見出し画像

行政書士と他士業専門職との違い

 ご依頼以外の場で自己紹介をすると、半分以上の頻度で「行政書士って弁護士や税理士とはどう違うんですか?」と尋ねられます。

 無理もないです。実際に弁護士や税理士や行政書士になろうと思った人でなければ明確に違いを説明することは難しく、更にこれらの職業では仕事の内容で裁判沙汰にもなったことがあるほどなのです。

①弁護士と行政書士のおおまかな違い

 争いになるほどデリケートな問題なので、他の弁護士先生や行政書士の先輩であれば更に正確な説明ができるかも知れませんが、私なりに「端的に」説明するとすれば「弁護士はトラブルになったの専門家、行政書士はトラブルになるの専門家」ということになるでしょうか。

 具体的にはどういうことかといいますと、「法律事件」になってしまえば(原則的には)弁護士しかお金をいただいて助けてはいけないのです。

※簡易裁判所で争いの金額が一定以下であれば、司法書士でも助けたりできます)

「法律事件」とは、これもまた学者により定義が分かれるほどデリケートな範囲を示す言葉なのですが、主流となっている考え方では「事件性:法的な紛争・争い」がある場合のことを指すといわれているようです。

 法的な争い=裁判、と考えれば一般的な弁護士のイメージが分かりやすいですね。

 そして法廷で弁護する以外にも、それに関係した「争い関連の書類を作ること」や「法廷以外で争っている相手と代理として話し合う」なども弁護士の専門領域とされています。

(ただ、前述の通り簡易裁判所で争いの金額が一定以下であれば司法書士でも○とか、行政への異議申し立てなら行政書士でも○とか、労働に関する一定の範囲の紛争なら社会保険労務士でも○とか、一部に例外はあります)

 一方、行政書士は「トラブル以前の権利関係や事実関係を証明する書類(契約書や遺産分割協議書、株式会社の定款などなど)を作ったり、役所(裁判所・検察庁・法務局・厚労省・税務署以外の官公署)向けに許認可申請書を作ったり、折衝して出したりすること」が主な仕事です。

 勿論弁護士も行政書士も後述する他の士業も、法律で規定されている以外のコンサルティング的な仕事は、営業の自由で好きにできますので、営業の上手な士業先生はこの方面でも頑張っているかも知れませんね。

 つまり行政書士はトラブル以前(官公署に対する異議申し立てなどはやれたりしますが)の専門家なわけですから、契約書や遺産分割協議書などを作った後で依頼者に「揉め事が発生した」場合は、弁護士先生に協力を仰がなければいけないわけです。

 少々頼りなく感じられるかも知れませんが、しっかりしている行政書士であれば協力体制にある弁護士先生がいらっしゃるはずですから、そのあたりもひっくるめて相談していただければと思います。

 良い業務例で挙げますと、依頼人からの要望を受け、契約書や遺産分割協議書・会社の定款などを、行政書士が「できる限り争いになりにくいよう・争いになっても勝ちやすく」作成するわけです。(専門用語で予防法務と言ったりします) 

 ただ、ここまでやっても物事には相手方がいらっしゃることです。相手の考えによっては争いになることもあるでしょう。ここまで来たら提携弁護士さんへバトンタッチです。

 行政書士が質の高い書類を作成していれば争いも勝つ可能性が高くなり、依頼人は勿論、提携している弁護士さんの信用度も上がるでしょう。そういう世界です。

 余談ですが、弁護士(税理士・弁理士・公認会計士も)は行政書士会に年会費を払って行政書士として登録できます。

 なので、そうすれば行政書士の専門の「トラブル以前の権利関係や事実関係を証明する書類(契約書や遺産分割協議書、株式会社の定款などなど)を作ったり、役所(裁判所・検察庁・法務局以外の官公署)向けに許認可申請書を作ったり、折衝して出したりすること」も弁護士先生はできるわけです。

 そういった業務まで行う弁護士先生がどれだけいらっしゃるかは分かりかねますが、流石は最難関資格に許された「ワイルドカード的」能力とも言えるでしょう。

②司法書士と行政書士のおおまかな違い

 次に、司法書士と行政書士の違いです。弁護士ほど知名度はなくても、司法書士も耳にされたことがある方は多いと思います。しかし司法書士も、士業に興味がある人でなければ、正確な仕事の範疇はよく分からないという方が多いのではないでしょうか。
 
