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saqaafat-e saqaafatライブレポ_20240416@京都GROWLY

4月16日(火)、京都GROWLYにsaqaafat-e saqaafatのライブを観に行った。そのライブレポを書きたいと思う。このバンドメンバーとはプライベートでも仲良くさせてもらっているから、ライブ以外の場面でのメンバーの素顔といったものについても書きたい気持ちがあるが、とはいえ、バンドにとってはライブがすべてである。だからこの文章では「友達のよしみ」なんてものは封じ込んで、あえて禁欲的にライブがどうだったかだけを記したい。


saqaafat-e saqaafatとは

saqaafat-e saqaafat(サカーファテサカーファト)。ウルドゥー語で「文化の文化」を意味するバンド名だ。この名前の発音しにくさ、覚えにくさというのは、このバンドの「複雑さ」とも通じていると思う。そもそも、自然と文化という二項対立においては、文化は第二の自然とも言われるが、「文化の文化」ともなれば、第三の自然、あるいは、そんな単純な計算を超えて、文化の文化、あるいはそのまた文化の文化の文化……と、どこまでも自然を遊離していってしまうような危うささえも感じさせる。どの曲も複雑な構成をしているし、どのバンドメンバーもそれぞれに色が強い。名は体を表すとはよくいうが、その言葉がこれほど似合うバンドも少ないだろう。

この日のライブは直前リハーサルということで、前の「地球から2ミリ浮いてる人たち」のパフォーマンスが終わってからsaqaafat-e saqaafatのメンバーがステージに上がった。20:00頃である。

この日のsaqaafat-e saqaafatのライブ衣装は「ジャージ」がテーマだという。ジャージならだいたい統一感が出そうなものにも思えるが、このバンドに限ってはそうもいかない。みんながみんなそれぞれの「ジャージ」を着てきている。Hibiking(Dr.)は裸にアディダス製のジャケット風黒ジャージを着流しているし、aioa(Synth.Vo.)はボトムスだけ紫のジャージを穿くという出立ちだ。武井 the Skywalker(Gt.Vo.)は青、と色もバラバラである。強いていえば、ステージの両端にいるNo Comply(Ba.)とUjita “VANZ” Yu(Gt.)の兄弟は緑色が共通しているものの、ひとりはアディダスのモントリオール、もうひとりは山本寛斎のジャージである。このバラバラさは、前回のライブの謝辞を見てもよくあらわれている。彼女ら/彼らは、ひとつのテーマを各々が各々の仕方で変奏していくバンドである。

さて、そろそろリハーサルが終わって、演奏が始まりそうだ。


ライブレポ

1曲目「Low Apache」はNo Complyのベースから始まる。赤光のなか、いつ始まるのか、という観客の期待を宙吊りにするようにベースがハウリングしている。1分ほどして、独特のベースラインが鳴らされる。ロックなナンバーだ。後半部では音が塊となって畳み掛ける。一曲目に相応しい出だしだ。

そしてMC。武井 the Skywalkerが言う。「5人1バンド、saqaafat-e saqaafatだ。」うけた。ここまではよい。そのあとだ。Hibikingがリズムを刻むが、他のメンバーが乗りきれず、武井 the Skywalkerは「聞いていないんですけどね」「もうちょっと練習します」と言ってしまう。素直でよい、が、素直すぎやしないか。あえてはっきり言う。saqaafat-e saqaafatはMCが得意なバンドではない。「素数ゼミ」の話や、のちに出てくる「葉桜がきれいだ」というMCは全く計算されていない。そして、その計算高くない姿がかっこよさとして昇華されていたらいいのだが、残念ながらそうはなっていない、と思う。準備不足だという印象を受け取ってしまう。聴く方が少し不安に感じてしまう。バンドに与えられているのはたったの30分である。その30分でいかに観客に与えられるか、ということにもう少し自覚的であってもよいのではないか、と思う。ライブの時間をどう使うか、ということについてはまた後ほど述べたい。

2曲目、「夜明け、もののけ、みかん通り」音源とは異なり、ジャジーなアレンジが施され、シャッフルビートで鳴らされる。テンポもゆっくりだ。1曲目とは異なり、甘い空気が流れる。紫色の照明はまるで場末のバーでライブを観ているかのよう。本当に同じバンドだとは思えない。それがsaqaafat-e saqaafatの面白さだと思う。Ujita “VANZ” Yuのソロもかっこいい。目深に被った帽子は、彼の内省的なプレイを象徴しているようだが、閉じていない。音で語り、オーディエンスへと開かれている。

次のMCでは、準備不足が露骨に現れた。シンセサイザーの音程が分からなくなって、そのまま不協和音で3曲目の「Butter」に突入してしまった。でも、それさえ伏線であったと思わせるほど、曲自体はとてもよかった。aioaの声が一番ノっている曲だと思う。サビで歌い上げるところはいつかもっと大きなステージでプレイしている姿を幻視しているかのような気持ちになった。鳥肌が立つ。毎度定番の曲である。

