然見えていたし、病気の進行には個人差があると聞いていたので、このままいけるかなと思っていたのですが、1年、また1年過ぎていく毎に症状が進行していきました。色々病気について医学書などを調べていく中で、「大変な病気になっちゃったんだな」と思いました。

ー徐々に見えなくなっていく中で、当時の状況について教えていただけますか?

そうですね。最初視力に異常を感じたときは、「老眼かな?」と思った程度でした。その後、メガネをかけても見え方が良くならなかったり、会社の健康診断で異常があることが分かったりして。
おかしいとは思っていたのですが、当時は仕事をしながら3人の子どもを育てていたので毎日が必死で、病院に行くことはありませんでした。仕事が終わったら塾の送り迎えをしたり、お弁当を作ったりと毎日大忙しだったので、自分の目のことは二の次になっていました。
でも、やっぱり徐々に見えなくなってくるなかで、字が読みづらかったり手元のものが見えなくなってきたり、だんだんと生活に支障がでるようになってきました。

ーお仕事への影響などもありましたか?

はい。当時していた仕事は一旦辞めてしまいました。
その後、別の仕事にも就いたのですが、それも結局は辞めてしまいました。
やはり、目を使う仕事が難しくて。。。
今思えば、他の部署に変えてもらうとかすれば、辞めなくてもよかったのではないかと思うのですが、当時は「もう無理かな・・・」と思ってしまいました。

ー外出とか移動とか、その辺りの変化もありましたか?

そうですね。例えば友達とレストランで待ち合わせをしていても、そこに1人で行くのがだんだん難しくなっていきました。周りの建物だったり、字が見えなくなるので、どこに何の建物があるのか分からないんですよね。
また、食事の時もフォークだと思って手に取ったらナイフだったりと、食事自体も難しくなってきて、そこから人と会う回数がやや減ってしまいました。

ーご友人には、病気のことは話されていたんですか?

そのころにはもう言わなきゃなと思って伝えたのですが、病気になってから長い間ずっと言えずにいて見えているフリをしていました。病気を告白するのにだいたい5年ぐらいかかりましたね。そしたら皆とても優しくて受け入れてくれて。もっと早く言えば良かったなと思いました。

点字との出会いや家族の支えもあり、徐々に活動的に


ー今では点字を教えるボランティアをされているとのことですが、点字との出会いはいつ頃だったのですか?

点字を学び始めたのは8年前です。点字を学べる団体のところへ通い始めたのですが、そこでは点字を教わるだけでなくて色々なことを教わりました。歩行訓練士の方もいらっしゃって、「今から使っておいた方が良いよ」と言われたことがきっかけで、白杖を使い始めることにもなりました。

それまでも、段差が分からなくて躓いてしまったり、小さな子供に気づけずぶつかってしまったり、電柱にぶつかってしまったり、見えない中でのトラブルはたくさんありました。酷いときには、スーパーの自動扉が透明で見えなくて、思いっきりぶつかって鼻血を出してしまい、救急車のお世話になったこともありました。
こういったことって、白杖を持てばなくなるのかな、白杖を持たなきゃな、と思ったのですが、でもやっぱり最初は白杖を使いたくなくて・・・。

最初の頃は白杖を隠し持って行って、行き慣れていない道だけで使っていました。でも、徐々に見えなくなる中で白杖があった方が安心ですし、ぶつかってしまうと周りの方にも迷惑をかけてしまうので、だんだんと白杖を使う機会が増えていきました。

白杖を使って歩くAさんの様子
白杖を使って歩くAさん。視力が下がってきた当初は、あまり使いたくなかったと言う。

ー白杖を使い始めたり、歩行訓練士の方と知り合いになったり、点字を学び始めたことが色々なきっかけになったんですね。

そうですね。点字を教えてくれた団体が、視覚障がい者向けの色々なグッズを紹介してくれました。例えば、パソコンの読み上げソフトだったり、1プッシュ何mm出るのか決まっている醬油差しだったり。また、鏡を見なくても指を使って綺麗にメイクができることも教えていただきました。メイクやおしゃれをするとお出かけしたくなりますね。
点字の先生や歩行訓練士の先生など、たくさんの方々に温かく受け止めてもらい、技術的にも精神的にも支えていただいたと感じています。

