2年後の今、バーチャル受肉黎明期に関して改めて書いてみる
2年前にこんな記事を書いた。
この時、VRChatでの使用を想定していなく、規約的にVRChatでは使えないはずのMMDモデルが海外で横行していたり、VRChatでの使用を許可されていた、または禁止されていなかったが、金絡みで問題が噴出した時期の頃である。
そして、同時にオリジナルのアバターモデルが台頭して、広まっていく黎明期でもある。
この頃から随分と情勢は代わり、バーチャルで受肉するにあたり、どの身体に魂を宿すか…不自由はほぼ無いと言っていいほどに身体が充実した。それどころか身体を着飾るには十分過ぎるほどにアクセサリや、衣服も市場に揃ってしまった。いい時代になったもんだ。
今ならもう少しマシな文は書けると思う今だからこそ、改めて「バーチャル受肉」にスポットを当て、黎明期に何があったのか詳しく掘り下げたいと思う。
いつもの注意
あくまで一人の視点から見た物事である。もし私が記憶違いしてたり、補足があるならコメントしてもらえると幸い。別の視点で書いてくれてもいいのよ?
1:そもそもVRChatが認知され始めたきっかけ
日本にVRChatというものが広まり始めたのは17年の11月頃。
当時Vtuber四天王の一角、バーチャル狐娘Youtuberおじさんとして知られていたねこますさんと、同じくVtuber四天王のミライアカリちゃんがVRChatを題材に動画を公開したのが始まりだと思っている。実際私はアカリちゃんの動画をみてVRChatを知り、17/12/25に初ログインを果たした。
ねこますさん動画:【VRChat】VRの力で狐娘になった(おっさん)https://www.nicovideo.jp/watch/sm32206697
アカリちゃん動画:【速報】次元の壁を越えた!in VRChat
https://youtu.be/KTr6EC8QVbI
更に広く広まり始めたのは18年の2-3月のこと。この頃17年末頃から始まったバーチャルユーチューバー(以降Vtuber)ブームの先駆けでもあり、企業からだけでなく、個人勢が次々Vtuberとしてデビューしていった。この個人勢Vtuberの中にはVRChatで活動する人もおり、VRChatに行けば推しに会えるのか!ということもありVRChatに行きたい、という人も増えた。
だが、いざVRChatにログインした時、1つの問題が生じた。
2:バーチャルで纏う身体が無い
当然だが3DCGのキャラクターモデルなんて、一般に出回っているわけがない。作るにも特殊技能が要求される。
VRChatではデフォルトで幾つかのアバターが使用できたが、Unityアセットストアのモデルだったり、海外勢の作るモデル。…アニメ調だったり、いわゆる2次元テイストのモデルはユニティちゃんを除き、一覧にはなかった。こと受肉例の中でも当時よく言われていたバーチャル美少女受肉…バ美肉を目指したい人には死活問題となった。
当時から、海外勢はMMDモデルをVRChat用にコンバートしている例が多かったが、元が版権、二次創作でどこまで使っていいのか…と、権利関係があやふやだったり、モデル制作者がVRChatで使ってほしくないとする例、そもそもVRChatを認知していなく、駄目とも言っていないが良いとも言っていない例も多く、褒められた選択肢とは言えなかった。
日本界隈では初期の初期あたりから、有志によりVRChatでの使用許可の確認が取れたMMDモデルのリストなどが作られていき、VRChatでの使用を禁止されていたMMDモデルを使っていることは海外勢と比べると少なかった。
(もっとも、リストも決まった人のみが管理できる形式になるまで、wikiであることを悪用して許可を得ずに書き、さも許可取得済みに見せるなど、問題はあったが…)
しかしながら使用禁止のアバターがワールドに使える状態で置かれているのを禁止と知らずに使ってしまったり(そもそも使っていけないならアップロードされていないはず)、商用利用禁止のモノで収益化をしてしまうなど、問題は多かった。
その際たる例を3つ。
1つ目はCGWORLD 18年6月号のVRChat特集。写真の中にそもそもVRChatでの使用が禁止されていたり、使えても商用利用禁止のモデルが写っており、最終的に回収騒ぎになるという結末に。
