今がいちばんくるしい時
長男と、高校の入試説明会に行ってきた。
ふだんは使わない路線に乗る。
もしかしたら、子どもがこの電車で通学するかもしれない。
何の根拠のない緊張感で落ち着かない。
隣に座る長男は、口元を緩ませながらスマホをいじっている。
夏休み中から、いくつかの高校を見学、説明会に参加してきた。
「学校見学に行くと、合うか合わないかがすぐわかるよ」
受験の先輩たちから言われた。
うちの子だからかもしれないが、確かにそうだった。
「難関国公立大への進学率は……」
「本校の特色のひとつとして、徹底した英語能力向上を……」
長男よ、頼むから露骨に嫌な顔しないで。
文句は学校を出てから聞くから。
手元に配布される学校案内パンフレットは、指定校推薦とか進学率よりも、紙質や色みやフォントが好きとか、写真の配置だとか、そういう事が気になってしまう私。
スクリーンに映し出されるパワーポイントの資料。
操作しながら話す先生たちに、お話(説明)がわかりやすく上手だと感心する方もいれば、その逆もまた然り。
在校生がその場にきて、話をしてくれることもある。
この高校に入学してどう感じているか。
高校卒業後の進路はどんな希望を持っているか。
中3受験生に伝えたいメッセージは?だとか。
多くの高校は、オンラインで説明会を予約が必要だ。
学校によっては定員に対しての希望人数が多く、説明会参加のための抽選が行われる。
夏休み前、長男の中学の先生から指示があった。
「受験する可能性があるところには、必ず説明会に参加してください。
受験を考えているところには、説明会で必ず「個別相談」をしてください。
個別相談してきていない学校には、12月の教育相談※が出来ないし、中学校からの推薦が出せません」
※中学校の先生と志望高校の先生とのあいだで、推薦受験する生徒についての事前の話し合いをすること。=学校間での話し合い
これが通ると、年明け後の推薦受験が可能になる。(私立高校の単願推薦、併願推薦などの場合)
「この学校にいきたい」
何を基準に選べばいいのだろう。
「高校にいけるのなら、何処でもいい」
3年生になったばかりの長男は、そう言っていた。
何も考えてないな、おめーは。
「何処でもいいっていうほど、実際には選べないものだから。まずは学力ってもんがあるじゃん。あと交通アクセスとか」
夫のように笑って受けとめる余裕が、自分には無かった。
もっと真剣に考えてよ、と腹が立った。
もっとちゃんと勉強やってよ。
もっと受験生だって自覚してよ。
もっと、
もっと、
もっと、
私は子どもに、"偏差値の高い学校"や"有名な学校"にいって欲しいなんてこれっぽっちも思ってない。
長男が、楽しく高校生活が送れそうなところにいって欲しい、それだけ。
どこよ?
そんな学校あるの?
あっても、彼はそこに入れるのだろうか?
入学していいですよとそこに言ってもらえるのだろうか。
勉強しても、足りてない。
足りないことを指摘すればキレる。
すごい喧嘩。
ここに書けるわけない壮絶なやつだ。
もうくたびれたんだ。
くたびれるよ。
そうだろうね。
お母さんも。
お母さんもくたびれた。
英語も数学も理科も、もう見たくない。
解きたくない。
自分の子に教えるのがつらい。
すっごくつらい。
つらい、つらい、つらい、つらい、つらい。
もうしない。
もうしない。
これっかぎり。
今日だけだからね、と毎回言う愚かな私。
でも明日がくると、また一緒に勉強をする。
何事もなかったように問題にむかう。
どうなってるんだ。
完全にあたまおかしいよな。
くすりの副作用で体調が良くはないんだよ、私。
母の愛ではない。
意地だ、意地。
やれるのにならないでいるのが嫌なのだ。
私は、自分が勉強が出来ないなと思い知らされる。
中学生の勉強もわからないのかと、情けない。
「お父さんはぜーんぶ忘れちゃったーーエヘエヘエヘ!」
夫の言葉はピリピリした私と長男へのやさしさか、事実なのかは分からない。
高校受験の問題、私には非常に難しい。
数学の図形とか関数とか理科とか理科とか←
教えるには至らず、一緒に解くしか出来ない。
そして解けない時も多々あるので、解答や解説を常に見ながらだ。
長男が志望校を決めた。
「オレはここにいきたい。
ぶっちゃけ、ここにしかいきたくない。
お母さんの力を貸してほしい。
お願いします」
借りるんかーーーい!!!と、過去問に挑戦してみる。
「……マジか、オレ解けるわ。あ、ここもわかる……なんでだ?」
「おう、そりゃよかったな」
(夏休み前の彼なら、解けなかったと思う)
成績は横ばいだ。
数字で突きつけられるの、つらいだろうな。
「やったんだけどなー」
返ってきたテスト結果に猛烈に悔しがる。
うん、やってもね、そういう時もあるよ。
でもさ、ここはよく解けたじゃん。
「今がいちばんくるしい時です」
先日、長男の中学校の進路説明会で、学年主任の先生がおっしゃった。
「年が明けて1月、2月になると、もうノンストップで試験が始まります。
10月、11月、12月。
年明けよりもこの時期の方がくるしかったと、後から言う生徒が多いです。
不安もある、どうしたらいいかわからない。
子どもの、そんな気持ちに気づいてあげて欲しいです」
心の中に留めている。
「お母さん、見てよ、このガンダムの脚!オレが改造したのー」
プラモデル作ってるじゃないかーい!とあきれながらも、笑顔にホッとする。
夏休みの終わり、長男は二年間通っていた個人塾をやめた。
「やわらかい顔つきになったよな」
夫が言う。
私もそう思っている。
あと少し。
もう少し。
がんばれ受験生たち。
受験生の家族、お疲れさまです。
がんばれ、長男。
ガンプラ作りながらがんばれ。
お母さんも、がんばるからな。
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