また、視覚障がい者の友達ができたのも大きかったです。そこからいろんな輪ができて、視覚障がい者向けの情報を発信するメーリングリストに登録したりして、そうするとさらに情報が入るようになって。
視覚障がい者の方向けのイベントの企画を知るようになって、だんだん自分が活動的になっていきました。それまでは子どもに付きっきりで子育てしかしてなかったのですが、自分のための時間を取ることができるようになっていったんです。

ーお子様や家族の方は、病気のことをどのように受け止められたんですか?

夫は「できることはフォローしていくよ」と普段通りに接してくれながらも、書類を読んでくれたり、記入してくれたり、積極的に手伝ってくれるようになり、それがとてもありがたかったです。また、一番下の娘に伝えたときは、私がちょっと落ち込んでいたのもあるのかもしれないですが、「大丈夫だよ。私がママの目になってあげるからね。ずっと目でいてあげるから心配しなくてもいいからね。」と言ってくれて。その言葉にはとても救われました。

あしらせとの出会い

Aさんの靴につけてあるあしらせ
Aさんの素敵なワンピースに合う女性用スニーカーパンプスに装着したあしらせ

ーここからはあしらせについてお伺いさせてください。発売前の体験会で体験いただいたのが始まりだと思いますが、その時の印象やどういうきっかけで知ったのか、教えていただけますか?

体験会の少し前に、友達から教えてもらったんです。その後、すぐに体験会の申し込みをしました。

ー即決だったんですね。どうしてすぐに参加しようと思われたんですか?

「行きたいな」と思うイベントはたくさんあったんですよね。でも、1人じゃ中々いけないだろうなと思って二の足を踏んでいました。夫や娘に頼めば連れて行ってくれるのですが、予定があったりでいつでも頼めるわけじゃないので、「なんとか1人で行けないかな」と思っていたんです。
あしらせを見て、「もしかしたら1人で行けるようになるかもしれない」と思って申し込みをしました。

ー実際に体験してみて、印象はどうでしたか?

振動だけで歩く、というのが自分だけでも分かるのかな、という不安が最初ありました。体験会ではスタッフの方に色々教えてもらいながら歩いていくと、「到着しましたよ」と言われたんです。「すごい!」と思ったのと同時に、今後、自分1人で使っていったとしても大丈夫だろうか、という心配はありました。でも、いい商品だなと思ったことは間違いないです。

ー当時は単独歩行でどこか行かれたりはしていたんですか?

はい、単独歩行はしていました。
目的地の地図を印刷して大きく印をつけてもらったり、住所を記載したりして、迷ったときは誰かに聞けば教えてもらえるようにして、それで新しい場所に出かけることもありました。

今の視力ですが、明るさは結構見えていて、点字ブロックだったり白線は分かるので、どこに道があるかは分かるんですよね。
ただ、信号がどこにあるかは分からないです。今はあしらせが、「まもなく交差点です」と教えてくれるので、それを手がかりに歩いています。

ーAさんはユーザーさんの中でも1,2を争うくらいあしらせを使ってくれているんですけども、使い始めてからの印象はいかがですか?

私は新しいものに結構飛びついちゃうタイプなんですよね。そんな感じであしらせを使い始めたのですが、最初はゲーム感覚で楽しいなと思って使っていました。色々案内してもらって、目的地に着くと「到着しました」と言われて。ゴールした!と同時に、「1人で行けるじゃん!」と思ってとても楽しかったです。
曲がるのはここで合ってるのかとか、踵が振動したら「間違えた!」と思って来た道を戻ったりとか、そういった失敗もありましたが、新しいものを使っていて楽しいなと思っていました。

ー慣れるまではどれくらいかかりましたか?