2つ目は事案自体は既に解決されているため、名前は伏せるが、Vtuberの数人がMMDモデルのパーツを流用したモデルで収益化配信を行ったこと。当該パーツの流用は規約違反ではなかった(はず、さすがに記憶が怪しい)なのだが、意識が抜けて収益化にしたのがマズかった。
補足しておくと、今よく行われている他モデル同士のアバターを合わせる、いわゆるキメラ改変はMMDでも行われていることだが、流用したパーツの規約も守る必要があるのも同様。
そしてMMDモデルのほとんどは営利利用を禁じていたが、個人レベルでは営利利用のシチュエーションとはまず縁がなかった。
が、vtuberブームと同時に個人が収益化動画/配信を上げる…つまり営利利用が身近なことになり、普段スルーでokだった営利利用が意識すべき注意事項に。それが抜けて金絡みの事件が起きてしまった。という推測。
3つ目はこれも解決済み故名前は伏せるが、とあるモデルに使用した、フリー素材とされていた髪型モデルが他ゲームからのリッピング(ぶっこ抜き)モデルだったこと。タダより高いものはない…とはよく言ったものだが、素材の透明性と言うか、信頼性とはなんだろうな…と思わされる一件だった。
あくまで個人的な考えだが、この3件を主とするいくつかの事件が遵法意識、堂々と使えるモデルを積極的に求める流れの始まりと考えている。
3:規約違反状態への対処
権利関係はなんとかしたい。遊ぶなら後ろめたいものはなくして堂々と遊びたい。幾つかの事案を経て、大まかに2つの方向で動く、もしくは両方で動く人が現れた。1つは違反アバターの削除。
VRChatに限らず、著作権侵害は親告罪に当たる。つまり著作者(制作者)本人が動いて初めて違法、違反となる。違反状態でも著作者が異を唱えないか、見て見ぬ振り(黙認)をしている限りははっきり黒にはならず、同人文化もこのグレーゾーンで生きている事が多い。
だがVRChatでの使用を禁止としていても、違反状態を咎めに行ける程、制作者はVRChatの中を詳しくは知らないし、入り方もわからない。そこでVRChatに住まう一部の人が協力して中から外へ情報提供、その情報を基に制作者がDMCAテイクダウンを実行する共闘体制ができたりした。
DMCAテイクダウンは違反者に個人情報を渡すという点でも躊躇は生まれたが、後に続きのお達しもあった模様。
権利者削除のより詳しい話については、詳しくレポートしているnoteがあるのでリンクを付しておく。
3:大丈夫なものを自分たちが用意すればいい
もう1つはVRChatで使うことを前提にモデルを用意すること。3Dモデリングなんてそんな普通にできるわけが…となったが、それでも行動力の化身と呼ばれた人が数人、現れた。
初期の初期は
・ねこますさん制作の「みここ」「ねこま」
・ユニティちゃんを始めとするUnityアセットストアのモデル
などのように、VRCで使える配布モデルを使用、または
・ドット打ち感覚で3Dモデルが作れるMagicaVoxel(ボクセル)を使う
・覚悟を決めてのBlender
の自作と、大まかに二分された。
(残念ながら自分はボクセルは一切触ったことがないのでこのあたりの広がり方はあまり分からない 今後追記、もしくは執筆者が居たらリンクを繋げたい。)
まずは自作サイド。界隈で何人もの人がBlenderを使ってやるというきっかけになったのは間違いなくこの動画だと思っている。
zenさんが公開したBlenderモデリングの解説。本当に基礎の基礎…何が必要か、これから何が始まるのか、これからやっていく事の青写真も含めて解説してくれた動画である。タイミングもあって一気に広まった。
初版の動画は諸事情のためか、頭部の作成で途絶えてしまうが、この後も多数の人が身体を「自主制作」して、持ち込んでいた光景は懐かしい。
この動画を見て一念発起、最初に作った身体である。まあ今となっては笑い飛ばしたいクオリティではあるが、全ての始まりだった。
この動画をきっかけに3Dモデリングをしてやろうとする強者が集い、さまざまな己が性癖を詰め込んだ身体が増えていった。特殊技能とは何だったんですかね。
2年半を経た今。アレが今では超クオリティの販売アバターと肩を並べられる自作アバターに…よく考えると頭おかしい。
そして、戦いを続ける自作勢を支えたものもあった。その中の1つがマッスンさんが今も続けているアバター自作交流会。プロ・アマ問わず自作勢、自作したい勢を対象に月1回開いており、沢山の自作アバターが集まり、褒め合ったり、知見を共有したり。当時は特に支えになっていた。