 これまた乱暴な説明になりますが、司法書士は法務局(特に会社や不動産の登記申請)・裁判所・検察庁への提出書類が専門分野となります。これに対して行政書士はそれ以外の官公署(対比するなら警察署や保健所などなど)への提出書類が専門分野です。

(ただし後述しますが、労働関係の申請は社会保険労務士・税務署関連の申請は税理士の分野であることが多いです)

 司法書士は「登記の専門家」です。企業を設立する際の商業登記や、土地や家を売買したときの不動産登記は、両方とも法務局に提出するものであり、これは(弁護士か)司法書士でなければ行ってはいけません。

 これに対比する言葉で書けば、行政書士は「許認可申請権利・事実証明書類の専門家」ということになるでしょう。

 ちなみに司法書士は弁護士と異なり、その資格だけでは行政書士登録できません。(勿論その逆も×です) ただ司法書士試験のほうが行政書士試験より(一般的には)難しいと言われているので、地頭の良さで行政書士資格も取り、両方の看板を掲げている先生も一定数いらっしゃいます。

 逆に行政書士登録を行わずに(登記に関係ない)契約書や(不動産の含まれない)遺産分割協議書の作成、飲食店やリサイクルショップなどの許認可申請を司法書士は有償では行えないわけです。

(許認可がおりた後の会社としての商業登記なら、勿論司法書士の分野です)

 また、これまた紛らわしいのですが、司法書士でも行政書士でも受けられる仕事があります。(専門用語で共管業務と言ったりします)

 商業登記にあたっては、株式会社の場合事前に「定款」を作って公証役場で認証してもらい、その定款を添付して法務局に商業登記の申請を行うのですが、この「定款の」作成・認証作業はどちらでも有償で受けられます。

 司法書士は「登記に伴う書類だから」認められており、行政書士は「公証役場は法務局とは独立した組織として法律で規定されているから」認められているというわけです。

 総じて言えば、司法書士と行政書士は(試験に大きな難易度の差があるのは事実として)、お互い協力し合う士業と言えるでしょう。例えば農地の売買になると先に「行政書士が農地転用許可申請」を行い、しかる後に「司法書士が不動産登記」という流れになります。

 依頼者の方からは面倒に思われるかも知れませんが、活動している士業さんは、弁護士さんの話同様、大抵提携している別の士業さんがいらっしゃるはずなので、ワンストップサービスで解決できる話だと思います。

(個人的にはそうあるべきと思っています)

③社会保険労務士と行政書士のおおまかな違い

 社会保険労務士(以後社労士と書きます)と行政書士の違いです。社労士は昔に行政書士から枝分かれし、複雑化した労働者環境制度に特化した士業という側面があります。

 つまり社労士は「厚生労働省(以後厚労省と書きます)への申請の専門家」です。

(厚生関係でも保健所などへは市町村管轄なので行政書士が担当です)

 例えば、常時雇用の社員が10名以上いる会社の就業規則作成は厚労省に提出する義務があるので社労士の仕事です。(10名未満の場合は……士業界で論議になっています)

 労働福祉関係が行政書士からピックされていますので、多くの業界の許認可申請は行政書士の仕事ですが、派遣業・職業紹介業・介護業などの許認可申請は社労士の仕事です。

 同様に「経産省や中小企業庁」への助成金申請は行政書士の仕事ですが、「厚労省」への助成金申請は社労士の仕事です。

 労働と福祉関連なら社労士(か弁護士)かな、とまずイメージすれば概ねズレはないでしょう。

④税理士と行政書士のおおまかな違い

 税理士は弁護士と並んでよく耳にする士業だと思います。ビジネスをなさっている方の多くがお付き合いのある士業ですから、なじみ深いかも知れません。

 税理士は漢字通り「税金関係の専門家」です。税務申告に携わることは税理士(や税理士登録している弁護士)の専門です。

 税理士と行政書士が、仕事の領域で被りがちなところがあります。それは税務申告より前の「日々の会計帳簿記帳」作業です。これは税理士も行政書士も(無資格者でも!)受けることができます。

