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【企画参加】#教科書で出会った物語 「星々の悲しみ」宮本輝

メディアパルさんの企画に参加します。

物語を知ったのは、高校の「現代国語」の教科書だった。

主人公・志水靖高は予備校生。
予備校には通わずに毎日図書館に通い、ロシア文学を読み耽っている。
図書館で出逢った女子大生風の女性に好意を抱きつつも、つれない日々。
ふとした事から、同じ予備校に通う草間と有吉という男子予備校生らと知り合いになる。

医大志望のふたりと入った喫茶店「じゃこう」には、
星々の悲しみ」というタイトルの大きな油絵(100号サイズ)が飾られていた。 

葉が生い茂る大木の下、麦わら帽子を顔に乗せ寝ているように見える少年。
傍には、停めてある自転車。
初夏の昼下がりような眩しい陽射しが辺りを照らし、木の葉が風にたなびいている。


穏やかで明るい色調。
一方で、その筆さばきには鬼気迫るものが感じられた。
作者が執拗に描きたかったもの。
絵につよく惹きつけられた三人。
そして絵の下に表されていた作者の「享年二十歳」に、それそれの思いを巡らせた。

知り合って間もない会話のなかで、
「欲しいものは何かあるか?俺が盗ってきてやる」と志水に問う草間。
草間は盗みの名人だった。(「用事が済んだら必ず返却する事」が彼のポリシー) 
油絵「星々の悲しみ」と図書館で逢った女の子、と返答した志水。

そして志水が席を外している間に、草間と有吉は喫茶店を後にした。
ふたりに遅れ店から出た志水が見たものは、先ほどまで壁に掛かっていたあの絵を手にした彼らの姿だった。


拙い文章で冒頭部を要約してみたのだが、改めてこの作品に惹き寄せられた。

予備校での授業や試験に身が入らず、ひたすら本の世界に逃げこうもうとする志水。

「星々の悲しみ」というタイトルとは全く違う構図の絵。
初夏の昼下がり、木蔭で昼寝をしているかのような少年の絵。

100号もの大きさの油絵(130×160㎝くらいだと思う)を、営業中の喫茶店から盗んでしまう大胆さ。
(絵はこのあと、草間と有吉の手を借りて志水の家に運ばれることになる。)

◇◇◇◇◇◇◇

19歳という志水、草間、有吉の年齢が、当時高校生であった私には随分と「お兄さん」であり、「享年二十歳」の重みが今ほど響かずにいた。 

その頃16、17歳の自分と彼らと、数字で見れば大して違わないのであるが、この頃の一年は今の一年とは感覚が違う。

読み返して感じたのは、彼らの苦悩だけではなく、若さがもつ乱暴さと瑞々しさ。

それはかつての自分も、持っていたものだったと思う。

自分と同じ歳の近しい人の死が、まだ随分と遠いところにあった頃だ。

登場人物たちと近い十代後半、教科書で出会ったこの物語を、俯瞰するような気持ちで読み進めた。

有吉は魅力的だし(男前で秀才)
草間の軽快さと、いっぽん芯の通ったところがいい。
志水の妹、加奈子の洞察力のするどさ。

私が今回心に残ったのは、主人公・志水が、近所の友人・勇と望遠鏡で夜空を眺めるシーン。

レンズ越しに見える無数の星々。
望遠鏡ではとらえることが出来ないほど、遥か遠くに瞬く無限の星。

知らないところで起きていくこと。
知っているところで起きていくこと。
生と死が、誰にも対等に流れていく。

それは悲しみなのだろうか。
悲しみしかないのだろうか。

有吉の「またな」に対して、志水が「あの瞬間に、かすかに垣間見た」(「  」は、作品より引用)ように感じたもの。

けして悲しみだけではないのだと、自分は信じている。


※引用文献:『星々の悲しみ』宮本輝 文春文庫
(見出し画像の写真が、この文庫本です)

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お読みいただき、ありがとうございました。

このような企画があり、手元にある「星々の悲しみ」文庫本をもう一度読むことが出来たことを、心から嬉しく感じています。
メディアパルさん、素敵な企画をありがとうございました。
そしてフォローしているnoteの方々がこの企画に参加されているのも、私も書いてみたいという背中を押してくださいました。ありがとうございました。








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