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小説 セレンディピティ【★SERENDIPITY★】
セレンディピティとは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。 ウィキペディア
vol.1 過去との遭遇。
「そうね。あれは夢の様な体験だった。」
自分の経営する美容室のバックヤードの隅にしまってあった、分厚いアルバムを手に取っていると、走馬灯の様に蘇る沢山の場面を思い出していた。
それは若き日の私がいた世界をとじたアルバム。
「うーん。。。」と言う低い声と共に、
ため息を吐きながら、
若き頃の未熟な自分を愛おしくも想い、
微笑みを少し浮かべている。
腕にはずっしりとホコリが被った古びた本の重みを感じながら、1枚目の写真を目にしてすぐ、私はバックヤードの汚れた壁に目を逸らしたまま、暫く動くことができなかった。
「カラン、カラン」
喫茶店風のドアベルの音がして、お店のドアが開いた。
ハッとした瞬間、アルバムを棚に投げ捨て、
バックヤードの入り口から顔を出して、職業柄なのか直ぐに声と笑顔が出た。
「こんにちは!いらっしゃい。ひさしぶりだね。」
次のお客さんが来る時間だった。
これぐらいは大丈夫だ。いつもの事だ。
大丈夫。自分に言い聞かせながら、自分のメンタルを気にかけた。
懐かしい気持ちに溺れていた時間はどれくらいだっただろうか。
時間にしたら5分もなかった気がした。
実感としては、溢れ出す思い出と込み上げて来る想いに連れ去られてしまいそうで、
心がざわついていた。
まだ仕事中と言うこともあって、
必死に理性という名の頼みの綱にしがみついていたおかげで、どうにか平静を保って接客に戻ることができた。
続く。
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