夜空_画像13

Aロマ資料集:Aro/Ace(1)

 こんばんは。夜のそらです。
 今日から、「Aro/Ace」と題して、Aロマンティック(Aromanticism)とAセクシュアル(Asexuality)の関係について、連載したいと思います。AroはAロマンティック、AceはAセクシュアルのことですが、タイトルの「/」(スラッシュ)がどのような分割線となっているのか、ゆっくりお伝えできればと思います。

 「Aロマ/Aセク」。連載の第一回は、Aロマンティックについての海外の情報の紹介です。
 日本語でAセクについての情報を探すのは、大変ですよね。それにも増して、Aロマについての情報を探すのは骨が折れます。だいたい、1行くらいの説明で終わり、みたいな。

 確かに、Aロマンティックの説明は1行で終わります。「Aロマンティックとは、誰にも恋愛的な魅力を感じないという恋愛的指向のことである。」

 でも、これじゃあ何のことだか分かりませんよね。
 恋愛的な魅力って? 
 恋愛的な指向って? 
 恋愛しないってどういうこと?

 そこで、「Aセク情報室」を名乗るわたしのブログで恐縮ではありますが、Aロマンティックについて知るために有益だと考えた資料を、以下にご紹介したいと思います。いずれも、現在の英語圏のAロマコミュニティで受け入れられている内容の説明・解説となっています。

 Aセクシュアルについて考えることは、Aceコミュニティの歴史と現在について考えることです。そして、その歴史と現在を考えるためには、Aロマンティックには触れざるを得ません。ですから、以下の資料はAセクの人にもぜひ読んでいただきたいところです。

 これから4つの資料を紹介します。英語からの翻訳という形態ですが、それぞれ冒頭にわたし(夜のそら)のコメントを付けていますので、翻訳部分は「引用」の扱いだと考えてください。また、それぞれの資料はそれぞれのWebサイト全体からの抜粋ですので、全体を読みたい方は貼り付けているURLから元サイトに飛んでください。

 ちなみに、わたし(夜のそら)個人も、Aロマンティックのスペクトラムにアイデンティティを置いています。ラベルで言うなら、いまはWTFロマンティックが一番しっくり来ています。そういうわけで、Aロマ当事者によるまとめとしても、以下はご覧ください。

1.Arocalypse

【夜のそらコメント】Arocalypse(アロカリプス)は、現在の英語圏での最も代表的なAロマコミュニティの1つです。AセクシュアルにとってのAVENのような位置づけを目指したAロマコミュニティサイトとして、デザインされています。以下に翻訳する箇所は、ちょうどAVENならば「定義」に相当する箇所です。あまり強い解釈を出すことはなく、コミュニティでのかなり一般的な共通理解が示されています。

Aロマンティックについて頻繁に聞かれる質問
Aロマンティックの定義

Aロマンティックとは?
 Aロマンティックとは、恋愛的な指向がないということです。Aロマの人は、他の人に対する恋愛的な指向を経験しません。

恋愛的な指向とは?
 残念ながら、恋愛的な指向についてのただ一つの、合意が取れている定義はありません。最も基本的なことを言えば、恋愛的な指向は二つの要素からなります。一つはクラッシュ(≒ドキドキ・キュンキュン)とか、一目ぼれと言われるものです。もう一つは、他の人とのあいだの長期間の恋愛的な関係を結びたいという欲求のことです。

