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母の心臓、息子の心臓

二世帯住宅で同居している実母は、数年前から不整脈を患っている。

「不整脈が出た」

と母から言われても、本人も私もさほど動揺しなくなって何年も経つ。
慣れたと言うと語弊があるが、こういう感じならこうだという見通しが立つようになってきた。(そうではない場合もあるから注意は必要だが)

近所のかかりつけ医(母は高血圧で通院中)から紹介された心臓専門の先生とは、母の不整脈歴と同じ年数の付き合いになる。

不整脈が出て…と連絡を入れると、電話口で細かく状況を聞いて、直ぐに診察してくださる心強いお医者さんだ。
白衣は着ておらず、足元はビルケンシュトックのサンダル。

家から電車でそう遠くないところにあるクリニックは、いつ行っても清潔で気持ちよい。
どこもかしこもバリアフリーで、絨毯もソファーも受付もシンプルながら素敵。

待合スペースには、書家である息子さんの作品が飾られ、出入り口付近には、おそらく先生が通勤で使っておられるクロスバイクが停められている。

クリニック内で出来る検査(エコー、心電図)が済むと、付き添いの私も診察室に呼ばれ、母と私に丁寧に説明してくれる。

私は、耳が遠い母が、説明を理解し易いようにする通訳係。
先生も心臓の模型を使ったり、出来るだけ医学用語を使わないように話してくれる。

母の心臓のエコーを見せてらうと、私にも同じものが身体の中にあるなだなといつも思う。
いきいきと、絶え間なく動くもの。
誰もがいつか止まる日がくるもの。

◇◇◇◇◇◇

長男が新生児の頃に、不整脈があると言われた。
生後一ヶ月検診の頃だ。

紹介された大学病院の循環器小児科で精密検査してもらい、「成長と共に自然治癒していくタイプの不整脈なので心配なし。定期検診して経過をみていきましょう」と言われた。

3、4ヶ月ごとの24時間ホルター心電図が、半年になり、一年に一回になり、「もう大丈夫です」と言われたのは幼稚園入園の年。
毎回の検査結果が出るまでの不安から解放された喜びは大きかった。

長男の不整脈卒業と入れ替わりのように、母の不整脈が始まった。

不整脈といっても、ふたりのものは内容が違う。

母も24時間ホルター心電図を着ける検査をすることがあり、ばぁばは(長男)と同じだねと笑う。


◇◇◇◇◇◇

「行ってきます」

今朝4時50分、長男は友達とふたり、日帰り関東ぐるり電車旅に出発。

JRの「休日おでかけパス」を使い"関東の電車に乗れるだけ乗る"そうだ。(本日は休日ではないのだが、夏季に設けられた特別使用期間に該当する)

電車好きなふたりが考えた計画は、乗り換え時間が2分だったり(向かいのホームだから余裕あるとのこと)一日でそんなにまわれるのか疑問が浮かぶルート。

けれどもきっと、中2の夏休みの大きな思い出になるに違いない。

4時起きし味噌汁を飲ませて、ラムネとSOYJOY数本をリュックに入れて送り出した。

朝ごはんは、何処かで友達と食べるとのこと。

まだ薄暗い早朝、駅にむかう背中を見ながら長男の心臓に想う。今日もよろしく頼むよ。

朝ごはんを済ませたら、階下に住む母の様子を見てこよう。
長男は元気に出発したよと、伝えよう。


お読みいただきありがとうございました。













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