夢日記20220701

 また本番前らしく、慌てている。いつも似たような夢ばかりみる。

 荷物をまとめ、ワタワタと移動しようとする。丁度夕飯時である。

「はい」
「ん?」
「お釣り」
「ああ」
「失くさないようにちゃんとしまってて」
「わかってるよ」

つれあいからお釣りの入った紙袋をもらい金庫に入れる。外は砂利道。他の荷物もあり道端に金庫とタイヤを置く。タイヤ? タイヤは小道具か何かか。電話が鳴り出る。

「まだ来ないの?」

と、のんびりした声。会場のおかみさんだ。今日は居酒屋でのステージ。時間は迫って来るが電車で一駅なので、まだ大丈夫。
 
もう一本電話。少し話し込むが、

「今は時間がないので」

と,電話を切る。

仕事の話。21日から5日間、半日拘束の仕事が続くのだという。手帳を開くと案外真っ黒、予定はなくはない、

「いや何とかなるだろう」

と、のんきな男。ダブルブッキングの悪夢が訪れるのは、まだ少し先か。

「あんたもう行かないと」
「ああ」

つれあいと砂利道を駅へと向かう。

「あんた金庫は?」 
「あれ、どこだっけ…?」

手持ち無沙汰な手で頭をかく男。

「ちゃんとしまっといてと言ったろ」
「ああ」
「探さないと」
「いや、とにかくもう行かないと、俺が行かないと幕が開かない」

いや、会場の居酒屋に幕はないのだが…。

ふと道端に金庫を見つける。蓋を開けるも、中にはビニル袋が千切れているのみ。

「やられた」
「あんた、とにかくもういかないとお客さん待たせちゃダメだよ」
「そうだな…」

と促され、急いで歩きだす。道を右に曲がるとき、風呂から子どもをあやすよな声、歌が聞こえてきた。通り過ぎようとする時、おやと直感が働く。直感どころか絶対だと話しかける。

「ちょっと」
「あ」
「あいすみません。ちょっと落とし物をしたんですがね」
「知りませんよ」

つれあいも、その物言いにピンときて詰め寄る。

「道端に金庫を置いていて、今日のお釣りがすっかりなくなっているんです。大切なお金なんです」
「大切なら道端に置いてちゃ行けない」
「あんた」

と、奥から声。

「なんだよ」
「あんた」
「あ!?」

 一緒に風呂に入っていただろう年増の女が風呂から上がり、急いで向こうへ歩いて行く。男は大きくため息をつき、風呂に潜る。
全ては壁の向こうだが、音だけでまるで見えるような気さえする。

「あんた」

と男に封筒を差し出す。

「そいつは、俺の!」

と、口に出かけたが、つれに制される。
風呂から上がり、男がさっと浴衣を羽織る。女から封筒を受け取り、こちらに差し出す。

「ん」
「え」
「これは、あんたのだ。あんたの大切な金だ」
「ああ」

そう言ったものの動けない。すぐに動いて礼を言ったのはうちのつれあい。

「ありがとうございます」
「どうも、あいすみません」

と年増の女、湯上がりで、尚良く見える。

「さあ、あんた時間」
「ああ…」

去りかけ、礼を言っていないのを思い出す。封筒をちょいと差し上げ、

「ありがとよ」

と伝える。「ありがとよ」は、この場合、適当なのか…。

あいつはそっぽを向いて嫌そうに頷く。

「あんた」
「何だよ」
 
というふたりを尻目に急いで駅へと向かう。道すがら、

「あいつ、根は悪いやつじゃないかもしれない、じゃなかったら、あんないい女が側に居るわけない」

それを、さとられたんでもあるまいが、つれあいが

「時間」

と、俺の背中を叩く。
夕飯時、道すがらの家々からは、いい匂いがしている。

「今夜、舞台がハネたら、あいつにビールでも買って行こう。何だか、あいつと一緒に飲みたくなって来た」

                             終

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