恋愛的な関係とは?
 恋愛的な指向と同じように、恋愛的な関係についても、それを定義するのは難しいです。20人の人にその意味を 聞けば、おそらく20通りの違う回答が返ってくるでしょう。その回答の多くは、セックスを含むものになるでしょうが、セックスは恋愛的な関係にとってなくてはならない要素では、ありません。恋愛的な指向についてはそのように様々な定義があるので、恋愛的な関係に入っていると言えるための最もシンプルな方法は、あなたやあなたのパートナー(たち)が恋愛的な関係にあることに同意している、ということになります。
 少なくとも、恋愛的な関係は高い水準でのコミットメントを含んでおり、また一般的には、関係性をかたちづくるメンバーは限定されています(ポリアモリーな関係の場合には、メンバーは2人以上になります)。一般的には、恋愛的な関係性は高い水準での身体的な触れ合いを含んでいます。例えば、ハグをしたり、キスをしたり、ぎゅっとしたり、ということです。しかし、これらもまた、恋愛的な関係に常に求められるものではありません。加えて言うなら、こうした活動を含むすべての関係性が、それだけで自動的に恋愛的な関係になるわけでもありません。(抜粋終わり

2.AUREA

【夜のそらコメント】AUREAは、Arocalypseに続いて誕生した、Aロマ当事者たちのウェブコミュニティです。今年(2019年)の春にWebサイトとしてオープンしたばかりです。Arocalypseよりも、情報を綿密に伝えることをまずは目的にしている側面があり、FAQなどが極めて充実しています。そのため、わたしの独断ですが、Aロマについての現時点での最も豊富な情報がここにはあるのではないでしょうか。なお、AUREAは「Aromantic-spectrum Union for Recognition, Education, and Advocacy」の頭文字をとったものです。あえて訳せば「Aロマンティックスペクトラムの連帯――認知と教育、擁護のために」です。以下に紹介する箇所は、「よくある質問(FAQ)」の箇所となります。先ほどのApocalypseよりも少しだけ踏み込んだ説明をAロマについて与えるとともに、Aロマ当事者たちの間にも違いがあるということをはっきり書いている点に特徴があります。

よくある質問:一般的な情報
Aロマンティックであるとは?
 回答:
Aロマンティックは、恋愛的な指向です。それは、恋愛についての経験が規範的な社会の考えから切り離されているような人びとを記述するためのものです。Aロマの人がそうした経験をするのは、一般には恋愛的な魅力をほとんど、あるいは全く経験しないからですが、恋愛嫌悪の感情のせいだったり、あるいは恋愛的な関係性にそもそも興味がないからだったりもします。ほとんどのAロマの人たちは、恋に落ちるということがありません。Aロマの人たちは、恋愛的だとみなされる行動(例:キスなど)を楽しんだり、楽しまなかったりします。恋愛を不愉快なものだと感じたり、感じなかったりします。一人でいることもあれば、パートナーのいる人もおり、また結婚してている人もいます。こういったことは、Aロマの人たちの間でも互いに違っている、個々人の性格に関わることがらです。

Aロマンティックと性的な指向のあいだの関係は?
 回答:
Aロマの人は、どんな性的指向を持つこともありえますし、まったく性的な指向を持たないこともあります。Aロマであることは、基本的には、恋愛に関する魅力に対してその人がどのような関係をとっているかを記述したものであり、それにたいして性的な指向は、性的な魅力に対してその人がとる関係を記述したものです。そういうわけで、両方をともに持っていることが可能なのです。Aロマンティックのスペクトラム上にある人々のコミュニティのなかでは、多くの人が「魅力の分割モデル(split attraction model)」を採用していますが、それは恋愛的な指向や性的指向など、様々な魅力に対する様々に異なる関係(※訳注:どの魅力をどのように経験しているか)を記述するためです。コミュニティの中には、一つの指向だけを自認している(例:Aロマンティック)ひともおり、そうした人たちにとっては、魅力を一枚岩的なものとして経験するのは、ふつうでないことではありません(※訳注:他者から感じる魅力を性と恋愛とに分けて経験しないために「分割モデル」を採用しないAロマがいるということ)。