恐ろしいことに、今も7-8インスタンス立っては全インスタンスが盛況。月1回開催というのもバランスが良く、次までに進捗を持っていく!という緩い締切というか、区切りになっている感覚は強い。
今も続くア自会。2年以上も続くって恐ろしくすごいことである。
もう1つ、私がお世話になった人のイベントも。都森まひろさんの自作アバター褒め会。これも黎明期に開かれた自作勢の心の支え。ここにもプロ・アマ問わず自作勢が集まり、互いに渾身の作を見せ合っていた。
こうして皆ではちゃめちゃに盛り上がったのは懐かしい。
…あと、かつて同時期に私も僭越ながら作りかけモデリングをVRで見て、色々共有しようぜと、WIPモデリング交流会ってのを開いてました。
スキニング前、テクスチャ前、まだ体の一部…上等だ、とりあえず持っていこうぜとしたら、密かに暖めていた人が続々と出てきたのは昨日のように思い出せる。
4:アバターモデル「販売」という概念の誕生
次は配布モデルの話。配布アバターを使う勢にとっては、上記で述べていたみここ、ねこま、ユニティちゃん、そして営利利用の件で事件こそ起きたが、使い方に気をつければ大丈夫と言う事で、VRChatでの使用を明示的に許可してくれた櫻歌ミコを始めとするMMDベースのモデルも引き続き使われ、最初期のアバターモデル文化を支えてくれた。
みここ
https://hub.vroid.com/characters/6948693071371126302/models/557734212481311412
ねこま
https://hub.vroid.com/characters/937470949042463006/models/3009037900138814167
櫻歌ミコ(衣服は当時のものではない)
https://booth.pm/ja/items/1755393
しかし、MMDモデルは営利利用不可な事が多く、櫻歌ミコも営利利用には使えなかった。
当時多かったVRC内での凸配信企画や収録も収益化を伴うものが多く、参加が不可能だったり、そもそも変換の手間―特にポリゴン数。当時のVRChatは2万ポリゴンを超えるモデルを持ち込めなかったので変換時にポリゴン削減が必須―があったり、正直な話かなり不便だった。
制約の少ない配布アバターが少なかった一例として…一度VRoad Casterの収録にエキストラ参加したことがある。この時「営利利用に関して問題ないアバターでお願いします。」となり、アバターを変更した結果、自作勢を除き、ほぼ全員みここ、もしくはねこまだった。
収録時前の準備の図。自作を除くと配布アバターはねこましかいない。だが改めて見返すと意外と自作モデルも多い。
それでも、みここにねこまも居なかったら路頭に迷う人は多かっただろう。ねこますさんありがとう。と言いつつ、やはり理想を得るには自作しか無いのか…と思った矢先に状況は一変した。1080円の女…もとい、アークトラスちゃんの誕生である。https://twitter.com/einz_zwei/status/1005936147426525185?s=20
1080円の女、1080円ちゃん…ひどい言われようだが、由来は価格設定。間違いなく手に取りやすく、かつVRChatの使用を前提として作られたアバターの登場に当時みんなびっくりした。
続々と現れるアークトラスちゃん、そして改変アークトラスちゃん。ここでの重要な事実はお金払って手に入れられるなら払う人がたくさん潜んでいたってことだ。
取引である以上販売側、購入側双方の勢いが必要だったが、この流れの加速にはpixiv BOOTHという非常に扱いやすい、3Dモデル素材のダウンロード販売にも対応したECサービスの存在もある。アークトラスちゃんはメロンブックスDLでの販売だったが、後続の販売勢は手軽さと、手数料の低さが大きく、概ねBOOTHを使用することに。そして購入者にとってもカード、PayPal、そして銀行振込が使えると、主に支払い方法で利便性が高かった。
5:ここまでのまとめ
VR世界を不自由なく過ごすために
・自分が規約のルールブックだ、な自作モデル
・VRChatへの使用を明示的に許可してくれたMMDを含む配布モデルの使用
・アセットストアのモデル
