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みんな、このトリに夢中です

南京に来てからお世話になっている、中医薬大学のH教授の息子さん、テン君がランチに南京のおいしいものをご馳走してくれると言ってくれました。

ありがたいことです。

こちらに来て一番困っているのは、実は食事。
味覚が合わないとか、不衛生だとか、そんなことではなく、南京には基本的に一人客を前提とした飲食店が少ないのです。

上海や北京は事情が違うようですが、南京には個食文化が根付いていません。レストランや食堂で出てくる料理は、数人でシェアすることが前提の大皿料理ばかり。テイクアウトして2回に分けて食べようと思っても、宿舎には冷蔵庫がないので、保存も不可能です。
だからテン君が「トリを食べに行きましょう。南京で有名なトリ料理です」と言うので、とても期待しました。

ダックかチキンか、それとも想像もつかないような代物か。
で、ついた場所がケンタッキーフライドチキン。

「若者はみんなこの鳥に夢中ですよ」
そうでしょうとも…

ケンタッキーでの発見

ケンタッキーでは面白い発見がありました。
まずはフライドポテト。日本では皮付きの肉厚ポテトですが、こちらではマクドナルドのような細切りのシューストリングポテトです。

中国の人たちは、皮付きのようなナチュラルな状態、悪く言えば半端に見える状態はあまり好きではないようです。そういえば、中国料理って切り方も料理技法の一つとして、拘ったものが多いですよね。

傍にはケチャップの小袋がどっさり。
Mサイズには最低3袋のケチャップをつけて食べるのが一般的だそうです。足りなくなったら店員さんに言えばもらえるそうで、周りのお客さんもケチャップをたっぷりつけて食べています。

多彩な現地化メニュー

そして何より驚いたのは、日本と比べ物にならないほど、メニューが豊富なこと。
ソフトクリーム、フィッシュサンド、北京ダック風ラップサンド、ちまき、お粥に揚げパン、豆乳、卵スープ、茹でとうもろこし、廈門のエッグタルトなど、中国色の強いメニューが揃っています。

朝食メニューの揚げパンにお粥

私が注文した「老北京鶏肉巻」というラップサンドは甜麺醤ときゅうりと長ネギが入っていて、まるで北京ダック。八丁味噌みたいな甘辛味噌と、きゅうりに白髪ネギ、クリスピーチキンって…これを考えた人は天才でしょう。
テン君はお馴染み骨付きチキンを注文しました。

チキンとちまき

中国人は老若男女、骨付きもも肉や手羽先が大好きなのだそうです。また、ケンタッキーは現地化されたバラエティ豊かなメニュー展開が功を奏して、マクドナルドよりも人気があるそうです。

なんだか面白いですね。グローバル展開しているファストフードチェーンの地域戦略が、文化や習慣の比較材料になります。ノートに筆談も交え、テン君とお互いの文化の違いについて話し込みました。

テン君のこと

テン君は南京市内の大学の日本語学科に通う大学3年生。具体的な大学名は秘密だそう。ファストフードはよく食べますが、市内の飲食店についてはあまり知らないのだとか。家族やお父様の仕事仲間とはよくレストランに行くけれど、友達とは基本外食しないようです。

普段の遊びはネットか読書。漫画は好きですが、両親から読むなと言われており、家では読めない。お酒も飲まない。

口調から、お父親への尊敬の気持ちや、家族からの愛情や期待を一身に背負っている自覚、家庭の厳しい方針が感じられました。長男に期待を込めるのは、日本も似たようなところがありますが、一人っ子政策の中で生まれた息子ともなると、ご家族には計り知れない思いがあるのだと思います。

テン君はお父様であるH教授の書籍をいくつか持ってきていました。中には日本語の書籍もあり、私はここで、H教授が中国でも指折りの名医と呼ばれていることを知りました。

中国の親子観

食後、テン君は親切に南京大学のバスでの行き方を教えてくれました。乗り降りのバス停や路線をメモに書いて渡してくれた上に、「練習です」と言って、実際にバスに乗って降りる駅まで指示してくれました。帰りの路線もその繰り返し。

親切な誘導に感謝し、宿舎に戻ろうとしたら、今度は「テストですよ」と言って、再び行きのバス停に誘導しようとします。私が「冗談でしょう」と驚くと、テン君は顔色一つ変えず「違いますよ」と言いました。

「今回は僕はもう着きましたよ、とは合図しません。ちゃんとテストしないと迷うかもしれませんよ。」

直通バスでどう迷うというのか。
忙しいH教授の顔を潰さないように丁寧に案内してくれる気持ちに感謝し、「大丈夫、失敗も勉強だから」とお断りしました。本当に大切に育てられた息子さんなのだろうなと感じました。

凧揚げに倣った親子の関係

テン君との話の中で印象に残ったのは、「中国の親は、凧の糸を引っ張るように愛情をかけるのです」という言葉です。親が子供を見守りながらも、必要に応じて指導や援助を行い、子供が独立して自分の道を進むように育てる、というような意味合いです。

凧か…紐を握られているから、親の干渉を振り払うことはできないってことだろうか。

私自身も厳しい干渉のもとで育ち、しかしテン君と違って幼稚な反発心が抜けないため、ついそんなふうに考えてしまいました。

日本にも同じような考え方があるけれど、一般的な日本の親は二十歳を超えた子供に、そこまで多くは干渉しません。しないというか、し辛い、というか。社会的に推奨されていない空気感があります。他にも竜や鳳凰に倣った言葉など、中国の教育観について、なるほどな、と感じる言葉を教えてもらいました。

干渉といえば聞こえが悪いけど、何があっても守るのだという強い気持ちというか。中国の家族間の結びつきの強さを感じました。

放风筝(fàng fēngzheng)
「凧を飛ばす」という意味で、親が子供を見守りながら自由にさせるが、必要な時には手綱を引くこと。
望子成龙,望女成凤(wàng zǐ chéng lóng, wàng nǚ chéng fèng) 
「息子が龍になり、娘が鳳凰になることを望む」という意味で、親が子供の成功を強く望む、といいうこと。

 


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