恋愛的な魅力って、どんな感じがするのでしょうか?
 回答:恋愛的な魅力を感じる、という感情は「どうしようもなく迫ってくるもの」のようにして、描かれてきました。その切迫する感情によって、ひとはその(魅力を感じている)相手のことを客観的に考えられなくなってしまうのです。これは、典型的にクラッシュとか「首ったけ(infatuation)」と呼ばれてきたものです。恋愛感情はまた、その人との恋愛的な関係を望んだり、想像したりすることを含んでいます。たとえその人が、その願望に従って行動するかどうかを決めていないとしても、そうです。Aロマの人たちの大半は、恋愛感情がどういうものなのかを自分の経験に基づいては知っていません。(抜粋終わり

3.サウスダコタ大学:Webコース

【夜のそらコメント】3つめの資料は、サウスダコタ大学のWeb講座からです。サウスダコタ大学は、大学および地域の性の多様性を推進し、また少数派となりがちなセクシュアリティを生きている学生やスタッフの権利を守るための人権講座をウェブ上に開設しています。大学内の人権研修等でも使用していると思われますが、広く一般に公開し、情報リソースとして使えるようになっています。内容は、2010年代くらいに主にオンライン上で定着してきた(カジュアルな意味での)「クィア」コミュニティの理解を基礎に置いています。その資料のなかから以下でご紹介するのは、性的指向と恋愛的指向の区別についての説明です。大学の公式サイトとは思えない充実っぷりです。

性的指向 vs  恋愛的指向

 性的指向と恋愛的指向は、たいていの人にとっては深く絡み合っています。しかし、恋愛的には惹かれていない(「恋に落ちて」いない)相手に対して、身体的に惹かれたり、性的に親しくなることは、あり得るでしょう。また、身体的には惹かれていない相手に対して恋をしたり、恋愛的な魅力を感じたりすることも、あるでしょう。

性的指向
 多くの人にとっては、ジェンダーとセックスとが、誰かを性的に魅力的だと考えるときに最も重要な要素となっています。(以下略)
恋愛的指向
 性的指向は、ある特定のジェンダーの人々に対して性的な欲求を感じる傾向のことですが、ある特定の人々にたいして恋に落ちる、そういった(恋の)傾向をもつということもあるでしょう。私たちはそういった傾向を「恋愛的な指向」と呼ぶことができるかもしれません。それは、特定のジェンダーやセックスの人々と、親密で情緒的な関係性を結びたい、という風に欲求するということです。恋愛的な指向は、私たちが誰に対して愛情を感じるのか、ということに関わっていて、またそれは、私たちがどういった人々と人生をともにし、また家族となろうとしているのか、ということにも関わっていることがあります。
 あなたはどうですか?あなたの恋愛的な指向は、性的な指向と違っていますか?あなたは、ある人のことを身体的には魅力的だとは思うけれど、その人と関係性を結びたいとは思わない、という経験をしたことはありますか?あなたは全然(性的な)魅力を感じない――「化学反応」が全くない――人に対して恋愛的な興味をもったことはありますか?

多くの人が次のような経験をしてきました
・性的なパートナーに求めていることが、恋愛的なパートナーに求めていることと常に同じではない。これはジェンダーを含む。(※注:どのジェンダーに魅力を感じるのか、というジェンダーが、性愛と恋愛でズレることがあるということ)
・誰かに恋愛的に惹かれているからといって、その相手に性的に惹かれているということを常に意味するわけではない。
・性的指向と同様に、ある人の恋愛的な指向はセックスやジェンダーに基づいていることがある。ただしそれは、先に挙げたような(※訳注:ここは訳してません)無数の要素によって左右されることがある。
・すでに恋愛的に惹かれている、もしくは感情的に惹かれている人に対してのみ、はじめて性的に魅力を感じるという人がいる。――デミセクシュアルと呼ばれる。
・モノガモスな人がいる――その人たちは、同時期に一人の人とのみ恋に落ちる。
・ポリアモラスな人もいる――その人たちは、同時に複数の人々と、真摯で親密な関係性を持つことがある。 (抜粋終わり