 税理士は「税務申告に関わる書類だから」作ることができ、行政書士は「事実関係を示す書類だから」作ることができる、という理屈です。常勤の経理部員を雇うのはもったいないので、外注で経理業務を委託するというイメージですね。個人事業の方では良く聞きます。

 少し話がそれるようですが、気になる方もいらっしゃるかも知れませんので脱線させてください。

 前述の通り、この記帳代行業務自体は資格は必要ないのです。(昭和55年4月1日参議院大蔵委員会にて「財務諸表・帳簿記帳代行は自由業務」との発言がある)

 実際、士業でなくても記帳代行専門の会社は複数存在します。詳細は別記事で「会計記帳」について書きたいと思いますが、端的に言って税理士や行政書士に記帳代行を委託するメリットとしては「守秘義務が法律によって定められている」ことが、個人的には大きいと思います。

※無資格の方に記帳委託する場合は、業務委託契約書に「秘密保持に関する条項と、万が一の際の賠償内容」の記載があるかは重要なポイントです。

 税理士は税理士法、行政書士は行政書士法で「守秘義務と違反の際の罰則」が定められているので、業務委託契約書に秘密保持の条項が無かろうと、まともな士業者なら自ずから守秘義務は守るはずです。

 ただそれは国から違反士業者への罰則であって、依頼者への損害賠償は定められていないので、やはり全ての業務委託契約書には損害賠償条項は必ず入れておくのが安全と思います。

 まぁ主観論ですが、無資格業者の従業員さんが退職時に秘密情報を持ち逃げするというリスクまで考えると、税理士・行政書士といった法で守秘義務を負った人間に委託するほうで心理的に少しでも信頼してもらえれば幸いなのですが……

 日々の会計記帳作業に関しては、税理士さんは駆け出しの先生で受けるところと、「そんな細かい作業を受ける暇なんて無い。指導ならするけれど日々の仕訳くらいクライアント自らやって欲しい」という大手のところに分かれるようです。

 行政書士に関しても似通った傾向はあるかも知れませんが、行政書士は大手が比較的少なめですし、大手の行政書士法人は得意にしている許認可申請を専門に絞っている可能性もあります。個人で開業している行政書士ならば(簿記の知識があるならば)、外注経理部員として安上がりに日々の仕訳作業を受けてくれる可能性があります。

 会計記帳で重要なことは、記帳を行政書士・税務申告を税理士と外注先を分ける場合、その二者の連携が取れているかということだと思います。

 これは依頼される方が「直接」大きな不利益を被るというよりは、行政書士の記帳の方法と税理士の税務認識がズレていれば二者間のやり取りがかさみ、税務申告に時間がかかる恐れがあるという間接的な理由によるものです。

 昵懇にされている税理士さんが日々の細かな仕訳まで受けてもらえないところであっても、その税理士さんが「あそこの先生なら私も安心して記帳を任せられます」と仰る外注士業を選びたいものです。

 他、税理士と行政書士の比較で一般の方に関係あるとすれば相続の領域で、「遺言書の作成指導や死後事務委任契約、遺産分割協議書」は行政書士の分野、「相続税」は税理士の分野というイメージです。

 あとは許認可申請の領域で、消費税免税店(タックスフリーショップ)の許可申請は税理士の仕事、保税免税店(デューティフリーショップ)許可・酒類免許の申請は行政書士の仕事となります。この辺りは限られた方が対象だと思いますので、もしご質問があれば個別にメールなりいただければと思います。

 ちなみに税理士も弁護士同様、行政書士会に会費を払って登録すれば無試験で行政書士に登録することができます。業務知識があって行政書士にも登録している税理士さんでしたら、今まで書いたような業務の区別は関係なく全て一手で引き受けることが可能です。

⑤最後に

 色々と比較のイメージを書いてきましたが、比較しないで言うならば、自営業でない方には「行政書士は前もってトラブルを避けるための予防屋さんだよ」と私なら答えることになるでしょう。

 それに加えて自営業の方には「資格で縛られている一部の分野を除いて、色々な社内外の事務作業を外注できる先でもあります」というのが一番近いかも知れません。(ベストはそこにコンサルティングがつくことです)

 総合的に眺めていただいて、不明瞭な士業の役割がぼんやりとでも見えたなら幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?