1週間くらいかな。もしかしたらもっと短いかも。

ーそれは早いですね。でも、毎日何回もお出かけに使っていただいていたようなんで、早かったのかもしれないですね。あしらせの練習のために外出とかされたのですか?

いや、それはしていません。実際に用事があって、その出かけるときにあしらせを使っていました。その度に色々試してみて、慣れていくのが楽しかったです。

ー購入前の体験時は1人で大丈夫かなと思っていたとのことでしたが、それでも楽しいと思えたのはなぜなんでしょうか。

やっぱり目的地に着ける、というのがとても嬉しいことで。
たまに失敗したりとか、すんなり着けなかったりとかあるのですが、目的地に着いた時には、「クリアできた!」っていうゲームみたいな感覚でした。

ーあしらせ自体は、今の生活に溶け込んでいますか?

そうですね。やっぱりあしらせがなかったら生活が成り立たないと思います。外出の時はあしらせがないと不安だし、着けているだけで使わない時もあるんですが、最後の命綱みたいで頼りになるなと思っています。
充電もすぐにできるので、そこも助かっています。

ー今は外出はスムーズにできていますか?

はい。片耳だけイヤホンをして、あしらせの音声フォロー機能も使っていますが、たとえその音声を聞き逃しても振動があるから全然大丈夫だし、音声でも、後何mで曲がるとか、残りどれくらいで着くとか、近くにあるコンビニの情報とかが流れてくるのでとてもありがたいです。

Aさんがあしらせアプリを開いている画像
駅までいきましょうと、あしらせアプリで目的地設定をスムーズにされるAさん。

ーほかにもあしらせで使っている機能はありますか?

マイルート機能は使っています。誰かと歩いた時に新しいマイルートを登録して、その次からは1人で行けるようになるのでとてもありがたいです。
あとはAIおすすめ検索機能も使っています。「美味しいレストラン」とかで検索をして出てきたお店に入ったこともあります。凄く良くて、この間友達といるときもAIおすすめ検索でお店を見つけてそこに行くことになりました。「すごいね」とびっくりされましたよ。

ー単純にGoogleで音声検索するのと違いはありますか?

違いますね。Googleだと、バーッて情報がたくさん出てきちゃう。そこまでパソコンとかの操作が長けているわけではないので、あまり使っていませんでした。あしらせは簡単に検索して出てくるので、とてもありがたいです。

ーあしらせを使って、初めてのところに行けるようになったのは、使い始めてからどれくらいかかりましたか?

時間的に難しかったこともあり、半年くらいかかりましたね。
最初は初めてのレストランに1人で行けること、を目標にしていました。

ー初めてのところに行った時のことで、覚えてることはありますか?

試してみたら割とサクッと行けたというか、言ってる通りに歩いていたら着いちゃった、という感じでした。
本当に行けるのかなと思っていたのですが、目の前に到着できたので感激しましたね。


今年の2月に、競輪場で障がい者向けのオートバイの体験会があったんです。競輪場とかそういう場所って、割と駅からも遠い辺鄙な場所にあることが多くて、以前だと夫に手伝ってもらっていたのですが、あしらせがあるので1人で行くことができました。
そういう積み重ねもあって、今はもうどこでも行けるなと感じています。

ーあしらせが出かけることへの心理的なハードルを下げることに役立てているのですね。とてもうれしいです。

そうですね。やっぱり出かけるっていうのは、最初は結構駄目だって思いがちです。あしらせがなかったときは、結構不安な状態でちょっと気が重くなっていましたが、今はそういう気持ちはもうないです。

これからは、娘から教えてもらったカフェをめぐってみたりとか、いろんなところに行ってみたいと思っています。

これからのチャレンジ


ーありがとうございました。最後に、これからチャレンジしたいことや、やってみたいことがあれば、教えてもらえますか?