次のMCでは、フライヤーに触れたaioaの発言について、武井が「笑って笑って」と観客を煽る。場の空気をカバーしようとしたのかもしれないけれど、笑わせたいなら笑わせるのは出演者の役目であって、言われた観客は困ってしまうよというのが正直なところ。

4曲目、「こわい」は、Hibikingのドラムからスタート。ビートのしっかりしたグルーヴィーな曲だ……と思いきや、テンポを落としてキャッチーなサビに入っていくところは本当に涎が垂れるほどかっこいい。そして、再びテンポが速くなって2番へ。このテンポの速度の行き来は見事なサスペンスで、聴き惚れてしまう。個人的にはこの曲でのUjita “VANZ” Yuのギターがとても好みです。

そして最終曲、「水銀と蝋燭」。森の奥でどこかから聞こえてくる鳥獣の鳴き声のような、あるいは聞こえるはずのない水底深くで響いているかのようなイントロから、Ujita “VANZ” Yuのカントリー調のギターが入って曲が始まる。そして曲が終わったかと思ったところで第2ラウンド。今度は異なるギターフレーズだ。静かな曲だけれども、スネアの抜けもよくて、とても気持ちがいい。最後にぴったりの曲だと思う。

と、ここまで書いてきたけれども、ライブ全体として見てみたらとてもよかったと思う。MC云々の話をしたけれど、根本、ライブとは「存在感」であると思う。ここに生きる(live)ことの存在感、あるいは「強度」と言ってもいい。それがあればたぶん、多少下手でも、多少スベっても、「持つ」と思う。そしてそのためには演者が不安そうなところを見せてはいけない。その不安は観客にも伝播し、盛り上がりを損なってしまうから。あなたが、ここに、いる、という、そして、わたしが、ここに、いる、というそのシンプルな出来事。それを生々しく感じることができるのがいいライブなんじゃないかと思う。saqaafat-e saqaafatは十分に、十二分に、かっこいい音楽をやっているんだから、胸を張って、そこにいてほしい、と思う。多少のミスをしたとしても、帰るときまでドヤ顔でいてほしい、と思う。もしかしたらサカファテのことが好きなわたしのエゴかもしれない。


ライブの時間をどう使うか

さて、あとで述べると言っていた、ライブの時間をどう使うかということについて述べたい。ライブバンドにとってはライブがすべてであるという話にも、これは通ずる。

ライブのどこでどんな失敗をしたかというのは、案外観客にとってはどうでもいい、ということを書きたい。わたしたちは完成度の高い音源を聴きに来ているのではなくて、ライブを観にきているのだ。多少下手だろうが、失敗しようがそれは本質ではない。それに、各メンバーが完璧な演奏をできるのが数回に一回だとして、全員が完璧にプレイできる何百分の一、何千分の一を待つなんてことは現実的でもないし、求めるべきことでもない。もちろん、ライブ後にメンバー間でどこがダメだったかを振り返って反省するのは大いに結構。でも、ステージ上では、あるいはライブ後に解散するまではそんなこと気にしていちゃいけないよ。まずは目の前に他ならぬこのひとでしかない観客たちがいるんだから。

わたしたち観客は不器用でもいいから愛されたいのであって、一緒に愉しみたいのであって、上手なテクがないといけないとかそんなことはない。下手なりにでも愛してくれたらその愛は伝わるものだよ。だから、出演者がイケたか、オーガズムに達せたか、というのはどうだっていい。観客を愛してください。あなたたちにとっては何十回何百回と経験するライブのうちの一回かもしれないけれど、観客にとってはこの一回きりしかないんだから。

仕事終わりで疲れていたからとか、あまり練習できなかったからとか、そんな理由で一度きりの愛を逃してしまっていいものか。たった30分しかないんだ。それを一番いい時間にするには、と考えたときに、生半可なMCをしている場合ではないのは自明だ。喋るのが苦手ならほとんど喋らず曲だけを披露したっていい。足りないなら足りないなりに、ぶつかっていけ。ぶつかってこい。

saqaafat-e saqaafatはかっこよかったよ。本人たちが反省している以上にいいライブをしている。もちろん、ライブまでにみっちり準備をすることと、ライブが終わったらしっかり反省をすることは必要だけれども、ライブ自体はとてもよかった。たぶんみんな頭がいいんだ。よすぎるんだ。でも、もうちょっとバカでもいい。わたしはこれからのもっとバカみたく愛してくれるsaqaafat-e saqaafatを楽しみにしています。



ライブの情報

ライブの詳細

イベント名 Awesome
日時    2024年4月16日(火)
場所    京都GROWLY
開場/開演 18:00/18:30

出演者(出演順)

Monomi twins
地球から2ミリ浮いてる人たち
saqaafat-e saqaafat
メシアと人人
SetagayaGenico

セットリスト

  1. Low Apache

  2. 夜明け、もののけ、みかん通り

  3. Butter

  4. こわい

  5. 水銀と蝋燭


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