4.Aces & Aros

【夜のそらコメント】最後にご紹介するのは、「Aces & Aros」です。これは、世界中のAセクコミュニティを横に繋ぐことを大きな目的としているWebコミュニティ・Webサイトです。世界各地で開かれているAセク、Aロマ関連のイベント情報などについて、知ることができます。Aces&Arosの素晴らしいところは、それだけでなく、AセクやAロマに関する基本的な知識を短い時間で学ぶことができる情報リソースを公開していることです。テーマごとに短い単元のようになっていますが、以下にご紹介するのは、恋愛的な魅力と恋愛的な指向についての単元です。性的指向と恋愛的指向がパラレルであるということをはっきり示しているだけでなく、そもそも恋愛するってどういうこと?という質問にも具体的な例を挙げて応えているので、Aロマのわたしでも、読んでいて勉強になります。

恋愛的な魅力と恋愛的な指向
恋愛ってなに?
 
恋愛(romance:ロマンス)は、文化的な傾向や個人的な傾向に応じて様々に違った風に表現される、愛や愛情の一つのタイプです。ある人たちにとっては、その恋愛の表現にはセックスが含まれますが、セックスは恋愛にとって欠かせない要件ではありません。恋愛感情を表現する他のやり方には、次のようなものがあります。

・手をつないだりぎゅっとしたりすることなどの、身体的な触れ合い。
・価値のある時間を一緒に過ごすこと。
・意味付けのある贈り物をすること。
・相手のことをほめたり肯定したりすること。
・責任を共有すること。

 人びとはしばしば、これらの感情を表現することのできる関係性を求めます。誰かがそうした関係を特定の人と望むとき、その欲求は恋愛的な魅力と呼ばれます。恋愛的な魅力は、性的な魅力とは違います。というのも恋愛的な指向は、その相手と性的な行為をするということについての欲求を、そのものとしては含んでいないからです。恋愛的な魅力と性的な魅力はつねに一緒に経験されるものだと、一般には信じられていますが、二つは別々の経験でもあり得ます。誰かがある人とセックスをしたいという欲求を持っていて、その相手と一緒に恋愛関係を長いあいだ形作っているという、そのケースでは、二つの魅力のタイプが重なり合っていることになります。

恋愛的な指向:まとめ
 
人びとは、特定のジェンダーに対して性的な魅力を感じがちで、恋愛的な指向もまた、ジェンダーに基づいた同様のパターンをとることがあります。(…)恋愛的な指向は、ジェンダーに基づいた他者からの魅力を記述するものですから、それぞれの性的な指向に対応する恋愛的な指向があります。例えば次のように。

Aロマンティック:相手のジェンダーのいかんによらず、殆どあるいは全く恋愛的な魅力を経験しない。かつ/もしくは、恋愛的な関係性を持ちたいという欲求を持たない。
バイロマンティック:二つないしはそれ以上のジェンダーから恋愛的な魅力を感じる。
ホモロマンティック:同性のジェンダーに対してのみ恋愛的な魅力を感じる。
ヘテロロマンティック:自分と違うジェンダーに対してのみ恋愛的な魅力を感じる。
パンロマンティック:全てのジェンダーに対して恋愛的な魅力を感じる。もしくは、ジェンダーのいかんによらず、恋愛的な魅力を感じる。

 ホモロマンティックを自認している人は、しばしば「ゲイ」や「レズビアン」などの言葉を使って自分自身を言い表します。また、自分の恋愛的な指向を言い表すために別の言葉(バイ、パン、Aroなど)を使う人もいます。(抜粋終わり

 ――――――――

 以上で、今回のAロマ資料集は終わりです。いかがでしたでしょうか。

 次の投稿から、ここでご紹介したAロマについての知識に基づいて、AロマとAセクを分け隔てる「/」(スラッシュ)の意味について、具体的に考えていきたいと思います。お楽しみに。