以上に加えて
・最初からVRChatでの使用を想定したモデル、が加わった。
…遵法意識というと大げさ過ぎるが、わざわざ危ない橋を渡なくてもいいほどにはVRChatで使いやすい配布アバターの選択肢が増えた結果、堂々と使えるアバターモデルを選ぶ意識は4-5月の一件から、6月の時点では、既に大勢の人の間で共有されていたと思う。
(あくまで自分の観測範囲だが、実際使ってはいけないアバターはほとんど見られず、居たら「注意する?」って程度には意識は高かった)
6:配布モデルが集まる場の始まり
アークトラスちゃんを皮切りに、後に続けと自作勢や、元々モデリングをやっていた人達がアバターモデルを制作、販売する流れができあがった。そしてアークトラスちゃん販売から1ヶ月後、こういったモデルをVR空間で一箇所に集めて、展示してみる?となって始動したのがご存知バーチャルマーケット (vket) である。
第一回は80ブース。会場数も1と今と比べるとこじんまりしていたが、それでも最初の最初は50ブース予定があっけなく埋まり、80に増やす…と言ったことがあった程度に、当時としてはこんなに作れる人が潜んでいたのか、と話題になり、同時にこれをキッカケにモデルを販売した人も多かった。実際、自分も小物を販売しようと考えたのはvketがキッカケである。
…今思えば、7月に初報、その翌月に開くって…頭がおかしいにも程がある。
モデルを作って売る。買って使う。界隈のあちこちでふつふつと湧き出たものが流れとして加速した日である。
バーチャル展示会そのものも派生が生まれ、VEXPO、VIRTUAL STEEL MUSEUM、バーチャルフロンティア、などなど、様々に発展していったその始まりの日でもある。
7:流れは続く
この後もこの加速していった流れは様々な方向に伝播していった。
Himiko Avatar World
vket以降、増えたVRChat向けアバターモデルを活用し、有志が提供したpublicアバターを一箇所に集めたワールド。この場に介する全てアバターが、制作者本人による提供なので権利的な不安なしに使える。使う身体に迷うという話が挙がれば真っ先にここを出すぐらいには安心の場所。いつもお世話になっています。
平均価格の引き上げ
さすがに1080円は安すぎる…探り探り2000円だったり、3000円のアバターが発売されつつも、相場って幾らぐらいなんだろう?となった時にむたさんがキッシュちゃんを発売した。価格は5000円。当時からすると飛び抜けて高かったが、正統派kawaiiアバターであることと、何より出来の良さが手伝って爆発的に広まった。この値段でもいけるのか…ってなった。
改変知見の共有と方法の多様化
販売モデルで自分らしさを出すには?改変だ。色変え、服変え、複数アバターモデルの組み合わせ…色々なオリジナリティを出す手段が出ては、その方法が共有されていった。Unityとの和解方法、Unityを使いやすくするエディタ拡張、自動化ツール、そして衣服の販売。アバターモデルが増えたら、その周りも充実した。こうして物、知識共に量が集まり、受肉する身体に関しての悩みはほとんど無くなった…と言っていいと思う。
まとめ
尺の都合上、個人名は特にキーマンだったり、自分の中で印象が強いと思われるものに留まったが、これらを踏まえて言えるのは「個人単位の、草の根レベルの行動の蓄積、連鎖が強大な化学反応を起こした」だと思う。ここまで語ったこと全てがある人がこれやるか、じゃあ私それに乗っかってこれやります、それじゃ自分は更にこう乗っかります…である。
1つ、1人でも欠けたら流れは途絶えていただろう、故に行動した全ての個人、団体、団体に参加した各々1人ずつ、等しく評価されるべき…されてほしい。
「今日は少しでも良くしようと動いた沢山の人の涙と汗で出来上がった。」この言葉を以て本記事の締めとしたい。
メモ:書きながら思ったこと
・今回はキリが無くなるのでダイジェストにしてしまったがvket1後の話、もっと掘り下げたい…
・改変アバターを使う側の立場は知らないので、この時期の改変勢のお話、とても興味ある。
・本当に、歴史記事皆書いて欲しい…
後日談
自分で書いたこの歴史を見て思った所感を残した。歴史を見た感想って感じ。
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