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もう騙されない

「不要」(いりません)

「不要(プウャオ)」=いりません
「我不需要(ウォプシィヤオ)」=必要ありません

 

もう絶対に騙されるまい。
上海から南京への列車の中で、ずっと考えていました。
これからは何か余計な接触がある前に、すかさず言おう。そう心に決め、頭の中で呪文のように唱えました。
ちなみに「不用(プゥヨン)」という言い方もありますが、「いらんわ」みたいなちょっとぶっきらぼうなニュアンスになります。

20時ごろ、南京に到着

案の定、列車の出口には荷物運びのおじさんやお兄さんたちが降りる乗客に群がってきました。

「もう油断すまい」

初めて訪れた上海駅で痛い目に遭っていた私は、今度は誰にも荷物を触れさせないように、「プゥヤオ〜」と叫びながら一直線に駅の出口へ向かいました。
南京駅の出口には迎えが来ているはずでした。

知人に紹介された大学教授のHさん

教授に直接会ったことはありませんが、一人で中国へ向かうことを心配した知人が、南京中医薬大学の教授のHさんに連絡をしてくれて、迎えに来てくれることになっていました。
私は携帯を持っていないので、Hさんは出口で私の名前を書いたカードを掲げて待っていてもらうことになっていましたが、そんなものは必要なかったようです。
20代の学生風の乗客は私だけ。こちらが探すより先にHさんが声をかけてくれました。Hさんは流暢な日本語を話す知的な雰囲気の男性で、ゆったり微笑む姿にほっと安心しました。

続いて、彼の息子さんが駅から私を追いかけるように出てきました。息子さんは、駅員さんに頼み込んで駅のホームに入り込み、迎えに来てくれていたらしいのですが、私は彼を無視して冷淡にも「不要」と素通りしてしまっていたようです。

息子さんもお父様にならって日本語を学び始めた、私と同じ21歳の大学生。ちょうどこれから言語学習のパートナーを探していたところだったらしく、この出会いを大変喜んでくれました。

一転する雰囲気

しかし、なごやかに話していたのもつかの間、H教授が急に表情を豹変させ、離れて立っていた男性に鋭い眼光で何事かを叫びました。弾かれたように飛んできてた男性は教授の運転手で、手際よく私の荷物を黒塗りの高級車に積み込みました。
どうやら教授はとても地位のある方のようでした。

教授の発する穏やかなトーンの日本語とは違い、厳しく感じる強い発声の中国語と、ドラマでしか見たことのないような上下関係を見せつけられるやり取りにそわそわしながら車に乗り込みました。

 夜の南京の風景


車内から見た夜の南京は、ネオンがきらめき、私が住んでいた京都市内よりもずいぶん都会な雰囲気でした。車がビュンビュン行き交い、自転車軍団なんてどこにも見当たらず、とても近代的でした。

南京大学に到着したのが21時。学生寮を借りる手続きをし、みんなで近くのレストランで夕食を食べると、あっという間に24時を過ぎていました。時差はたった1時間とはいえ、全く別の世界に来た感じがします。

その日はいつ寝たかも忘れるほど、あっという間に眠ってしまいました。


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