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大窪という人物

万太郎が帝国大学の植物学研究室に現れ田邊教授に気に入られた時から、徳永助教授と一緒に露骨に不快感を表してきた大窪。
名家の出でそこそこの学歴なれどなかなか職に恵まれず、父と勝海舟の顔に泥を塗るまいと興味のない植物学の世界に身を置きそれなりに努力してきた彼にとって、学歴もなくニコニコしてただ植物が好きというだけの地方出の若い万太郎に反感を持つのも無理はない。
だがだんだんと気持ちも変わっていき、万太郎の家で自分のことを曝け出したり、共に研究し「ヤマトグサ」を発表するほど、万太郎の存在は大窪の中で大きくなった。

その後、田邊教授のおかげでかなり恵まれていたことを、万太郎以外はわかっているのに肝心の本人がわかっていなかった件で、万太郎は大学への出入りを禁止されてしまう。
再び助手として呼ばれるまでの7年間に、研究室も田邊教授が去り、徳永助教授がドイツから戻って教授となり、顕微鏡による研究が主になっていく。
先見の目があった波多野が野宮と共にその顕微鏡を使っている横で、大窪は追い越されたように感じ、再び身の置き場がなくなっていたのではないだろうか。
実際、生徒だった細田が留学先から助教授となって戻ってくることにより、大窪は非職させられる。
万太郎が出入り禁止になっていなければ、大窪もまた去らずに済んだかもしれない。

万太郎と研究をしたり、穏やかになった田邊教授や生徒たちと採集旅行に行っていた、彼にとってはいい時期が過ぎた後の不遇な毎日は、戻ってきた万太郎に語りかける言葉のひとつひとつに表れている。
「なんか期待でもしてたのかぁ?」
「お前、なんで戻ってきたんだよ」
「お前見てるとこっちまで悲しくなってくらぁ」
「古いんだよ、お前はっ」
学生出身でもなく留学もせず教授職でもない立場としては、万太郎も大窪も同じであり、そういう意味では、彼は本人以上に万太郎を理解していた。
だからこその、自分のようにならないようにとの忠告を、相変わらず万太郎は聞かない。

すっかり変わってしまった研究室で、少額の給金ながら大好きな植物採集ができると喜んで戻ってきた万太郎の頭を、恐らくはアドリブで叩いてから、大窪は「ばーか」と言って去っていった。
彼に次こそ満足のいく職が見つかりますようにと、願わずにはいられない。

きつい物言いや態度をしても、その奥の万太郎への気持ちが透けて見える大窪という複雑な人間像を、今野浩喜さんが好演されていた。
どの役もキャスティングが妙だが、大窪氏は特筆すべき人物でした。
今野浩喜さん、ありがとうございました。お疲れさまでした。

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