今は、点字講習で教える側に移って、点字触読サポートボランティアとして講習生とともに勉強しているのですが、もともとこの講習で点字を学び読めるようになりましたので、これから学ばれる方の少しでもお手伝いが出来たら、恩返しが出来たらいいなと思っております。
そういった人のためになることが出来たらいいなと思いますし、やったことないことや知らないこともまだまだあるので、初めてのことをどんどんやっていきたいとも思っています。

実はピアノを2年前くらいからやっているんです。元々は小学4年生まで習っていたのと、2人目の子どもが生まれたときに保育士の資格取得をしようと思ってその時に練習したことがあったのですが、それを最後に全く触れていませんでした。指先を動かすのが脳に良いということを知って、最初は母と一緒に習い始めて、今では自分だけが習っています。
鍵盤や楽譜は見えないので、最初は片手ずつ引いてもらって、指番号とかも全部音で教えてもらうので、1曲仕上げるのにとても時間がかかるんです。でも、最初は初心者向けにアレンジされた簡単な曲をやっていたのですが、最近は原曲を弾きたいと思うようになって、今は『G線上のアリア』を練習しています。なかなか難しいですが、時間をかけてチャレンジしたいなと思っています。

ー素晴らしいですね。難しくて、少し時間はかかっちゃうかもしれないけども、ずっとチャレンジしていくのが本当に凄いですね。

視覚障がい者になって分かったことなのですが、見えない方ですごい取り組みをされている方ってたくさんいらっしゃるんです。NPO法人「ヒカリカナタ基金」を創り、アジアの貧しい国の目の見えない子供たちに目の治療費を送る活動を続けていらっしゃる竹内先生、お医者さんや弁護士をされている方、セミナーやイベントを開催している方、視覚障がいの理解を深めるために学校にお話をされに行かれている方。
色んなお仕事や活動をなさっている、しかも、自分のためではなく困っている人たちやより良い社会のために活動されているというのを見ると、自分が凄いちっぽけだなと思うんです。そういう方と知り合えたことも、私の中の凄い励みになっています。

視覚障がい者になってからできることはだんだんと減っていきますが、今までとやり方は違っても、新たな視点で違う形でできることもあるのでは、と私は思っています。
何事も自分次第、そういう風に思いながら生きていくと、やっぱり希望は見えてきますね。自分なりにできる限り無理しないで精一杯やる、誰とも、過去の自分とも比べなくていい
と、視覚障がい者のためのヨガ教室でも教えていただきました。
できないことにずっと目を向けても難しいので、できるところを見つけて広げていく、そういうスタイルで生きていく
のがいいのかなって思っています。
そういう意味ではあしらせは本当に行動範囲がすごく広がる。チャレンジするためには、その場所に行かないとはじまらない、ということがとてもあるので、すごくありがたいです。開発してくださって本当に嬉しいです。

ーこちらこそとても嬉しいです。あしらせが色々なきっかけになれていてとても嬉しかったです。これからもそういうきっかけを多く作れるように、頑張っていきたいと思います。本日はありがとうございました。

終わりに


いかがでしたでしょうか。
Aさんは中途で視覚障がいを患い、とても苦しい状況を経験されながらも、できることに目を向けて新しいことに挑戦されているとても素敵な方でした。人に役立つことや恩返しをしていきたいと、笑顔でお話されていたことがとても印象的でした。
また、そんな素敵なチャレンジをするうえで、あしらせが大きく貢献できていることが分かってとても嬉しく思いました。

あしらせは2024年8月から新モデルの先行予約を開始します。これからもユーザーさんのインタビューを続々と公開したり、さまざまなイベントも予定しています。最新情報はメールマガジンやXで配信していますので、興味のある方はぜひご登録やフォローをお願いします。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございました。