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二分の一の息子に救われたお話

「二分の一成人式」をご存じだろうか?成人の半分、つまり10歳の時に行うもので、小学4年生の学年行事のひとつとして行われることが多いようだ。全国どの小学校でも行っているわけではない。我が家の兄弟が通う学校では「二分の一」があり、これは2年前の、長男が4年生の時のお話。

学校によってその内容は違うと思う。長男の「二分の一」は、

・授業時間を2時間(2コマ)使って体育館にて行う
・出来る限り多くの保護者に参観(同席)してほしい
・プログラムは
 はじまりの言葉→児童らひとり一人によるスピーチ前編→
 合唱その1→スピーチ後編→合唱その2→
 校長先生のお話→保護者の方からのお話→おわりの言葉

というものだった。なんなんだ、これは……完全に〝保護者を泣かよう”感が伝わってくる。だいたい二分の一成人式って何よ、いつから始まったのだろう、こんなのやる意味あるの?……という否定的な態度の私が、いろいろあって「保護者の方からのお話」を担当することになった。


そして「二分の一成人式」は始まった。
体育館に設えられたひな壇で整列する4年生たち。長男もいつもより緊張した面持ちだ。

彼のスピーチは「終わりのほう」だと聞いていた。オーケー、了解です。それから歌で、校長先生で、そして私のね、大丈夫、お母さんこういうのぜんぜん緊張しないからさ、どのお母さんもやりたくないから仕方ないよね、君は恥ずかしいと思うけれどちょっと我慢してね、じゃあまた学校でーと送り出した当日の朝。

児童らによるスピーチ(前編)が始まった。

「お父さんお母さん、毎日ありがとうございます。お父さんとお母さんが一生懸命働いて家族のことを思って、ぼくたちのことを育ててくれていることに感謝です」

「私の将来の夢は、お母さんのような立派な弁護士になることです。お母さんはいつも弱い人を助けるのがお母さんの仕事なのよと言っていて、私はすごいと思います。私もお母さんのようになりたいです」

小さかった子たちがこんなに大きくなったのだなぁと、1年生の頃のあどけない幼いころの彼らと重なってじーんとくる。

「お父さん、『忙しくてあんまり遊べなくってごめんな』って言わなくていいよ。お父さんがたくさんの病気の人を助けていること、ぼくは誇りに思っています。ぼくはずっとずっとお父さんが大好きです」

ね、これってさ、台本とかあるのかな、絶対あるよね…先生が手を入れてるよねと黒い心で思い始めると、会場からは徐々にすすり泣きの声が聞こえ始めた。平日の午後なのだが異様に出席率が高い。

合唱その1が始まる。涙腺を刺激するような歌詞。さらに会場が「泣いてもいいんですよ」モードになってきた。

もともと泣き虫な私だが、この日は絶対に泣かないと強く決めていた。長男にしたら、自分の母親が泣いた顔でみんなの前に立つなんて恥ずかしくてたまらないだろうと思ったから。ただでさえ、「あれ、おまえのかーちゃんじゃね?」って同級生男子に言われるだろうし。

スピーチ(後編)が始まった。乗り切れ私、これを乗り切れば、きっと大丈夫。あ、次にスピーチするのは長男のお友達だ。

「お母さん、かわいい妹を産んでくれてありがとう。ぼくはお兄ちゃんになれてとても嬉しかったです。お母さん、いつもぼくたちのことをありがとうございます」

うわあああああ、だめだめ、もう涙が出そう。泣いちゃダメだ、泣いちゃダメだ、泣いちゃダメだ、変なこと思い出そう、笑えることを。えーと、今朝登校前に次男がお尻出してふざけたこととか……

ぎゃっ、長男。このタイミングですか!?お母さん、ヤバいんだけど。
もう長男の姿を見ただけで涙がこぼれる寸前に。

「お母さん、お父さん、ぼくに『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』の楽しさを教えてくれてありがとう」

え?は?今ガンダムって言った?エヴァ?なんで今エヴァ?

その時こぼれそうな涙は漫画のようにピタリと止まった。クスクス、ふふふ、くっくっくっという静かな笑い(子どもからも大人からも)が聞こえてくる。無事スピーチを終えて満面の笑みを浮かべている長男。

おかげで涙が止まり、そのあとのスピーチも合唱もちゃんと聞けて、「保護者の方からのお話」も泣き顔ではなく普通に話すことができた。

10歳のみなさんが、ご家族に感謝の気持ちを伝えたり、将来の夢を抱いたり、好きなことや楽しいことを見つけたりするのは素晴らしいことだと思います。でもね、そんなにありがとう、ありがとうって思わなくていいです。私たちはみなさんが元気で笑って生きているだけでじゅうぶん嬉しいから。これからもずっと元気で幸せに生きてください。


帰宅した長男は
「お母さん、おれの聞いた?」と言うので、聞いた聞いた、よかったよ、ところであれって台本あるの?と聞いたら、極秘資料だと言って台本を見せてくれた。

台本の長男のところには
「お母さん、お父さん、ぼくに『ロボットアニメ』の楽しさを~」
と書いてあり、
「先生に〝ガンダムのような具体名にしない方がいい”って言われてさ。直前の練習まで台本通りに言って、本番だけサプライズしてみたんだ。あと富野さん(←ガンダムを作った人)や庵野監督(←エヴァンゲリオンを作った人)へのリスペクトを込めてちゃんとタイトルを言うべきかと思った」
と真剣に言うので、ふたりで笑ってしまった。だからちょっと早口だったんだね。

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